空腹
教室に戻ると、アタシの机周辺に人が集まっていた。イジメか?
一人と目が合うと、そこから連鎖するように全員がアタシに視線を向け、続々と押し寄せて来た。
「神木さん! 霧島先輩ともうお近づきになったの!?」
「昨日の夜、霧島先輩の部屋のベランダに居たもんね! 私見たよ!」
「私も!」
「どうやって仲良くなったの!?」
「何話したの!?」
「霧島先輩の部屋に置いてある芳香剤って何だった!?」
あ、イジメだ。
「ま、待て待て! アタシは別にアイツなんかと―――」
「聞いた!? アイツだって!」
「もうそんなに親しげだなんて!」
「もしかして、夜も共に過ごしてちゃったりして!」
「キャー!」
勝手に決めつけて、勝手に盛り上がりやがって。アタシのクラスの連中といい、この学校には霧島の信徒しかいないのか。それも盲目の。
アタシの返答を待たずに盛り上がる門答は、一限目の先生が来るまで続いた。安堵したのも束の間、一限目が終わればすぐにまた集い、そういう繰り返しが昼休みまで続いた。
昼休みのチャイムが鳴った瞬間に教室から飛び出し。囲まれる前になんとか逃げられた。このまま食堂に向かえば、待ち構えているであろう彼女達に捕まってしまう。
「それで屋上に来てたんだね」
「まったく……アンタの所為で、こっちはいい迷惑だよ」
「クラスの子達と打ち解けたようで何よりだ」
「話聞いてたか? アタシはアンタの所為で困ってるんだよ」
屋上で隠れてたアタシの所へ、霧島はやってきた。たまたまというよりかは、ここにアタシが居ると分かっていたかのように。その証拠に、霧島が持ってきた袋には総菜パンが二つとジュースが二つ入っていた。
「コロッケパン、好きなのかい?」
「別に好物ってわけじゃねぇよ。ただそっちのメンチカツパンよりかはマシなだけだ」
「こっちも美味しいよ?」
「美味いのは分かってるけど、臭いがな。メンチカツって揚げたては臭わないけど、冷めたら臭くなるだろ」
「……そうかな?」
「鼻ぶっ壊れてんじゃねぇか?」
それにしても、コイツでもメンチカツパン食うんだな。なんか気取った物しか口にしないのかと思ってた。変な色のパスタとか、鴨の肉とか。
「フフ……」
「なんだよ。なに笑ってんだ」
「いや、なに。君とこうして食事が出来てる事に感動してるんだ。昨日まで無視されてばっかりだったのに、今日はこうして隣でパンを食べてる。それが嬉しいんだ」
「噛み締める程の事じゃないだろ」
「君はもっと自惚れていいんだよ。自慢じゃないが、僕とこうして二人っきりで食事をしたい人間は星の数ほどいる。君は記念すべき初めての人だ」
「ウザいと思えばいいのか、気持ち悪いと思えばいいのか……」
「ハハ! そういう口の悪い所も君の魅力さ!」
早いとこ食べ終わって何処かへ行きたい。コロッケパンって結構顎にくるな。美味い不味い以前に疲れる食べ物だ。
「……神木さん」
「なんだよ」
「名前で呼んでもいいかな?」
「呼べばいいだろ」
「他人事のように言っちゃって」
「アンタの相手は面倒だからな」
「直球だね。それでミヤコ。君は僕をどう呼んでくれるのかな?」
「……霧島?」
「え、名字? それだと仲良しとは言えないじゃないか!」
「仲良しじゃねぇだろ」
「こんなにも会話が続いて!?」
「ここまでのやり取りで仲良しだと思ってるんだったら、だいぶ頭の中お花畑だな」
「そんな……あ、そうだ。今日はスーパーに寄って帰ろうか」
「分かった分かった。分かったから一旦食事に集中しろ。アンタ一口しか食ってねぇじゃねぇか」
どうしてコイツはアタシにちょっかい掛けるんだ? 似た者同士ってわけでもないし、話が合うわけでもない。アタシ以外の生徒なら、どんな話題だって喰い付くのに。
けど、こんな風に誰かと食事をするのはいつぶりだろう。リリが引っ越して以来、学校でも家でも一人だった。次第に味も温度も気にしなくなって、腹を満たす感覚にするのが食事になっていた。
リリ。
いつかまた、あの頃のように一緒に何かを食べて満たされたいよ。




