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コミカライズ決定【8位】ヴェリタスの最終定理7 番外編 THE ORIGIN  作者: 王璃月
探偵・半自伝・オムニバス

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23/31

半殺し!私は処刑された!そしていま、試されるヴェリタス!

信用。


その二文字が、どれほど脆弱で、どれほど空虚な幻影であるかを、私は骨の髄まで、いや……砕け散った骨の破片の一つ一つに至るまで、完全に理解させられた!


人間と人間が結びつくという事象そのものが、根源的な誤りであったのだ。我々は、互いを理解し合えると勝手に錯覚し、言葉という勝手な道具を用いて、空中に見えない橋を架けようとする。しかし、その橋は決して繋がらない。


妄想だからだ!


繋がっているように見えるのは、光の屈折が生み出した蜃気楼に過ぎない!


その蜃気楼の上を歩み出し、足元に何もないことに気づいた瞬間、人は底なしの奈落へと真っ逆さまに墜落していく。私は、その奈落の底で、ついに、全身を滅多うちにされ、血と泥にまみれながら、この残酷な真理(ヴェリタス)を噛み締めている!


これは、私という存在が完膚なきまでに破壊され、ただの肉の塊、あるいは意志を持たない残骸へと成り果てるまでの、最期の、絶望の記録である!


事件の始まりは、あまりにも些細で、あまりにも日常的な、取るに足らない依頼であった。


私は探偵として、日々、他人の隠し事や、嘘や、薄汚い欲望の残骸を拾い集めて生きている。だが、その時の私は、探偵としてではなく、一人の「友人」として、その場に呼び出されていた。


いや。「友人」だと「思い込んで」いたのだ!


私の前に座っていたのは、その飲食店の店長を務める女であった。彼女は、いつものように、徹底して無駄を省いたモノクロームの装いに身を包んでいた。


漆黒のジャケット。


雪のように白いブラウス。


そして、その冷徹なまでの美貌を隠すように、分厚い黒縁眼鏡をかけていた。


黒縁眼鏡の奥にある彼女の瞳は、常に凪いだ水面のように静かで、一切の感情を読み取らせない。私はその静けさを、知性と、そして私に対する信頼の証だと思い込んでいた。


……愚か極まりない、「勘違い」であった!


「財布。盗まれたの。探して」


黒縁眼鏡の奥の瞳が、私を真っ直ぐに捉えて言った。その声には、怒りも、焦りも、悲しみも含まれていなかった。ただ、事実だけを淡々と告げる、機械のような冷たさがあった。盗まれたのは、店のレジ金が大量に詰め込まれた、分厚い長財布だという。昨夜の営業終了後、確かに事務所の机の引き出しにしまったはずのそれが、今朝になって忽然と姿を消している。店のスタッフの誰かが持ち去ったのか、あるいは外部からの侵入者か。彼女は、公的な組織の介入を嫌った。身内の恥を晒したくない、あるいは、介入によって店の営業に支障が出ることを恐れているのだと、私は勝手に解釈した。そして、探偵であり、友人でもある私に、秘密裏の探索と事情聴取を依頼してきたのである。


私は、友人の窮地を救うという、今思えば虫唾が走るほどの独りよがりな自己満足に胸を張って、その依頼を引き受けた。私は直ちに、その重苦しい空気が漂う飲食店の中で、調査を開始した。


店の奥にある事務所は、窓一つない閉鎖的な空間だった。古い油の匂いと、帳簿の埃の匂い、そして微かに漂う彼女の冷たい香水の匂いが混ざり合い、息苦しさを醸し出していた。私は、財布があったとされる机の周辺を、這いつくばるようにして調べた。引き出しの立て付け、床の傷、カーペットのわずかな繊維の乱れ。しかし、そこには「何かが盗まれた」という決定的な痕跡が、不自然なほどに欠落していた。こじ開けられた形跡もなく、物色がなされた乱雑さもない。まるで、最初からそこに財布など存在していなかったかのような、完璧な空白が広がっていた。


私は、店のスタッフたち一人一人を、狭い休憩室に呼び出し、事情聴取を行った。彼らの顔には一様に、疲労と、不信感と、そして私という異物に対する警戒心が張り付いていた。アリバイを聞き出し、目線の動きを追い、声の震えを探った。ある者は雄弁に自らの無実を語り、ある者は押し黙り、ある者は他人の名前を挙げて責任を逃れようとした。しかし、彼らの言葉のどれもが、事件の「核心」には触れていなかった。彼らの証言をパズルのように組み合わせても、財布の行方を示す一枚の絵には決してならなかったのだ。


数時間が経過した。


探索は完全に手詰まりとなった。私の足元には、何の意味もない証言のメモと、無数の吸い殻だけが散乱していた。私は、重い足取りで、彼女の待つ客席へと戻った。

営業前の薄暗い店内。彼女は、店の奥の最も影の濃い席に座っていた。モノクロームの服が、暗闇に溶け込んでいるようだった。黒縁眼鏡のレンズが、僅かな光を反射して、鋭く光った。


「見つからなかった」


私は、敗北感と共にそう告げた。友人としての期待に応えられなかったという、滑稽な罪悪感すら抱いていた。


「そう。残念でしょう。だがね、見つかるはずは、ないのだわよね!」


「はあ?」


彼女の口から出た言葉は、私の予想を完全に裏切るものだった。彼女の声のトーンは、先程までの冷たさから一変し、どこか歓喜を帯びた、粘り気のある響きを含んでいた。


「なぜならば。財布なんて、最初から盗まれていないのだから!」


私は、彼女の言葉の意味を理解できず、ただ立ち尽くした。財布が盗まれていない?では、私が費やしたこの数時間は何だったのか。あの事務所の調査は、スタッフたちへの尋問は、全て無意味な茶番だったというのか。

彼女(しょけいにん)は、ゆっくりと立ち上がり、私の方へと歩み寄ってきた。


「なくなったのは、財布じゃない。あの事務所の隅にあった、小さな金庫よ。そして、その金庫を盗み出したのは、他でもない、あなたよ」


彼女の口から放たれたその言葉は、私の鼓膜を震わせ、脳を通り抜け、私の存在そのものを否定する致命的な刃となって突き刺さった。


「ゆかり。あんた……どうしたんだよ。いったい、何を言っているんだ?」


私の声は、ひどく掠れていた。身に覚えのない罪。あまりにも荒唐無稽な濡れ衣。私は、昨日から今日にかけて、この店に足を踏み入れてすらいない。金庫の存在など知る由もない。私は友人として、彼女を助けるためにここに来たのだ。


なぜ、私が泥棒に仕立て上げられなければならないのか?


「証拠。あるのよ。スタッフ全員がね、あなたが盗んだと証言しているわ。あなたがこの店をうろつき、何かを探り、そして金庫を持ち去ったのだと」


防犯カメラの映像?


スタッフの証言?


全てが嘘だ。


全てが、私を陥れるために用意された完璧な偽造だ。彼女は最初から、私に罪をなすりつけるためだけに、私をこの店に呼び出したのだ。「財布が盗まれた」という依頼は、私を現場に留め置き、スタッフたちに「怪しい動きをする探偵」という偽りの記憶を植え付けるための、悪辣な罠だったのだ!


「おい、冗談だろうよ……?私たちは、友達だったじゃないか!」


私が絞り出した悲痛な叫びを、彼女は鼻で笑った。


「友人?幻想。あなたはただの、駒よ。私の個人的な楽しみのための、ね。まあ、金庫はここにあるけども。何も盗まれてなどいない。証拠もない。それじゃ、死になさい」


その瞬間、店の奥の扉が開き、複数の足音が響いた。現れたのは、巨躯を持つ数人の男たちだった。彼らの手には、鈍い光を放つ金属製の棒や、使い古されたバールが握られていた。彼らの目には、怒りも憎しみもなく、ただ「作業」をこなすだけの無機質な暴力の光が宿っていた!


私は逃げようとした!


しかし、背後には既に退路はなかった!


男たちが一斉に私に襲いかかってきた!


最初の打撃が、私の膝を砕いた。骨が砕ける嫌な音が、私の頭蓋骨の内側に響き渡った。痛みが脳に到達する前に、次の打撃が腹部を捉えた。息が詰まり、私は冷たい床に崩れ落ちた!


そこからは、終わりのない地獄だった!


無数の蹴りが、棒による殴打が、雨あられと私の肉体に降り注いだ。私は丸まり、頭を抱え、ただ耐えることしかできなかった。


「なんなんだよ!やめろ!……た、頼む……」


私は血を吐きながら懇願した。しかし、男たちの暴力は止まらない。彼らは、人間を殴っているのではなく、ただの肉の塊を解体しているかのように、淡々と、そして執拗に私を破壊し続けた!


私は薄れゆく意識の中で、彼女の姿を探した。彼女は、血と泥にまみれて這いつくばる私を、少し離れた安全な場所から見下ろしていた。モノクロームの服には一滴の血も跳ねておらず、黒縁眼鏡の奥の瞳は、冷酷な好奇心と、サディスティックな歓喜に満ちていた。


友人(おともだち)


その言葉の響きが、これほどまでに醜悪で、おぞましいものだと、私は初めて知った。彼女は、金銭のために私を陥れたのではない。保身のためでもない。


ただ、なんとなく、純粋に、自らを信頼して近づいてきた人間を罠にはめ、暇つぶしとして、暴力によって徹底的に蹂躙し、その絶望する姿を見るという「個人的な楽しみ」のためだけに、この大掛かりな罠を仕組んだのだ!


人間の悪意とは、時として理由を必要としない!


ただ他者を破壊すること自体が目的となる、純粋な悪が……悪が、存在するのだ!


どれだけの時間が過ぎたのかわからない。私の肉体は完全に原型を留めず、痛みという感覚すら麻痺し、ただ冷たい死の淵を漂っていた……


男たちの手が止まった。彼らは、動かなくなった私を、ゴミ袋を引きずるようにして店の裏口へと運び出した。冷たい夜の空気が、開かれた扉から流れ込んできた。

外は、生ゴミと腐敗した油の悪臭が漂う、薄暗い路地裏だった。彼らは私を、巨大なゴミ捨て場の中へと無造作に放り投げた。腐った野菜の感触、割れたガラス瓶、得体の知れない汚水。私は、都市が吐き出した不要物の山に埋もれた。もはや人間ではなく、ただの廃棄物だった。

薄れゆく視界の中で、ゴミ捨て場の縁から私を見下ろす彼女の顔が見えた。街灯の光を背にした彼女の姿は、漆黒の死神のように見えた。黒縁眼鏡が光を反射し、彼女の表情を完全に隠していた。

彼女は、血反吐を吐きながら痙攣する私に向かって、静かに、そして恐ろしいほどに穏やかな声で言った。


「人を。信用しないことね」


しかし、彼女の言葉はそれで終わりではなかった。彼女は、ゴミ虫を見下ろすような冷え切った目で、最後のトドメとなる言葉を放ったのである。


「そして。仕事を頑張れ。ガンバレ、ガンバレ、ガンバレーーー、エッ。」


私は、自分の耳を疑った!


仕事を、頑張れだと?


私を半殺しにし、ゴミ捨て場に捨てた人間が、一体どの口で、私に向かって「仕事を頑張れ」と言うのか。

その瞬間、私の内側に残っていた最後の何かが、音を立てて砕け散った。それは、人間に対する僅かな希望であり、世界がまだ意味を持っているという幻想の欠片だった。


希望は、いま、崩壊した!


彼女の言葉は、完璧な矛盾であり、究極の嘲笑であった。他者を信用してはならない。他者は必ず裏切る。他者は自己の娯楽のために平気で人を殺す。


しかし、それでもなお、この社会というシステムの中で歯車として働き続けろ、というのか?


血を流し、骨を砕かれ、裏切られ、ゴミのように捨てられても、明日には再び立ち上がり、社会のために労働を提供しろと?


だが!


それが、この社会のルールなのだ!


彼女は、狂っているわけではない!


彼女こそが、この社会の真実を体現する存在なのだ!


仲間であろうと、友人であろうと、自らの個人的な楽しみや利益のために、平然と他者を半殺しにし、全てを奪い去る。そして、その口から「仕事を頑張れ」という励ましの言葉を、一片の罪悪感もなく吐き出すことができる。この圧倒的な欺瞞、この底なしの悪意こそが、我々が生きている社会という名の巨大な屠殺場の正体なのだ!


彼女の足音が遠ざかっていく!


路地裏には、ホームレス・ネズミがゴミをむさぼる音と、私の口から漏れる弱々しい呼吸の音だけが残された!


私は、ゴミの山の中で仰向けになり、四角く切り取られた夜空を見上げた!


星一つない、淀んだ黒い空だった!


私は、もう!


……誰も!信用しない!


仲間であろうと、個人的な楽しみのために、人を半殺しにするのが、この社会である!


私は、なぜこんなことになったのか、血まみれの頭で思考を繰り返した。


私に落ち度はあったのか?


私が彼女を友人だと信じたことが、死に値するほどの罪だったというのか?


答えは、否だ!


この世界において、善意や信頼というものは、自己防衛の手段を持たない愚か者の身につける、薄紙のような防具でしかない!


鋭利な悪意の刃の前に晒されれば、そんなものは一瞬で切り裂かれ、その下にある柔らかな肉が露わになるだけなのだ!


彼女は、私のその無防備な柔らかさを狙った!


私が彼女に抱いていた友人としての好意という感情そのものを、私を絡め取るための蜘蛛の糸として利用したのである!


人間の感情とは、これほどまでに脆く、これほどまでに残酷な兵器に転用されるものなのか?


彼女にとって、私は人間ですらなかった!


ただの玩具であり、退屈を紛らわすための実験動物(モルモット)に過ぎなかったのだ!


財布が盗まれたという嘘のシナリオを作り、私を店に呼び出し、罠にはめ、男たちに暴力を振るわせる!


その一連のプロセスにおいて、彼女の心の中に罪の意識が働く瞬間は、一秒たりとも存在しなかっただろう!


それこそが……真の恐怖なのだ!


怒り狂って人を殺す者や、欲望に駆られて罪を犯す者は、まだ理解の範疇にある。


彼らの行動には、共感できずとも、人間としての感情の起伏が介在しているからだ。


しかし、彼女のような人間は違う。


彼らは、息をするように他者を欺き、微笑みながら他者の人生を破壊する。


彼らにとって、他者の苦痛は、一杯のコーヒーを楽しむのと同じ程度の、日常的な娯楽に過ぎない。


そして!


恐ろしいことに!


この社会は、そのような怪物たちによって運営されているのである!


我々が信じ込まされている道徳や倫理というものは、強者が弱者を効率よく支配し、搾取するために作り上げた、便利な幻覚に過ぎない。弱者たちは人を信じよ、助け合えという言葉を真に受け、互いに手を取り合って、強者のために黙々と労働を提供する。しかし、強者たちはその裏で、ルールなど一切無視して、己の利益と快楽のために弱者を食い物にしているのだ。


私は、その幻覚から力ずくで引きずり出されたのだ!


肉体を破壊されるという代償を払って、この世界の真の構造を見せつけられたのである!


「人を。信用するな」


彼女の言葉が、再び脳内に木霊する。


そうだ!


誰も信用してはならない!


道行く人々、職場の人間、家族、そして鏡に映る自分自身の感情すらも!


全ては私を裏切る可能性を秘めた、敵なのだ!


これから先の私の人生は、ただの余生に過ぎない!


絶望という名の分厚い鎧をまとい、誰も寄せ付けず、誰にも心を開かず、ただ息をして、血を巡らせ、世界に対する果てしない憎悪と不信感だけを燃料にして、この地獄を歩き続ける。


この文章を読んでいる者がいるとしたら、私から忠告しておく!


あなたの隣で微笑んでいるその人間を、決して信じるな!


彼らは、あなたが背中を見せた瞬間、その手に隠し持ったナイフで、あなたを容赦なく切り裂くだろう!

そして、あなたの血溜まりの上で、こう囁くのだ。社会のルールを教えてあげたのよ、と。


人間とは、そういう生き物だ。


社会とは、そういう場所だ。


かつての私は、依頼人の悲しみに寄り添い、真実を追求することで、この世界にわずかながらも正義や秩序をもたらすことができると信じていた!


探偵という職業を通して、人間の善性に触れることができると、本気で思い込んでいたのだ。


なんという滑稽な傲慢さか!


なんという無知か!


正義など存在しない!


正義とは、各々の心の中にある『偏見』だ!


あるのは、力を持つ者が持たない者を蹂躙する、冷徹な物理法則だけだ!


真実など意味を持たない!


嘘と欺瞞によって塗り固められた世界では、真実を語る者こそが異端であり、狂人として排除されるのだ!


世界に対して何一つ抵抗できず、ただ流されるままに破壊され、声を上げる力すら奪われた、絶対的な敗北者。

この都市には、今も何百万という人間が生きている。彼らは清潔なベッドで眠り、明日への希望を抱きながら朝を迎えるだろう。


だが!


この巨大な都市というシステムは、誰かをいけにえにし、誰かを地獄に突き落とすことで、その表面的な美しさを維持しているに過ぎないのだ!


個人的な楽しみのために、人を、半殺しにする!


この言葉の真の恐ろしさは、それが個人的な楽しみであるという点にある!


利益のためでも、復讐のためでもない!


ただ純粋な娯楽として、人間の肉体と精神をブチ壊す!


そこには、交渉の余地も、理解の余地もない!


台風や地震といった自然災害と同じように、ただ圧倒的な不条理として、ある日突然、誰かの人生に襲いかかるのだ!


地震!雷!火事!おやじ!


おやじだ!


社会とは、狂いのおやじの、群れだ!


あんたが女だろうと、子供だろうと、災害になる可能性を秘めているという意味においては、おやじなのだ!


私は、その災害に見舞われた……


そして、生き残ってしまった……


死んでいれば、まだ救われたかもしれない。


無に還ることで、この耐え難い苦痛と絶望から解放されたはずだ。


しかし、私は生かされた!


彼女によって、意図的に死なない程度に破壊され、絶望を抱えたまま生き続けるという、死よりも残酷な罰を与えられたのだ。


「ガンバレ」


再び、あの呪文が脳を劈く。

私は、血まみれの唇を歪め、引きつった笑いを漏らした。

ああ、やってやろうじゃあ、ないか。

私は生きてやる。誰も信じず、何も愛さず、ただ冷酷な観察者として、この狂った社会の末路を見届けてやる。お前たちが作り上げたこの偽りの世界が、いつか自らの重みで崩壊し、全ての人間がこのゴミ捨て場に堕ちてくるその日まで、私は、決して……死なない!


私の自我という形は泥に還った。


しかし、この肉体は、復讐にも似た執念だけで動き続ける。


私はもはや……人間ではない!


絶望という概念そのものが受肉した、怪物だ!


夜明けの光が、灰色の空を少しずつ染め始めていた。しかし、私にはその光が、新たな絶望の始まりにしか見えなかった。今日もまた、誰かが誰かを裏切り、誰かが泣き叫び、誰かが笑いながら他者を踏みつける一日が始まるのだ!


私は、ゆっくりと、折れた腕を支えにして体を起こそうとした!


この、狂気に満ちた社会のルールを、私はこの身に刻み込んだ!


もう二度と、誰にも私の背中は見せない!


誰も私の内側には触れさせない!


私は、這うようにしてゴミの山から抜け出し、冷たいアスファルトの上へと出た!


血の跡を引きずりながら、私は前へ進む!


どこへ行く宛てがあるわけでもない!


ただ、この地獄を歩き続けることしか、私には残されていないのだから……!


人間と社会に対する、完全で、絶対的な、絶望!


それが、あの日私が得た、唯一の真実である!


絶望だけが、真実(ヴェリタス)である!


だが!


私は歩く!


ただ、歩く!


絶望の足音だけを、響かせて!

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