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気遣い

 なんだ!


 なんなんだ、アイツは! 


「やぁ。おはよう、神木さん。気分はいかがかな?」

「やぁ。こんにちは、神木さん。良かったら僕とお昼を共にしないかい?」

「やぁ。午後の授業お疲れ様、神木さん。君は部活に入るのかな? もし良ければ、僕が部を案内しようか?」


 朝から夕方まで、事あるごとに現れてきやがった。昨日突き飛ばされた事を憶えてないのか? 頭でも打って、部分的に記憶喪失にでもなったのか?


 だとしても、あまりにもウザ過ぎる。ただでさえアタシはアイツの事が気に入らないってのに、こうも前に現れては、いずれ手が出てしまう。


 確か、周りの奴らはアイツの事を霧島先輩と呼んでたな。霧島か。明日からは霧島という言葉が聞こえてきたら、何処かに隠れるか。


 寮の部屋に戻ると、同室の子はまだ帰ってきていなかった。昨日部屋で顔を合わせてから、この部屋に戻ってこない。アタシを見た反応から察するに、あの子はアタシに怯えてるんだろう。まだ自己紹介もしていないのに。


「……そういえば、部屋に置いてある掃除機使ってなかったな」


 この寮には予め生活に必要な物が置かれてる。掃除機や冷蔵庫、テレビとかエアコンとか。昨日はすぐに寝たから試してなかったが、ちゃんと使えるんだろうか?


「……へぇ。結構静かじゃん」


 掃除機のうるさい音は無く、片手で持てる程に軽い。おまけに充電式だから、コンセントに悩まされる事は無い。これが各部屋に置かれてるのなら、学校も太っ腹だ。掃除は面倒だけど、良い物ならその面倒さも軽減する。掃除機でこれなら、冷蔵庫やレンジにも期待出来そうだ。


 掃除機をかけていると、部屋のドアが閉まる音がした。あの子が戻ってきたようだ。


「あ……ご、ごめんなさい!!」


「え?」


「あの、ごめんなさい……! ごめんなさい、私、あの、私が、あの、やります……! 掃除、やります……!」


「いや、別に―――」


「やりますから!!」


 様子がおかしい彼女は、アタシから掃除機を奪い取った。


 しかし、その勢いに自分自身が負けてしまい、掃除機を抱えたままアタシのベッドに倒れてしまった。その際に、吸い込んだゴミを溜め込むカップが外れてしまい、アタシのベッドにゴミがこぼれてしまった。


 その光景に、彼女はアタシ以上にショックを受けていた。なんとかしようと素手でゴミをかき集める彼女を見てられず、彼女の手を掴んだ。


「そんな事しなくていいよ」


「え、あ……ご、ごめんなさ―――」

      

「謝るよりも先に手を洗ってきなよ」


 そう言っても、彼女は俯くばかりで動こうとしない。普通の事を言ってるだけなはずなのに、どうしてこう怖がられるのか。


 少し強引に洗面所に彼女を連れて行き、彼女が手を洗ってる間にアタシはベッドの上に散らかったゴミをまた掃除機で吸い込んだ。多少は残ると思ってたけど、やはり良い掃除機なだけあって、ゴミを全て吸い込んでみせた。この掃除機のファンになりそうだ。


 ゴミを捨て、掃除機を充電すると、彼女が戻ってきた。未だ怯えた表情で俯いたままだ。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 それは謝罪の言葉というより、これから来る暴力に対する無駄な抵抗に思えた。 


 この様子だと、彼女は歪んでしまう。アタシの所為で、他人と関われなくなってしまうかもしれない。


 幸運な事に、アタシの荷物は旅行バッグ一つに収められる程度しかない。テキトーにバッグに詰め込んで、部屋の鍵をテーブルの上に置いた。


「もういいよ。アタシがいなくなるから」


「……え?」


「これだけ部屋数があるんだ。余ってる部屋の一つや二つはあるだろ。だから、もう大丈夫だよ」


 そう言い残し、アタシは部屋から出た。


 余ってる部屋なんか無い。それはきっと彼女も知ってる。気を遣う為に言ったのに、アタシの方が気を遣われたかな。


 寮の入り口前の階段に座り、これから何処で寝泊まりしようか考えていると、声を掛けられた。


「こんばんは。こんな時間にこんな所でどうしたの?」


 見ると、声を掛けてきたのは霧島だった。


「神木さん……!」


 誰とも知らずに声を掛けたのか、アタシだと分かると、霧島は嬉しそうに笑った。


「うわぁ……よりにもよってアンタかよ……」

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