表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【8位】私の最終定理  作者: 王璃月
探偵・半自伝・オムニバス

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/32

他人をいじめたいから、絵描きになりたい!

誇張はありますが、9割がた事実です。

これは、私がかつてイラストレーターであった頃の、いや、私が人間としての形を保っていた最後の日の記録である。


世間一般の法律というものは、極めて物理的で、表層的な事象しか裁くことができない。

肉体に刃物が突き立てられ、臓器が機能を停止し、血流が止まり、脳波が平坦になった時、初めてそれを「殺人」と呼ぶ。

なんと浅はかで、想像力に欠けた定義だろうか。


真の殺人とは、肉体を傷つけることなく、その人間の内側に構築された宇宙を完膚なきまでに破壊し、魂の根源を引き裂き、生きながらにして精神を灰燼に帰すことである!


だからこそ、私はここで明確に断言する!


私がイラストレーターという職業を完全に諦め、筆を折り、さらには自らの命すらも断とうと決意するに至ったあの出来事は、単なるトラブルでも、事案でもない。


あれは、紛れもなく、私という人間に対する残酷極まりない「殺人事件」であったのだ!


すべての発端は、一つの巨大な「空洞」との遭遇であった。

とある、五十代のおっさんが、私に接近してきたのだ。「絵を教えてくれ」と。


年齢というものは、通常であれば、その人間がこの世界とどれだけ格闘し、どれだけの経験と知恵を蓄積してきたかを示す指標となる。しかし、このおっさんにはそれが全く当てはまらなかった。彼は私よりも三十年も長くこの地球上で酸素を消費し、飯を食い、排泄を繰り返してきたというのに、その内面には何一つの「蓄積」が存在していなかったのだ!


彼は、人生において何事にも真面目に取り組んだことがなかった。


自らの手で何かを生み出す苦しみも、限界を超えるために血反吐を吐くような努力も、一切知らなかった!


彼の五十年の人生のすべては、ただひたすらに「他者への寄生」と「安全圏からの投石」で構成されていた!


努力し、汗を流し、何かに懸命に挑んでいる人間を見つけては、鼻で嗤い、嘲笑する!


ネットの海を漂い、目についたニュースの表面だけを掬い取っては、したり顔で批判の言葉を並べ立てる!


そして、自分より声の大きい批判者がいれば、無批判にそれに追従し、肯定の声を上げる!


自らの意志も、思想も、哲学もない!


ただ、他者の熱量に反応して冷や水を浴びせることだけで、自らの存在意義を確かめているような、魂のレベルでの「ぶつかりおじさん」であった!


実体を持たない、他人の影を踏むことでしか己の輪郭を保てない、悲しき、しかし極めて悪質な虚無!


それが、そのおっさんの、正体だった!


そんな人間が、なぜ、私から絵を学ぼうとしたのか?

彼は、ひどく淀んだ、しかし妙に熱を帯びた目で私にこう言ったのだ。


「これまでの人生は駄目だった。だから、絵を学んで、人生を立て直すつもりなんだ。本気でやりたいんだッー!」


ここで、私は致命的な過ちを犯した!


私は、彼の中にわずかに残っているかもしれない「善性」を、いや、「人間性」というものを信じてしまったのだ!


「五十年間、泥水をすするように生きてきた人間でも、ついに何かに目覚め、真人間になろうとしているのかしら?」


そんな、三文芝居のような感傷を抱いてしまった。私は、哀れな寄生虫が、ついに自らの足で歩き出そうとしているのだと勘違いし、彼に絵を教え始めた。


それが、私の魂に対する死刑執行のサインだとは夢にも思わずに……!


私は誠心誠意、彼に向き合った!


絵の技術だけではない!


一本の線を引くことの重み、形を捉えるための観察眼、色彩が持つ感情!


それらを、手取り足取り教えた!


そして何より、彼から染み出しているその腐った精神の根を断ち切るために、「人生」そのものを教えようとした。


「他人を、やたらに否定してはいけません」


「おかあさんを、やたらにぶん殴ってはいけません」


「真剣に生きている人を、やたらに冷笑してはいけません。それは、自分自身の魂を削る行為です」


私は、彼の乾ききった大地に、懸命に水を注ぎ、種を撒こうとした。少しでも、彼の中に「生み出す者の誇り」が芽生えてくれることを祈って。

だが、彼から返ってきた言葉は、私の頭蓋骨をハンマーで叩き割るような、おぞましいものだった。


「僕の人生を変えてください。先生が、僕のおかあさんになって、人生を直して、先生が頑張って稼ぎ、僕の人生を変えてください。おかーさんになって。お、かーさん。お!かー!さんッ!絵が上手くなったら、何しても良くなるんだ!だから、もっと暴言が吐ける!暴言を吐くために、ぼくは絵描きに、なりたいッ!」


吐き気が、した。


猛烈な嘔吐感が、私の胃袋を駆け上がった。


彼は、絵を学んで自立しようなどとは、一ミリも考えていなかったのだ!


彼が探していたのは、指導者ではない!


彼という巨大な虚無を満たし、彼の代わりに苦労し、彼の代わりに汗を流し、彼の代わりに金銭を稼ぎ、彼を無条件に肯定してくれる、都合の良い「新しい母親」だったのだ!


「お前が頑張って稼ぎ、俺の人生を、変えろ」


お前は売れないホストか!?

いや、お母さん専門のホストだ!

家から一歩も出ない、子供部屋に潜む、たかし君じゃねえかッ!


……言葉の裏にある、圧倒的な他責思考と、自己中心的な幼児性。


五十年間生きてきて、他者を自分の人生の尻拭いをするための道具としか認識していない、その、精神構造。


この時、私は直ちに彼を切り捨て、逃げ出すべきだった。

完全に手遅れの汚物として、視界から消し去るべきだったのだ。

だが、私はまだ、自分の「優しさ」という名の呪縛に囚われていた。


私は絵を教え続けた。


ひとしきり教え込んだ後、私は彼に最後のチャンス、あるいは引導を渡すつもりで、最終試験を課した。


「今まで教えたことをすべて注ぎ込んで、真剣に、本気で、一枚の絵を描いてきなさいよ」


私は待った。

彼が、どれほど拙くても、どれほど歪んでいても、彼自身の魂の形をキャンバスにぶつけてくることを祈りながら。


しかし、数分後!


数分後だぞ!


彼が私の前に提示してきたものは、私の想像を絶する、いや、人間の理解を超えた「冒涜」そのものであった。


それは、絵ではなかった。


ただの汚れ。


ただの汚物。


あえて、意図的に、でたらめに線を引いた痕跡。


教えた技術など一切使わず、ただキャンバスを塗りたくるように、弄り回すようにしてつけられたシミ。


それはまるで、安全な上の階から、下の階で必死に生きている者たちに向かって、ヘラヘラと笑いながら薄汚い涎を垂らして汚すような、純粋で、悪意に満ちた「嘲笑の結晶」であった。


彼は、そのゴミを私の顔の前に突きつけ、悪びれる様子もなく、むしろ勝ち誇ったような顔でこう言い放ったのだ。


「5分で描いたから!僕に描けるわけねえだろ!そんなに絵が描きたいなら、テメェが描け!」


その瞬間、私の中で、何かが決定的に、そして永遠に砕け散った。


私は、絶望した。


絶望という言葉の本当の意味を、世間の人々は分かっていない。


絶望とは、自分の才能の限界にぶつかって苦痛を感じることだけではない。


試験に落ちたり、恋人に振られたりして悲しむことではない。


そんなもん、生きている証だ!


そんなもんは、ただの通過儀礼に過ぎない!


真の絶望とは!


他人が、自分の理解を遥かに超えた、馬鹿を超えた、究極の、破滅を呼ぶ、悪魔的な馬鹿であることに直面した時に生じる、「恐怖」と「戦慄」のことなのだ。


どれほど言葉を尽くしても、どれほど誠意を尽くしても、絶対に、永遠に、一ミリも届かない、絶対的な断絶。


相手の瞳の奥底に、共感も、理性も、良心も存在せず、ただ他者を食い物にすることしか考えていない爬虫類のような冷たさを見た時。


その存在の底知れなさ、人間としての機能の完全な欠落に気がついた時、人は、その先にある底なしの「暗黒」を覗き込む。


そして、その暗黒の底に、「死」を直感するのだ。


この世界には、対話が不可能な怪物がいる。


人間の顔をして、人間の言葉を喋りながら、その本質はただ他者を破壊し、エネルギーを吸い取るだけのブラックホールが存在する。


私は、目の前にいるそのおっさんから放たれる、圧倒的な「人生の死」のオーラにあてられた。彼が五十年間蓄積してきた無意味さ、空虚さ、そして悪意のすべてが、強烈な放射能のように私の全身を貫いた。


だって、だよ。


例えるならよ。


必死に勉強した果ての中卒は、でたらめに受験して東大に受かるより、はるかに価値があるわけですわよ。


それはもちろん、1日かけて描いた絵が、園児の落書きだとしても、それは、魂の勝利者という意味なわけだよ。


数分で描いた上手い絵は、上手いかもしれないが、冒涜寄りなんだ。


だが、こいつは。


数分で汚物を描いて、私に、叩きつけてきたのだよ。


絵が上手いから何しても良いなどと言う人がいる。


または、金持ちだから何をしても良いと言う人がいる。


あるいは、障害者だから何をしても良いと言う人がいる。


それらはすべて、悪だ。


だが、こいつは。


その悪の段階にも達していない、「闇」だ。


「闇」


私は、「真剣に生きろ」と教えたのに。


こいつは、「闇」を叩きつけてきた。


なんだ、これは。


もう、無理だ。


無理だよ。


こんなものが跋扈する世界で、これ以上、生きることなどできない。


誠実に生きようとすることが、これほどまでに残酷に、「踏みにじられる」世界に、私が存在し続ける理由は、ない。


私は、自らの命を絶つことを決意した。


季節、冬。


場所、北海道。


気温、マイナス15度。


……窓の外は、すべてを白く塗りつぶす猛烈な吹雪が吹き荒れる、絶対零度の地獄であった。


私は、薄着のまま家の外に出た。


狂風が容赦なく私の体温を奪い、皮膚をナイフのように切り裂く!


まつ毛が凍りつき、視界が白く染まっていく!


私は、雪の吹き溜まりに身を横たえた!


死ぬ!


だが、これでいい!


この冷たさが、あの男から受けた汚らわしい精神の強姦を浄化してくれる!


私の身体の機能が一つ、また一つと停止していくのを感じながら、私は静かに意識を手放した。


だが、悪魔は、またしても、私を簡単には死なせてくれなかったのだ!


私は仮死状態のまま発見され、病院のベッドの上で、チューブに繋がれた状態で意識を取り戻してしまったのだ……


生き返ってしまった。

あの不条理と悪意に満ちた世界に、再び引き戻されてしまったのだ。


そして、真の拷問はついにここから始まった!


退院し、心身ともにボロボロになり、自室で死体のように横たわっていた私のスマートフォンが鳴った。画面には、あの男の名前が表示されていた。着信音そのものが、私の神経をノコギリで挽くような激痛をもたらした。

私は、何か……「呪い」に操られるように電話に出てしまった。

電話の向こうから聞こえてきたのは、私が自殺未遂をしたことなど微塵も気にかける様子もない、あの爬虫類のような平坦で、要求だけを突きつける声だった。


「僕の好きなアニメキャラのエロ絵を描いてよンンンッ!ね!レイプ絵をッ!はーやーくーッ!」


私の脳の血管が何本か千切れた音がした。

この、破滅のおっさんの面の皮は、はたして何枚あるのか?何層の鋼鉄で覆われているのか?自分が破壊した人間に対して、平然と、無邪気に、自らの欲望を満たすための労働を要求してくる。罪悪感という機能が、初めから脳内にインストールされていないのだ。


本来であれば、怒り狂い、電話を叩き壊すべき場面だ。


だが、その時の私は、もう怒るエネルギーすら残っていなかった……


絶対的な不条理を前にして、私の精神は完全に麻痺していた……


「あ、もんにちは、ああ、たーぎさんね。ああ、ありあとね、ははっ、あーったよ……」


私は、虚ろな声で答え、再びペンを握った……


それは、私にとって、最後の絵だった。


あの男の要求を満たすためではない。


この狂った社会、誠意が嘲笑され、悪意が肥え太るこの地獄のような世界に対する、私からの「遺書」であった。


私は、残された生命力のすべてを振り絞り、その、百合というジャンルの、ゆるい、アニメキャラクターを描き上げた……


キャンバスには、私の血と、涙と、嘔吐と、絶望のすべてが塗り込められていた……


一見すれば普通のイラストに見えるかもしれないが、その線の奥底には、私という人間の断末魔の叫びが定着されていた……


私はその絵を、あの男に送りつけた。


おっさんは、「ん。」とだけ短いメッセージを残し、それきり深い闇の中へと姿を消した。

自分の欲求が満たされれば、宿主の生死などどうでもいいのだ。彼はまた、次の犠牲者を探してネットの海を漂い始めたのだろう。


私は、これで終わったと思った。


私の魂の葬式は、これで済んだのだと。


だが、社会という巨大な狂人たちの群れは、死体となった私を、決して見過ごすことはなかった!


私が最後の証として、その、遺書たるイラストを投稿した瞬間、暗闇から無数のハエが湧き出すように、怒りのオタクたちがついに、一斉に、私に襲いかかってきたのだ!


彼らは、私がどのような地獄を味わい、どのような思いでその絵を描いたかなど、一切知ろうとしなかった。彼らにとって、イラストレーターとは、自分たちの安っぽい欲望を満たすための、無料の自動販売機でしかなかったのだ。


通知が鳴り止まない!


画面は、醜悪な文字列で埋め尽くされていった。


「なんだこの絵。このキャラクターの魅力が全く分かっていない!」


「この絵は本気で描いていない!手抜きか?死ねボゲッ!」


「原作リスペクトがない!不誠実!こんなゴミを描くなら自殺しろ!」


「俺の嫁が、解釈違い!お前の内臓を引き摺り出して殺してやる!」


……何故だ?


私は、血の涙を流しながら、モニターに向かって叫んだ。


何故だッ!!!


私は誰よりも真摯に向き合っていた!


絵に対しても、人間に対しても!


あの腐りきったおっさんに対してすら、私は最後まで誠実に、自分の魂を削って向き合ったのだ!


その結果!なんだ、これは!!!


精神を破壊され、雪の中で凍死しかけ、それでもなお、最後の力を振り絞ってこの絵を完成させたのだ!


これ以上の誠実さが、いったい、この世界のどこにあるというのだ!!!


だが。


私の慟哭は、誰の耳にも届かなかった。


社会は、画面の向こう側の群衆は、私の血をすする吸血鬼の群れだった。彼らは自らの「解釈」という、いかにもその場しのぎの、「オナニーをする正しい理由」を、薄っぺらな正義を、これみよがしに振りかざし、傷つき倒れた私をさらに責め立て、石を投げ、集団で私に自殺を推奨した。彼らは、正義の執行者の顔をして、他者をリンチすることの快楽に酔いしれていた。


私は部屋の隅で丸まり、自分の身体を抱きしめて震えることしかできなかった。


もう、誰も信じられない。


人間の形をしたものすべてが、私を殺しに来る悪鬼に見えた。


そして、その究極の不条理の連鎖に、最後にして最悪のトドメが刺された。


私が恐怖と絶望で息を潜めていたその時、玄関のドアが乱暴に開け放たれる音がした。


現れたのは、重度の精神障害を患っている、私の父であった。


父は、まともな会話が成立しない人間だった。


彼もまた、私の人生に重くのしかかる、理不尽な重力の一つであった。


父は、部屋の中でうずくまり、泣き叫ぶ私を見るや否や、心配するどころか、突如として奇妙なステップを踏み出し、これみよがしに、狂気に満ちた歌を大声で歌い出したのだ!


「お前はホタテの貝殻のように、無駄な存在だ!イーボッ!イー!ボッ!天皇家三代将軍!徳川の……徳川の……なんだっけ?足利の、うじがじ、おなーりーッ!」


鼓膜を破るようなダミ声。


「さあ!いくぜッ!チュクチュクパンチパンチパンパン!チュクチュクパンチパンチパンパン!」


父は、見えない敵と戦うように、あるいは私を嘲笑するように、空中に向かって狂ったように拳を突き出し始めた。


「死ね!死ね死ね!オラウリ!オラウラ!いっしょにあっそびーましょっ!オラウリ!オラウラ!いっしょにあっそびーましょっ!」


血の繋がった父親からの、直接的な死の宣告。


「ぼくは社長になる!ディーディディディ!ぴぴぴーっ!チュパカリ!違うッ!チューパン・カーリィだよ?……いましたよォッ?ピ。はいこちら川崎支店、カズちゃんでーす!プチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュプチュ……謝れ!謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ!……なんでぼくはここにいるんだッ!?なんで北海道にいるんだッ!?てめえ!おしっこ発射するぞ!謝れ!」


意味を成さない擬音の羅列。論理の完全な崩壊。

目の前で繰り広げられる、血を分けた親の、正気を完全に失ったグロテスクな舞踏と奇声。


私は、怯えた……


底知れぬ恐怖に、声も出ず、ただ目を見開いて、その異形の姿を見つめることしかできなかった。


外からの悪意。ネットからの暴力。そして、内なる血族からの完全な狂気の発現。


私の世界には、逃げ場などどこにもなかったのだ。


あの日。


あの一瞬において。


私は、完全に死んだ。


肉体はまだ呼吸をしているかもしれない。心臓はまだ血液を送り出しているかもしれない。


だが、私の魂は、紛れもなく、完全に、死滅したのだ。


心が、死んだのだ。


真面目に、他者に対して誠実に、魂を削って生きた結果が、これだ。


社会は、優しさを持つ者を「弱者」と呼ぶ。


他者の痛みに寄り添い、誠実に生きようとする者を、利用し、搾取し、最後には骨までしゃぶり尽くして「自己責任」という言葉で切り捨てる。


そして、寄生虫のように他者のエネルギーを吸い取り、安全圏から石を投げ、狂気の中で踊り狂う者たちこそが、この世界では「強者」として生き残るのだ。


馬鹿どもは、私を弱者という。


ああ、そうだろう。


私は弱者だ。


この、狂気と混沌と悪意と不条理だけで構成された、地獄より恐ろしいこの世界において、「人間としての心」を持ち続けてしまったこと自体が、最大の弱点であり、致命的な罪だったのだから。


私は今、死体として生きている。


もう二度と、ペンを握ることはない。


もう二度と、人に優しくすることはない。


もう二度と、この狂った世界に、何かを期待することはない。


私は、深い、深い、永遠の暗黒の底で、ただ己の肉体が完全に腐り果てる日を、虚無の中で待ち続けている……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ