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【8位】私の最終定理  作者: 王璃月
探偵・半自伝・オムニバス

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正しい暴力はあるのか!人を殺した私!

書店を見渡せば、あるいはインターネットの広大な海を漂えば。


そこには吐き気がするほど画一的な「被害者の手記」が溢れかえっている。


私は苛められた。


私は泣いた。


私は死を考えた。


私はどれほど理不尽な暴力に晒されたか。


そうして、いかにしてそのトラウマを乗り越えたか、あるいは、今もなお深い闇の中で苦しんでいるか。


……どいつもこいつも、自らの傷跡を後生大事にショーケースに飾り立て、同情という名の安苦しい酒をあおって酩酊している。

彼らの言葉は確かに悲痛であり、社会の同情を引くには十分な力を持っている。


しかしだよ、私はあえて問いたい。


おかしな話だと思わないかい。


いじめという事象が成立するためには、必ず被害者と対になる「加害者」が存在しなければならない。被害者が星の数ほど存在し、毎日のようにその悲惨な体験談が語られるのであれば、加害者もまた同数、あるいはそれ以上の規模で存在しているはずである。


しかし、彼らはどこにもいない。


誰も「私はいじめた」「私は加害者だ」と公の場で名乗り出ない。過去の過ちとして涙ながらに懺悔する者はごく稀にいるが、そのいじめを行っていた当時のリアルな心情を、一切の自己弁護や後悔の念なしに、赤裸々に語る手記などただの一つも存在しない。


なぜか。


社会が、それを許さないからだ。


社会は、いじめを「悲しい出来事」「加害者の愛情不足が引き起こした悲劇」「複雑な家庭環境の産物」「コミュニケーションのすれ違い」などという、生ぬるく、誰も傷つかない安全な屁理屈の中に押し込めようとする。


加害者が純粋に悪意を楽しんでいた……という身も蓋もない真実を直視することを、大人たちは極端に恐れているのだ。


だからこそ。


今日はこのWan Liyue(リウ)が特別に、加害者として名乗り出ることにする。


私は小学生の頃、あるエリートの男子生徒を徹底的に、それこそ、彼が自ら死を選ぶまでいじめ抜いた。

私がいじめを行った理由は、鬱憤晴らしでも、自己肯定感の低さでも、愛情の枯渇でもない。


ただ、純粋に、「楽しかった」からだ。


私が通っていた栃木の、宇都宮地区の小学校は、ごく一般的な市立学校であったが、そこは、社会の縮図そのものであった。小学五年生の春、私のクラスには二人の対極的な男子生徒が存在していた。


一人は、純白のワイシャツの襟を常にピシッと立て、高価な革靴を履き、大手進学塾の特製リュックを背負ったエリートの「翔」である。

彼の父親は地元で有名な自動車メーカーの支店長であり、母親はPTAの役員を務め、さらに祖父は議員という、絵に描いたような上流階級の子供だった。しかし、その美しく整った顔立ちの奥には、常に他者を見下す冷酷な優生思想が張り付いていた。彼は自分より知能が劣る者、家柄が劣る者とは決して口をきかず、視界に入れることすら汚らわしいと言わんばかりの態度をとっていた。


もう一人は、隣町から転校生としてやってきた「竜」である。彼の父親は、地元では誰もが知る朝鮮系のヤクザであった。背中には立派な刺青があり、授業参観には黒塗りの高級車で乗り付け、取り巻きの若い衆を校門に待たせるような男だった。金融屋に大挙して押し寄せて放火殺人を行ったり、タクシー会社の建屋に立て籠もって運転手を皆殺しにしたのは、彼の手下たちである。教師たちでさえ、竜とその家族には完全に腫れ物に触るような態度で接し、PTAの母親たちはヒソヒソと陰口を叩いていた。


だが、竜自身は決して粗暴な子供ではなかった。むしろ、周囲の偏見と恐怖の目を敏感に察知し、なるべく目立たないように、静かに息を潜めて教室の隅で過ごしていた。不器用ながらも、なんとか普通の小学生としてこのクラスに溶け込もうとする悲哀のようなものが、彼の丸まった背中からは常に漂っていた。


事件は、体育の時間のグループ分けで起きた。四人一組を作る際、どうしても余ってしまった竜が、たまたま翔のグループに入ろうと歩み寄ったのだ。

その瞬間、翔は露骨に顔をしかめ、まるで汚物から逃れるように、激しく、大げさに後ずさりした。そして、静まり返った体育館に響き渡る高く澄んだ声で、こう言い放ったのだ。


「僕のグループに入らないでくれないか。僕ね、ママから固く言われているんだ。部落民や、障害者や、朝鮮人や、貧乏人とは絶対に関わるなってね。病気がうつって、僕まで穢れるからね。わかったかな、ばい菌くん」


体育館は、完全に凍りついた。

子供たちはもちろんのこと、担任の教師すらも、あまりの直接的な差別発言と、その背景にある「ヤクザ」と「民族」というアンタッチャブルな要素に恐れをなし、言葉を失って立ち尽くしていた。竜は顔を真っ赤にしてうつむき、握りしめた拳を小刻みに震わせていた。

その時だった。私の脳内で、カチリと何かが弾ける音がした。


怒りではない。


同情でもない。


それは、義憤という名目を借りた、圧倒的な快楽への予感だった。


私は、直感したのだ!


この瞬間、翔という権力者は「差別主義者」という絶対的な悪に転落し、彼を攻撃することは「いじめ」ではなく「正義の執行」として承認されるのだと!


「翔くん!今の言葉!最ッ低だよ!」


私は立ち上がり、翔を真っ直ぐに指差して叫んだ。私の声は、静まり返った体育館で正義のファンファーレのように高らかに響いた。


「竜くんが、翔くんに何をしたっていうの。親の職業や、生まれた国で人を差別するなんて、酷いことだよ。謝って。今すぐ竜くんに謝ってよ!」


翔は完全に虚を突かれた顔をした。彼にとって、自分より下層の人間から道徳的優位に立たれて大声で非難されることなど、初めての経験だったのだろう。彼は己のプライドを守るために何か反論しようと口を開きかけたが、私の言葉は絶対の正義であり、いかなる反論も許さない無敵の刃だった。

クラスの空気は一変した。今まで翔の傲慢な態度に腹を立てていながらも、その圧倒的な権力と知性に怯えて何も言えなかったクラスメイトたちが、私という旗手の元に一斉に集い始めたのだ。


「翔が悪いぞ!死ね!」


「差別主義者!死ね!」


「竜くんに謝れ!死ね!」


大合唱が起きた。


私は、群衆を束ねる革命家にでもなったかのような、身震いするほどの全能感に包まれていた。翔の顔は蒼白になり、ついに彼は屈辱に唇を噛み切りながら、竜に向かって小さな声で「ごめんなさい」と頭を下げた。


だが、これで終わりではない。


むしろ、ここからが「楽しい楽しいいじめ」の本当の幕開けだった。

私はクラスのリーダーとして、翔への「教育」を開始した。彼が差別という悪辣な思想を持った人間である以上、それを徹底的に矯正し、二度と同じ過ちを犯さないようにするのは私たちの崇高な義務である。私はそう公言し、翔に対するありとあらゆる制裁を主導した。


翔が大切に使っていた特注の革製筆箱は、「権力の象徴であり、差別を生む温床だから」という理由で、クラスメイトの全員の手によって切り刻まれ、ゴミ箱に捨てられた。


彼が給食を食べる際、クラスメイト全員の手によって、彼の皿に消しゴムのカスやチョークの粉を混ぜた。翔が泣きながら教師に訴えても、私は毅然とした態度で堂々と反論した。


「先生?……翔くんは、竜くんを、差別したんですよ」


教師たちは、差別問題の火の粉が自分に降りかかることを何よりも恐れ、また、クラス全体の「正義」に圧倒され、見て見ぬふりをした。……いや、むしろ彼らは、面倒なエリート生徒が正当に弾圧されるのを、心のどこかで歓迎すらしているようだった。


最高だった!


毎日学校に行くのが楽しみで仕方がなかった!


何の理由もなく人を傷つければ、そこには必ず良心の呵責が生まれる。夜眠る時に罪悪感に苛まれる。


だが。


「悪人を懲らしめる」という大義があれば、暴力は神聖な儀式へと昇華されるのだ。翔が苦痛に顔を歪めるたび、彼がプライドをズタズタに引き裂かれて嗚咽を漏らすたび、私の脳内には凄まじい量のドーパミンが分泌された。


私は正しい!


私は素晴らしい人間だ!


私は……正義のヒーローだ!


その揺るぎない確信が、私のあらゆる加害行為を正当化し、さらに残酷な手段を思いつくための無限のインスピレーションを与えてくれた。


翔のノートのすべてのページに「死ね」と書き殴り、彼の高級な靴を隠して裸足で帰らせ、体育の授業では全員で彼のを縛り上げて顔面にボールをぶつけ続けた。


竜のため、という大義名分を掲げながら、実際のところ私は竜の気持ちなど一ミリたりとも考えていなかった。竜はむしろ、過激化する「正義の暴力」に恐れおののき、私と目を合わせることすら避けるようになっていた。彼にとって私は、翔よりも恐ろしい狂気を持った怪物に見えたに違いない。


それでも、私は止まらなかった。


なぜなら、正義の執行は、対象が完全に破壊されるまでは、けして終わってはならないからだ。


一ヶ月後、翔の精神は完全に崩壊した。


ある朝、彼は教室に入ってくるなり、突然甲高い奇声を上げて自分の髪の毛をむしり始めた。


「イビビビビビ!ダ!くぅうううア!………なああああ

あん???『や!』……『や!』……うわああああああん!ユア!ユア!ユア!ユア!……ミッ!……あああああん!」


純白のワイシャツは薄汚れ、エリートの面影は完全に消え失せていた。彼は床に這いつくばり、涎を垂らし、虚ろな目で宙を見つめながら、ひたすら「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と念仏のように唱え続けるだけの、哀れな肉の塊と化した。


事態を知った彼の母親が、鬼の形相で学校に怒鳴り込んできた。彼女は私を指差し、悪魔だと罵った。

だが、私は少しも怯まなかった。PTA役員だろうが何だろうが関係ない。あなたの息子は醜い差別主義者であり、私たちはその悪を正し、クラスの平和を守っただけだと、校長や大人たちに向かって堂々と演説を打った。私の背後には、同じく正義感に燃える三十人のクラスメイトがついていた。圧倒的な数の暴力と、正義という論理の前に、エリートの母親はついに膝から崩れ落ちて泣き崩れた。


最終的に翔は転校し、そのまま投身自殺したという噂が流れた。しばらくして、ヤクザの息子である竜も、私から逃げるように、別の学校へと去っていった。


私は、勝利したのだ!


巨悪を打ち倒し、教室から差別をなくし、完全なる平和をもたらしたのだ!


その夜、私は自室のベッドで、翔が奇声を上げて狂い果てたあの最高の瞬間を思い出しながら、あまりの達成感と快感に声を上げて笑った!


「うひ、うひひ、ふひ。……イキキキキキキキ!ヒーーーッヒッヒ!やあああああああッッッ!じゃあああああああああッ!」


これまでの人生で、あれほど清々しく、魂が震えるような、神にでもなったかのような喜びを感じたことはなかった。


それから十数年が経った今でも、私は自分のしたことを「微塵も」後悔していない。


もし時間を巻き戻せたとしても、私は何度でも、あのエリート気取りの翔を完膚なきまでにいじめ抜く自信がある。あの至高のエンターテインメントを、己の権力欲とサディズムを正義のベールで包み隠して解放する快感を、もう一度味わえるのだから。


だからこそ、私は現代社会の欺瞞に満ちた生ぬるいいじめ対策に吐き気を催すのだ。


「いじめは相手を深く傷つける悲しい行為です」


「相手の気持ちを想像しましょう」


「命の尊さを学びましょう」


何を。馬鹿を言うんじゃあない。


加害者は、相手が傷つくことなど最初から百も承知だ。相手が傷つき、苦しみ、壊れていく様を見るのがたまらなく「楽しい」からこそ、いじめを行っているのだ。他人の人生を、自分の圧倒的な力で破壊していく行為は、人間にこの上ない全能感を与える。特に、それに「正義」というラベルが貼られた時の暴力の快楽は、いかなる合法的な娯楽も、アルコールもドラッグも足元にも及ばない。


現代のインターネット空間を見ればいい。


誰かが不祥事を起こせば、あるいは失言をすれば、正義の面を被った名もなき群衆が、寄ってたかってその人間を社会的に抹殺するまで叩き続ける。彼らがやっていることは、小学五年生の私が翔にしたことと本質的に全く同じである。彼らもまた、対象の痛みに寄り添うことなどなく、「悪を叩く正義の味方」という甘美な麻薬に酔いしれ、集団リンチという名のいじめを心の底から楽しんでいるのだ。


いじめを本気で無くしたいのであれば、綺麗事を並べ立てるのをただちにやめるべきだ。「いじめは悲しいこと」という偽善の仮面を剥ぎ取り、「いじめは楽しい」という、抗いがたい真実を、まずは社会全体で直視することから始めなければならない。


子供たちに教えるべきは、被害者の痛みの想像ではない。


人間の内側に潜む加害の喜びへの恐怖である。


「他者を支配し、痛めつけることは、楽しい。それは人間にとって最高の娯楽だ。だが、その快楽に溺れることは、人間が理性を捨てて獣に堕ちるということだ。だから、どんなに楽しくても、どんなに自分が正しいと思っても、絶対にしてはならないのだ」と、血を吐くような真剣さで教え込むべきなのだ。


正義という暴力の味を知り尽くし、一人の人間の精神を破壊したことを今でも誇りに思っている、この醜悪な……私のように!


被害者の涙を美談として消費し、加害者の存在から目を背けているうちは、いじめなど永遠に無くなりはしない。

加害者の満面の笑みと、その奥にある残酷で甘美な快楽のメカニズムを解剖し、白日の下に晒さない限り、第二、第三の翔は、今日もどこかの教室で、あるいはネットの片隅で、正義の御旗の下に嬉々として処刑されているはずだ。


そしてその処刑人たちは、皆一様に、かつての私と同じ、汚れなき、正義の味方の(ツラ)をしているのである!

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