鍵の在処
目を覚ますと、部屋には霧島の姿が無かった。時計を見れば、八時。
「アタシを置いて行ったか……」
まぁ、その方が気楽だ。見られないし、話しかけられないし。朝くらい心が休まる時間があってもいいだろ。
ジャージに着替え、テキトーな物をパクつこうと冷蔵庫を開けようとした。
「……いや、他人の冷蔵庫を勝手に開けるのは駄目でしょ」
朝食は諦め、せめて水を飲もうとした。蛇口から水を出し、近くにあったコップに注ごうとした。
「……いや、勝手にコップ使うのも駄目か」
霧島め。なんでアタシに声を掛けずに一人で登校したんだ。これじゃあ残されたアタシが何でもかんでも遠慮しちゃうだろ。
仕方ない。朝食も水も諦めて、登校しよう。学校にはいくつか自販機があったし、そこで飲み物を買おう。確か、栄養食のスナックが売られてる自販機もあったはず。
「さて、と……」
部屋から出ようとして、アタシは気付いた。
鍵って、どうすればいいんだろう。
ドア近くの靴棚の上や中に鍵がないか探してみた。隅々まで探したが鍵は見つからず、携帯で霧島に連絡しようとしたものの、アタシはアイツの連絡先を知らない。
「え、ちょっ―――え! どうすんだよ!」
鍵を閉めずに出ていけない。寮は学校の近くにあるとはいえ、完全に安心とは言えない。しかもアタシは居候の身。これで泥棒にでも入られたら、最後に出たアタシの責任になる。
マジでアイツ、なんでアタシを置いて行ったんだ!?
「どうしよう……! あと二十分しかない! 入学早々サボりたくないし、行くか? いや、行けばこの部屋の鍵は開けっぱだ!」
なんで朝っぱらからこんな追い詰められなきゃいけないんだ。昨日、無駄な会話をするよりも、起きる時間とか、合鍵を渡すとかあっただろ。
「走れば五分……! 行って、戻って、行く。合計十五分……いけるな!」
袖を捲り、部屋から飛び出した。余裕を持って登校する人達を追い抜いていき、校門を潜った。
すると、玄関前には呑気に挨拶活動をする霧島の姿があった。
「神木さん! おはよ!」
「はぁ、はぁ……か、鍵……!」
「え? 鍵?」
「アンタの部屋の鍵! 何処にあんだよ!」
「ッ!? か、神木さん! そんなに僕との共同生活を気に入ってくれたのかい!? なら今日中にでも合鍵を作って君に贈らないとだね!」
「違う!! 鍵が無い所為で部屋が施錠出来てないんだよ!」
こうしてる間にも時間が。なんでコイツはコイツで、鍵が閉まってない事を気にしてないんだよ。
「……もういいよ。部屋から何か盗まれても知らねぇからな!」
とは言ったものの、やはり払拭出来ない。アタシの心に居る良心というやつが鍵が閉まってない事を頻りに訴えてくる。
自分の教室を素通りし、階段を上って三年の教室に来た。どのクラスが霧島のクラスだ?
ちょうどアタシの横を通っていった先輩に声を掛けてみた。
「すんません。霧島って人のクラスって何処ですか?」
「よ、呼び捨て……!? 君、一年、だよね? 見ない顔だし……」
「いや、まぁ、そうですけど」
「だったら、先輩にはちゃんと先輩って言わなきゃでしょ?」
「あの、急いでるんです。説教なら今度―――」
「駄目駄目。他の子ならまだしも、あの霧島さんだからね! ちゃんと敬わないと!」
なんだコイツ。霧島って宗教化されてんのか?
「……霧島、先、ぱ……い……!」
「なんでそんなに嫌がってるの?」
「ほら、ちゃんと言ったじゃないですか。で、霧島のクラスは何処?」
「また呼び捨て……えっと、二組だよ。ついでに席は真ん中の最前列ね」
「デケェのに最前列かよ」
「いちいち言葉に棘があるね?」
二組の最前列の席に向かい、机に下げられてるカバンの中から鍵を探した。当然、周囲はザワついた。けどそれだけで、誰も止めようとしてこない。敬われても助けてはもらえない程度か。
カバンを一通り探してみたが、何処にも鍵が無い。ここまでくると、部屋の鍵があるかどうかすら怪しくなってきた。
「探してるのはこれかい?」
視界の外から、誰かが鍵を見せてきた。
振り向くと、そこには霧島が立っていた。
「君に言われた通り、部屋の鍵を閉めてきたよ。それで戻ってきたら、君が熱心に僕のカバンを漁っててさ。その様といったら可愛いのなんの―――ブフッ!」
思わず手が出てしまった。まぁ、殴った感触からして、鍛えてるからこのくらい大丈夫だろ。
「帰る時、アタシの教室まで来いよ? 分かったか?」
「い、良い、パンチだね……!」
「それは本当に悪かったって。お互い気を付けていこうな」
腹を抑えて苦笑いを浮かべる霧島に謝罪してから教室から出た。
朝からドッと疲れたな。




