苦手
行く当ても無いアタシは、ひとまず霧島の部屋に居させてもらう事になった。本当はコイツになんか頼りたくないけど、意地を張っても体を壊すだけ。
どうせ拾われるなら、リリに拾われたかった。
霧島の部屋に入ると、意外にも物は少なかった。派手な飾りも無く、日常的に掃除しているのか、綺麗な部屋だ。ただ、この甘い香りだけは我慢出来ない。頭がおかしくなりそうだ。
ベランダに避難し、外の空気を吸い込んだ。ここから見えるのは、一年の寮。あの寮の何処かに、リリの部屋もあるのか。
「はい。どうぞ」
霧島が紙コップを差し出してきた。中身は、コーヒーだろうか?
参ったな。コーヒーとか苦い物は苦手なんだよな。けど、出された物に文句を言える立場でもないし、そもそもどういう立場であれ、出された物に文句は言えない。
「……なぁ。アンタは、誰にでも優しくするのか?」
「なんだい嫉妬かい? 他人に優しくするのは当たり前だ。そこに特別な感情は無いし、好き嫌いも関係ない。怒りや嫉妬は、自分の事も相手の事も正常に読み取れなくするノイズだ。例を出すのなら、僕の事を嫌う君に対して怒っていたら、君の本質を知れなかった」
その言い方に、少しだけイラッとした。元々気に入らないのは置いておいて、知ったかぶる口ぶりは誰だって癪に障る。
「マトモに付き合いも無いのに、アタシの本質を知ってるって?」
「全部じゃないよ。何百とある鱗の一枚に過ぎない。それを全て知った暁には、僕と君の間に切っても切れない繋がりが生まれる」
「アタシはアンタがどういう人間なのかを知らないし、知りたくもない。となれば、アンタが言う切っても切れない繋がりというものは永遠に得られない」
「初めから諦めてたら成功も失敗も無い。君に関心を持たせてみせるよ」
もっともらしい事を。
「……そのポジティブさ。そこだけは見習いたいね」
一旦冷静にならないと。このままでは手が出かねない。コーヒーは苦手だけど、苦手な物だからこそ冷静になれる。
そうしてコーヒーを飲むと、コーヒーの苦味がジンワリと口の中に広がった。色から察してはいたけど、ミルクも砂糖も無しか。普通、どっちかは入れるか聞くだろ。
「コーヒーは苦手?」
「……別に」
「あ! またそうやって遠慮して。僕の事が嫌いなら、僕に気を遣う必要は無いんじゃない?」
それを知っておきながら、アンタはどうして嫌われてる相手にここまで来れるんだよ。嫌われるのが好きなのか?
そりゃそうか。まだ入学したばかりだけど。霧島は生徒だけでなく教員からも好かれている。誰からも好かれてちゃ、嫌われたくもなる……のか?
まぁ、真意はどうあれ。しばらく世話になる身だ。あまり悪口は言わず、イラッとしても心に留め、一日でも早くこの部屋から逃げよう。




