過去から現在へ
たまたまリリが図書委員になったのを知り、放課後に図書室に寄ってみた。明日から土日で休みだし、ついでに三冊ほど本を借りていこう。
リリはどういう本を読んでると感心してくれるだろうか。思い切ってオススメを聞いてみるのもいいかも。それで口実を作って、休日はリリの部屋に遊びに行って、アタシ達の間にある長年のズレを元に戻したい。そうすれば、霧島の部屋からリリの部屋に移り住める。相部屋じゃない事を祈ろう。
そんな事を思いながら図書室の本棚に並ぶ本を見て回っていると、二つ先の列に居る二人の姿が隙間から見えた。
リリ。
それと、霧島。
背の高さで霧島の表情は見えないが、リリの表情はハッキリと見える。ウットリと霧島を見上げるリリの姿。
虚しくなった。アタシがリリと昔のような関係に戻りたいと願っていても、今のリリは霧島に夢中だ。同じような関係なら、まだ張り合えたけど、あれはアタシが求めてる関係とは違うもの。
男と女の関係。
つまり、好意を向け合う恋人関係だ。
幼馴染という特別感ある関係が、なんだか急速に色褪せた。
アタシは逃げるように図書館から出ていき、学校を後にした。寮を通り過ぎ、行く当ても無く彷徨い歩き、歩道橋の途中で足を止めた。流れるように走っていく車の数を数えていき、二十台を数えた頃には馬鹿らしくなって、ただ呆然と歩道橋からの景色を眺めた。
「……結局、独りのままか」
いつかリリと再会する事だけを楽しみに今まで生きてきたけど、こんな想いをするのなら、ずっと楽しみにしてた方が良かった。
この想いは一体何だろう。
喪失感?
嫉妬?
どちらも違う。どちらもしっくりとこない。
「ミヤコ」
振り向くと、霧島が歩道橋に上ってきていた。片手を手すりに滑らせながら、ゆっくりとアタシに近付いてくる。
「何かあったかい? 落ち込んでるように見えるよ」
「……別に」
「当ててみせようか。君は、あの図書委員の子と何らかの関係がある。そして偶然、僕と彼女が居た所を目撃し、落ち込んでしまった。察するに、君にとって彼女は、ただの友達ではないのだろう?」
「……気付いてたのか。アタシが図書室に居た事を」
「実を言うと、彼女の名前は知らない。知らないが、君と関係がある事は入学式の朝から察していた」
「……それで?」
「先輩である僕が慰めてあげようと思ってね」
「そうか。なら簡単だ。とっととアタシの前から消えろ」
「君が望むならそうしよう。けれど、本当にそれで気は済むのかい? 夜になる前に、君は僕の部屋に戻ってきてくれるのかい?」
そう言った霧島の声色は、何処か不安を感じた。霧島の方へ顔を向けると、声色から感じ取っていた不安が表情に現れていた。
「ミヤコ。僕は君が居る日常が愛おしい。幸せかどうか。楽しいかどうか。そんな事は関係ない。君の傍に居る時間が、夢のように感じるんだ。いつまでも覚めないでいてほしいと願ってしまう」
「……アンタは、誰からも好かれる。アタシとは正反対だ。水と油ってところだな」
「混ざり合わない関係。素敵じゃないか。どちらにも合わせず、本質を変えないまま同居する関係。それでどちらが水で、どちらが油かな?」
「どうでもいいだろ、そんなの」
「そうだね。どうでもいい話だ。そういう話を僕と君はこれから先も続けていくんだ」
「……なぁ……いや、いい」
【どうしてアタシなのか】
そう言いかけて、言うのを止めた。言ってしまえば、何か取り返しのつかない事になりそうな気がしたからだ。
アタシは霧島のようにはなれない。他人に良い顔をしたり、話したい人と話す気楽さも無い。だから気に入らなかった。
けど、そうじゃない。
アタシは羨ましかったんだ。何処までも進めて、辿った道を引き返す事も出来る。思い出はあっても、その思い出に縋らず、次の思い出を紡いでいく。
「……腹減った。帰る」
「何処に?」
「お湯作れる物はあるだろ? ヤカンとかポットとか。まさかそれも壊れてるって言わないよな?」
「う~ん……壊れてるかもよ?」
「じゃあどうやってテメェはホットコーヒー作ってんだよ」
「流石にバレるか。でもカップ麺は許さないよ! ラーメン食べたいなら、僕が作ってあげる!」
「カップうどん食うんだよ。誰がラーメンなんか食うかよ」
アタシは幼い頃のリリとの思い出に縋っていた。そのおかげで今日まで生き延びてきた。
けど、もう見切りをつけるべきだ。
過去ではなく、現在を痛感しなければいけない。




