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虐待され続けて辛かった  作者: Liu
フィクション・ポエム

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34/45

処刑される悪の代理人!

因果応報。

善い行いをすれば善い結果が、悪い行いをすれば悪い結果が返ってくるという、なんとも都合の良い幻想だ。

しかし、私の生きてきた世界には、そのような理は一切存在しなかった。


始まりは、幼少期、小学校から帰宅したある日のことだった。

祖父が経営する錠前会社「タキゲン製造」の宇都宮支店の事務所兼自宅。

その日、私が会社の扉を開けると、家の中は異様な静寂と、それに相反するような張り詰めた緊張感に包まれていた。そして、その静寂を引き裂くように、耳障りな音が響き渡っていた。

流しの水道の蛇口から、勢いよく水が吐き出され続けている音だった。

私は、ランドセルを下ろすのも忘れ、そのまま流し台へと向かった。


水が、もったいない。


ただその純粋な子供心のままに、何の疑念も抱かず、蛇口のハンドルをひねり、水の流れを止めた。

その時だった。


「ジュバヂボッ!ラルパチッ!煮るもだよ?違いましたか?ダバキ?池田ァ!らいましたか?らいまちたか?うーーーーーーーーーー!」


背後から怒声が轟いた。

振り返ると、父が鬼の形相で立っていた。

父は信じられない行動に出た。私がたった今閉めたばかりの蛇口を、再び全開にひねったのだ!


「お耳に入りましたか?でもね、違うッ!早川さんは水の中にいますか!いないのならば、なーらーばー!ポン!……え?」


「え?」


え?

再び、冷酷な水の音が響き渡る。私は何が起きたのか理解できず、呆然と父を見上げた。


「犯人探し!は!ん!に!ん!さ!が!し!犯人、探すの、先!ぷつかつぷつかつぷつかつぷつかつぷつかつぷつかつ…………トゥルルルルルルルルルルルルルルル!タキゲン製造のカズヒデは、今からこう言います!8倍に、します!……面白い?今のダジャレ面白い?『さがしーの、さがすの』ほら!わーっはっはっは!」


父は狂ったように叫んだ。いやいや、殺人事件の現場でもあるまいし、ただの水道の閉め忘れである。水を出しっぱなしにして「現場保存」をする意味など、宇宙のどこを探しても存在しない。

しかし、父の狂った脳内では、それは絶対的なルールとして成立していた。


「じゃあ犯人、お前ーっ。お前が水を出しっぱなしにしたん、だ!はい処刑ー。戦いごっこ開始!カズヒデは、平等ルールで戦います!いちにちょーつつぇ、ににかなえ、さんしがなくて、ごにはっちゃ!ブガブガブガブガブガブガブガブガーン!ミサイル発射!ぶぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐああああああああああああああああんッ!!!……あーたのちかった!……池田ぁ!タキゲン製造五反田本社に連絡ッ!パパにお小遣いちょーだいってぼく、ゆうから!急げーっ!い!そ!げーーーっ!カズヒデ地蔵命令だぞ!ほら!大至急便で!急げッ!!!!!!…………あちかり?ぶちかり?……どっちだっけ?ぴゅんぴゅんちゃんは、みゅうみゅうちゃん?……あれっ?なんでツイドウからミヅが出てるの?……こわい!!!!!!こわいよおおおおんッッッッッッ!!!あ!じゃあお前のせいだね!死ねーーーーーーッ!!!!!!」


父の左手が床に倒れ伏す私の髪を掴み、父の右手が私の顔を何度も殴りつけた!


もちろん、右手の人差し指と中指の間から爪が伸び切った親指を出して、ほおの肉をほじくるように、回転をかけながら、グリ、グリ、グリ、グリと捩じ込むように食い込んでくる。


父は右利きなので、わたしは左頬だけ抉られる毎日だった。


その日も、そうだった!


「違う!私じゃない!私は今、学校から帰ってきたばかりだよ!」


私は必死に反論した。

当然の事実である。私はその時間、小学校の教室にいて、授業を受け、給食を食べ、そして今しがた玄関を開けたばかりなのだ。

物理的に、私がこの家の水道を開けっ放しにすることなど不可能だった。

しかし、父の狂気の前では、物理法則も時間軸も何の意味を持たなかった。


「嘘つきつきつき!じ!び!に!び!お前帰ってくる前、水!出てた!お前朝学校行く前!出しっぱなしにした!そあやまりなちいに!ゆ!ゆーーーっ!ちきちきばんばんって知ってる?ウ!ハ!ウ!ハ!ウ!ハ!わーらあっちゃお!あーいちちゃお!もられらっきーで!ふっふーっ!…………苦しんでいる姿が好きなんだよ。お前、いま、人のためになってるぞ。お父さんは感動した。お前は偉い。…………おピピ様?くるの?……あ、電話!……はい、タキゲン製造宇都宮支店支店長、タキゲンカズヒデでござい……あ!ぱあぱーーーっ!ぱぱ!ぱぱ!お利口さんにしてたからおかねちょーお、だいっ!おかねちょーお、だいっ!部下も子供もみんなぼくを邪魔つるんだよ!……あ、お金くれるの?じゃあ切る…………お酒ッ?スーパー銭湯南大門行くか!福田屋ショッピングプラザ行くか!オリオン通り行……『ユ。』」


「?、??……で。……そんなことないよ!朝はちゃんと閉まってたし、もし朝から出てたら、会社にいた人がいちばん最初に気づくはずじゃないか!」


私が泣き叫びながら正論をぶつけると、父の顔はさらに歪み、彼は私の頬を力任せに張り飛ばした。


「お前が、犯人ではないという『証拠』を出せ。─────────────チンパルキだ、というならばの話ぴーーーーーーーーッ!?」


証拠を出せ。

学校にいたという事実は、彼の中では証拠にはならなかった。


さらに私を絶望の淵に突き落としたのは、周囲の大人たちの反応だった。

保身という名の薄汚い鎧に身を包んだ奴ら社員(てさき)たちは、一人の無力な子供を生贄に捧げることを、なんの躊躇いもなく選択したのだ!


「ええ、カズヒデ様の言う通りです」


「こんな嘘をつくなんて、困った子ですね。早く謝ったほうがいいですよ?」


大人の野郎たちは、口々に、嘘を重ねたんだ!!!!!!


この私が、「その場しのぎでなんとなく生きている無能の大人」を嫌う理由が、すべてがここにあるんだぜ!!!!!!


大人という、醜い生き物の、吐き気を催すほどの醜悪さ、自己中心性、そして、底なしの卑怯さを、私はその時、骨の髄まで理解したんだぜ!!!!!!


水は、流れ続けていた!!!!!!


私の涙と同じように、止まることなく、誰にも顧みられることなく……


あの「水道事件」は、私の人生における地獄の序章に過ぎなかった。あの日を境に、父の中で、そしてこの狂った家族というシステムの中で、一つの強固で絶対的なルールが完成した。


「この世のすべての不都合な出来事は、わたしのせいである」……というルールだ。


当たり前だが、明文化されてなどいない。

だが、確かにそのルールは存在した!


成長するにつれ、その理不尽な責任転嫁は、日常生活の枠を軽々と飛び越え、狂気としか言いようのない魔次元(きちがいわーるど)へと膨張していった!


ある休日、父が楽しみにしていたゴルフが、突然の土砂降りによって中止になったことがあった。父は舌打ちをした後、その濁った視線を私に向けた。


「お前が電磁波ビームを流したから雨が降るんだ。お前のマンダラのさんぜんかいりが、お天気お……お天気おッ!……悪くしたんだ。お前は本当に最低だよな。光りますか?電磁波は?」


光りますか、とは、何か。


よくわからない。


だが、奴は本気で言っていた!


冗談でも、ただの八つ当たりでもなく、彼は心底から「私の存在が気象を操り、自分の楽しみを奪ったし、電磁波もなんだか光る」と確信している目だった!


私は天候すらも操る全能の悪魔として仕立て上げられた!


またある日、父がパチンコで数十万円という大金をすって帰ってきたことがあった。酒臭い息を吐きながら玄関の扉を蹴り開けた彼は、出迎えた私を見るなり、私の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。


「お前が朝、俺を見たから運が逃げたんだ!お前のせいで負けた!空気中の運勢は含有率100!運気がいい人がいたら、50取られる!だから!お前が俺の金を盗んだのと同じだ!!金!返せ!……え!?…………いちにい、さんがりや!にいにい、さんがりや!さんがりやの、でみたすぶれんど!うわーっはっは!面白かった?面白い時は何するんだっけ?……こーーーちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ!!!」


私は、触れたこともない数十万円の借金を背負わされた犯罪者として、その日も理不尽な暴力に耐え続けた!


そして、その狂気はついに、世界の経済動向にまで及んだ。

テレビのニュースで、日経平均株価が大幅に乱高下し、世界同時株安の危機が報じられた日のことだ。父は夕食の席で、突然テーブルをひっくり返した。食器が割れ、熱い味噌汁が私の膝に降りかかったが、父は構わず叫んだ。1時間は叫んでいた。


「うちもーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!ポンッ!日本の景気が悪いのも、株価が下がるのも、全部お前みたいなクズが生きてるからだ!……ミカコーーーッ!!!こいつ今から殺すねーーーッ!!!……お前のせいで日本経済はめちゃくちゃだ!六波羅探題三丁目だそ?わかっぺいるのか?天皇家財閥のタキゲン製造は高橋敬三!高橋敬三はおろまちたかぞう!おろまちたかぞうは、藤原の……徳川の?いや、平のつなよち!平のつなよちモンヴカガク大臣が世界政府と協力して作り上げたから、だからあ……!赤いんだよ!日の丸の赤!だから、お前はい………………ブーチカブチカ!ブーチカブチカ!ブーチカブチカ!ッポン!ブーチカブチカ!ブーチカブチカ!ブーチカブチカ!ッポン!ブーチカブチカ!ブーチカブチカ!ブーチカブチカ!ッポン!ブチカブチカ!ブチカブチカ!ブチカブチカ!ブチカブチカ!ブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガブガ!ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ!ああああああああああああああああああああああ!ぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!チュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュチュ!ツツツツツツツツツツツツ!!!!!!!!!!ッッッッッッッッッッッ────ニャンチョウッ!」


出ました、「ニャンチョウ」!


もはや、笑い話にもならない!


狂人(きちがい)の妄言である!


叔母が言う!


「そ!カッズッちゃーん!カズちゃんは天使ちゃんだから、ぜーんぶ、ゆってること正しいわよぉんッッッグ!!!ウォール街のね、取引も!あたしゃあねっ!フジテレビの海外報道員だったからわかるわあああん!!!」


一人の子供の存在が、ウォール街の投資家たちの心理を操り、株価を暴落させているというのだ!


母が言う!


「ノリコおばさんが言うなら正しいですね!ほら!謝んなさい!電磁波!」


電磁波を謝る……!?


なんだこいつら!?


……しかし。


この密室の家庭においては、それが「真実(ヴェリタス)」だった。


誰も「発狂(きちがいだいうんどうかい)」を否定しない!


誰も「それはおかしい」と言わない!


私は、自分の存在そのものが「罪」なのだと刷り込まれていった!


……気狂いが暴れているのに、誰ひとり「おかしい」と指摘しないし、誰もが父を指差して「カズヒデ坊やは天使ちゃんだから。知的障害者さんは、心の優しいお利口さんだから、かわいいね」と褒め続けるという、恐怖……


私が中学生から高校生へと成長するにつれ、父の理不尽な責任転嫁は、天候や株価といった抽象的なものから、生々しく、決定的に人生を破壊する「現実の犯罪行為」へとエスカレートしていった。


それは、人間の魂が「ど・こ・ま・で・醜・悪・に・な・れ・る・の・か」、という極限の証明であった!


ある時期、父の会社で経費の横領事件が発覚した。

犯人はもちろん父だった。

父は自らの欲望のために会社の金を着服し、それが明るみに出たのだ。普通であれば、犯罪を犯した部下を罰し、警察に突き出すのが筋である。


しかし、父は祖父の息子。

つまり、社長の息子である。

父の狂った回路は別の結論を導き出した。

父は私を裏の自転車置き場に呼び出し、灰皿を私に向かって投げつけた。灰皿は私の額をかすり、壁で砕け散った。


「お前が、ぼくを横領に走らせたんだ!」


父は口角から泡を飛ばして叫んだ。


「ぼくかわいいのに、ぼくが怒られたらどうすんの!お前がね、普段からわりゅい態度、とてるから、ぼくの心がぱちんぽされたたら、会社の金を盗んだんだ!お前!ぼく!犯罪者に!した!お前!犯人だろ!」


他人の強欲と犯罪すらも、私のせいになる。


さらに悍ましい出来事が起きた。

父自身が、歓楽街でトラブルを起こしたのだ。詳しい経緯は伏せられていたが、明らかに……強姦事件であった。もちろん、多額の示談金で揉み消した……という噂が、親戚や会社の幹部の間で囁かれていた。


ある夜、酔い潰れて帰宅した父は、私の部屋に押し入り、ベッドで眠っていた私を引きずり下ろした。そして、私の顔を床に擦り付けながら、地這うような声で呪詛を吐いた。


「俺がね……俺が女に手を出したのはな……お前がおちんちんをいいこいいこしないからだろ?謝れよ!その責任から逃れるなよ!おまえが皆の前に爆弾を置いて、爆弾が爆発したら、それはおまえのせいだろ!謝れよ!ぼくのおちんちんを、きちんとしてよ!ぼく、タキゲン製造の次期社長のカズヒデだよ?」


酒の悪臭と、人間の底知れぬ業の匂いが混ざり合った息が、私の顔に吹きかかった。


「ぼくは障害者だから、おちんちんを気持ちよくするには、酒と女が必要なんだよ!お前が俺をイライラさせるから、俺は外で発散しなきゃならなかったんだ!お前が俺を犯罪者にしようとしたってけと!お前が強姦したのと同じ!謝れよ!犯罪者!」


私は、自分が全く関与していない、父の犯した悍ましい罪の重圧に押し潰されそうになった。世間からは何食わぬ顔で生きている父が、この密室の中では、自らの罪のすべてを私に背負わせ、私を稀代の凶悪犯罪者として罵倒し続けている。


「お前が万引きをしろてゆったからだ!」


「お前がぼくを解雇されるように仕向けたからだ!」


反論する気力は、とうの昔に失せていた。


「私はやっていない」


「私のせいじゃない」


その言葉を発したところで、さらに強大な暴力と、より濃密な狂気の論理でねじ伏せられるだけだ。私はただ、石のように感情を殺し、自らを透明な存在にすることで、この嵐が通り過ぎるのを待つしかなかった。


この地獄のような日々において、私にとって最後の、そして最も残酷な裏切り者は、他でもない「母」であった。

子供にとって、母親という存在は最後の砦であるはずだ。世界中が敵に回っても、母親だけは無償の愛で自分を庇い、狂った現実から救い出してくれる。


そんな、アニメのような淡い期待は、私が物心ついた頃にはすでに、血まみれの泥靴で踏み躙られていた。


母は、父の狂気を止めるどころか、それを誰よりも深く信奉し、増幅させる「最大の共犯者」だった。

彼女は、父の暴力や暴言に対して、一度たりとも私を庇うことはなかった。それどころか、父が私を責め立てているとき、彼女はいつも父の後ろに立ち、まるで汚い害虫を見るような冷酷な目で私を見下ろしていた。


「本当にお前は、お父さんに迷惑ばかりかけて……。どうして生きてるの?まず何よりも、遺産相続をするのが人生の目的でしょ。なら、お父さんが会社で悪さをしないように、お前が代わりに殴られ続ければいいの。この世界の中心は私。ミカちゃーん。ミカちゃーん。ミカコちゃんが世界の中心って言ってみ?……まあいいよ。お前の食事にこれから洗剤を盛ってやる。未来の社長夫人を馬鹿にしたらどうなるか覚えときなよ?」


話は、一切、作っていない。


本当に、母は、こう言っていた。


「一字一句同じセリフではない」という意味としては、これらはデマであり、ウソである。


だが、ちょっと待ってほしい。


私は、録音機ではない。


全ては「ニュアンス」だ。


母は、父は、叔母は、紛れもなく、このようなことを言っていたのは、事実だ。


「ニュアンス」としては、ここに書かれてある話は、紛れもなく、全て、事実なのだ。


父が「お前のせいで雨が降った」と言えば、母は「お前が外に出るからだ」と相槌を打った。


父が「お前のせいで株価が下がった」と言えば、母は「お前の存在が社会に害悪を撒き散らしている」と本気で嘆いた。


父が自らの性犯罪を私のせいにしたときも、母は「お前がお父さんをあんな風に追い詰めたのね。本当に恐ろしい子」と、私を純粋な悪魔として軽蔑しきった瞳で見つめた。


母は、なぜあそこまで父の狂気に同調できたのだろうか?


今となっては、いくつか……推測することは……できる。


一つは、絶対的な権力者である父に逆らえば、自分自身がターゲットにされるという恐怖から、自ら進んで洗脳状態に陥り、私を生贄として差し出すことで自分の安全を確保したという防衛本能。


もう一つは、彼女自身が元から致命的に共感能力が欠如しており、他者の痛みを理解できない怪物であったという可能性だ。


まあ、どちらにせよ、同じだ。


私には、味方は一人もいなかった。


世界は、自分と他人の二種類から構成されており、他人とは男女、つまり父と母のみによって構成され、その世界において、私は「すべての罪の根源」として定義されていた。


私が、他人を必ず、絶対に信用しない理由がここにある。


私は、この文章を読んでいるキミも、いずれは私に対して「チュパカリッ!」と叫びながら殴りかかってくるはずだと、確信している。


そして、その狂気と絶望の年月が極限に達し、私がついにこの家から、この地獄から逃げ出そうと決意した最後の日のことだ。

私は、玄関で背後から声をかけられた。母だった。

私は一瞬、最後に母親としての情を見せてくれるのではないかと、本当に、馬鹿げた、一縷の希望を抱いてしまった。

しかし、母の口から紡がれたのは、やはり、私の魂にトドメを刺す、究極の「呪い」だった。


「もう死んで。」


ただ、無機質な響きだった。


「お前は、お父さんから殴られて、お父さんを静かにさせるという役目から逃げた。私はタキゲン製造から相続できなかった。私はタキゲンアイコから相続できなかった。謝れ。お前の弟は金ズルだから、お前には渡さない。愛してるから。お前は死ね。ま、新しい金と男を持ってきたら、許してやってもいい」


私は何も言い返さなかった。


いや、言い返せなかった。


言葉を発すれば、崩れ落ちてしまいそうだったからだ。


「お前が生きていること自体は、今の時点では、罪なのよ」


母は、はっきりと、そして、決定的な言葉を囁いた。


「自殺しなさい。相続できなかったのも、今あたしがモテないのも……アンタのせい!!……自殺しなさい。……それが、お前が世界にできる唯一の償い。二度と私たちの前に姿を見せないで。死んでちょうだい」


それが、母からの最後の言葉だった。


家を出てから、私は必死に生きた。


過去を封印し、「探偵」という職業に身を投じたのも、あるいは、あの一切の論理が通じない狂気の世界に対する、私なりの復讐であり、防衛本能だったのかもしれない……


世界には、原因があり、結果がある。


誰かが水を出しっぱなしにしなければ、水は流れない。


私が雨を降らせることはできないし、私の表情が株価を暴落させることもない。


他人が犯した罪は、他人のものであり、私の罪ではない。


そんな、当たり前すぎるほど当たり前の現実のルールを、一つ一つ確認し、他人のいざこざを解決することで、私は自分の心が崩壊するのを繋ぎ止めてきた。


しかし、どれほど時間を経ても、どれほど多くの真実を暴き出しても、私の魂の深層に刻み込まれた傷は、決して癒えることはない。


私はまだ、生きている。


だが、本当に生きていると言えるのだろうか?


両親から「お前のせいだ」「死んで詫びろ」と呪われ続け、世界のあらゆる罪を背負わされた私の内側には、温かい血の通った「自分」という存在はとうに消滅している。

そこにあるのは、周囲の悪意を吸い込むためだけに作られた、巨大で空虚な穴だけだ。


涙は流れない。


両親に真実を突きつけ、反省させることなど永遠に不可能だ。


彼らは、私という人間を完全に破壊し尽くすという目的において、完全な勝利を収めたのだから。


私は今日も、この絶望と虚無を抱えたまま、息を潜めて生きていく。


自分が存在してしまっているという、その唯一最大の罪を抱えながら。


救いは永遠に訪れない。私がこの世界から消滅するその日まで、私は彼らの作り出した「絶対的な犯人」であり続けるのだから……

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