妻を売る夫!野蛮が街を支配した!そして破壊される倫理!
事実に基づくフィクションです。
私はコーヒー好きである。
だが……断っておくが、私は決してプロフェッショナルな焙煎士でもなければ、豆の産地や標高、精製方法について長々と講釈を垂れるような高尚なコーヒーオタクでもない。
私の淹れ方は、彼らから言わせれば背筋が凍るほどに野蛮だろう。
温度計で湯の温度を測ることなどしない。
沸騰したての煮えたぎる熱湯を容赦なく使う。
豆の計量も目分量であり、その日の気分で無造作にミルに放り込む。
挽き方も粗雑の極みだ。
そして、抽出時間を計算することもなく、ただただ黒い粉の上に熱湯をぶちまけ、強引にその成分を湯の中に引きずり出す。
真のコーヒー愛好家がこの光景を見れば、雑味やエグみまで全て抽出された得体の知れないその泥水を前に、卒倒することだろう。
だが、それでも構わない。
私はコーヒー好きである。
化学実験のようにきれいに濾過されたお上品な上澄み液などではなく、豆が本来持っている暴力的なまでの苦味、焦げた匂い、そして、胃の粘膜を直接削り取っていくような野蛮な質量。
それらを丸ごと喉の奥に叩き込む行為そのものが、私にとっての「コーヒーを飲む」という儀式なのだ。
そして奇妙なことに、この全てを乱暴に抽出する野蛮なプロセスは、私が探偵として直面する、人間の心の奥底に沈殿したヘドロのような真実を引きずり出す作業と、ひどく似通っているのである。
ある日のことだ。
凍てつく風が街の輪郭を削り取るような寒々しい夜、私は一つの奇妙で、そして、ひたすらに薄汚れた事件の依頼を受けた。
依頼の内容は、言葉にするだけでも口の中が砂を噛んだようにザラつく代物であった。
ある若い女性が、何者かによって強姦されたというのである。
ここまでは、この悲惨な世界において、さして珍しいことではない。
だが、異常なのはその後だ。
その被害者の女性は、絶対に警察に通報しようとせず、あろうことか、犯人が誰であるかについて一切口を閉ざしているというのだ。
そして、私に向けられた依頼の核心はこうである。
「妹から犯人の名前を聞き出し、その犯人を『始末』してほしい。そして、ついでに、深く傷ついた妹の心をケアし、癒やしてやってほしい」
いやいやいやいや。
私は呆れてため息をついた。
私は探偵である。真実を掘り起こすのが仕事であって、暴力団の殺し屋でもなければ、国家資格を持った心理カウンセラーでもない。
悪魔と天使の役割を同時に要求するようなこの依頼は、明らかに狂っている。
だが、その依頼を持ってきたのは、被害者の姉であり、そして何より、私とは旧知の……「友人」であった。
私は己の職業倫理という紙切れよりも薄い建前を捨て、黙って依頼料の束を受け取った。
結局のところ、この資本主義の泥沼において、現金ほど信用に足るものはないのだ。
金を受け取った瞬間から、私は探偵から、暴力と癒やしを同時に請け負うなまはげサンタクロースへと成り下がった。
まあ、しかたない……。
私、Wan Liyueは冷めた野蛮なコーヒーを飲み干し、この異常な事件の捜査を開始したのだった。
まずは被害者である妹の周辺を洗うことから始めた。だが、事態は最初から、奇妙なほどに静まり返っていた。
通常、こうした凄惨な事件が起きれば、周囲の人間関係には必ず何らかの波紋が生じる。
誰かが過剰に被害者を擁護して犯人への憎悪を喚き散らすか、あるいは、「夜遅くに出歩いていた彼女にも隙があったんじゃないのお」……などと、安全圏から石を投げるような非難の声が上がるのが人間の常である。
だが、彼女の周囲には、怪しい人物は一人もいなかった。
それどころか、誰もが彼女に対して「普通に」優しかったのだ。腫れ物に触るような不自然さもなく、ただ日常の延長線上にある平坦な優しさ。
この、圧倒的なまでの「無風状態」が、私の直感に強烈な違和感を警鐘として鳴らしていた!
いったい、誰が犯人だというのか。
そして、なぜ誰もがここまで無関心に近いほど平常心を保っていられるのか。
興味がないのか。
いや、「もう」興味がないというのか……?
私は、依頼人であり友人でもある、被害者の姉と何度か面会し、会話を重ねた。古びた実家の薄暗い居間で向かい合ううちに、私は姉の言葉の端々に、そして彼女の瞳の奥底に澱んでいる、ある決定的な感情の色に気がついた。
それは、妹に対する、骨の髄まで焼き尽くすような「嫉妬」の色であった。
姉と妹。
同じ血を分け合いながらも、この二人の人生はあまりにも残酷な対比を描いていた。
かたや姉である私の友人は、誰もが羨むような優秀な大学を卒業し、高度な知性と教養を身につけた。
しかし。彼女はその高すぎる知性ゆえに現実社会の理不尽さと矛盾に耐えきれず、結果として社会に適合することなく、何も成し遂げられないまま実家の自室に引き篭もるだけの孤独な異常独身女性となっていた。知識という名の重い鎧を着込んだまま、一歩も動けなくなってしまった悲しきエリートの成れの果てである。
そして、かたや妹。
彼女には学歴も、教養も、社会的なスキルも、何一つ備わっていなかった。
だが、彼女には神から与えられた唯一にして最強の武器があった。それは、生まれながらにして備わっていた、男たちの理性を一瞬で蒸発させるほどの……「巨乳」であった!
彼女は己の肉体が持つその暴力的なまでの価値を本能的に理解し、その巨大な乳房を、ある時は男を切り裂く剣として、ある時は集団を破壊する爆弾として、またある時は、狙った獲物を撃ち抜く拳銃として、この世界を生き抜くために縦横無尽に振り回してきたのだ。
そしてついに、彼女はその究極の生体兵器「おっぱい」を用いて、そこいらへんの暴走族の男を完全に手懐け、結婚にまで至ったのである。
さらに異常なことに、彼女は結婚した後も自立することなく、その粗暴な旦那を実家に連れ込み、引き篭もりの姉と老いた両親が住む家を我が物顔で占拠し、彼女らを奴隷にし続けているのであった。
姉の知性は社会で完全に無価値とされ、妹の無教養な肉体が圧倒的な勝利を収めている空間。そりゃあ、嫉妬はする。私が姉の立場であったとしても、狂いそうなほどの嫉妬に身を焦がさないと言ったら、それは真っ赤な嘘になる。
なぜなら、知性が肉体に敗北する光景ほど、人間にとって屈辱的で絶望的なものはないからだ!
そしてある日、決定的な瞬間が訪れた。姉と妹の生い立ちについて会話を交わしていた最中、姉の口から、冷たく、そして、凄まじい破壊力を持った言葉が、ポロリ……と、こぼれ落ちたのである。
「ま、あの子も強姦されて、よかったかもね」
私はその瞬間、全身の血液が凍りつくのを感じた!
血の繋がった姉が、強姦された被害者に向かって吐く言葉とは……到底思えなかった!
私は探偵としての論理回路をフル回転させ、即座に一つの結論を導き出した。
さては、この姉が、実家を占拠し、己の知性を嘲笑うかのように生きる妹に対する長年の嫉妬と憎悪を爆発させ、何らかの方法で、何者かに「強姦の依頼」をしたのだと。妹の絶対的な武器である肉体を汚辱にまみれさせ、その精神を破壊し、家から追い出すための、冷酷な復讐劇。
……これなら、妹が警察に通報できない理由も、周囲の奇妙な無風状態も全て説明がつく。
だが!
この時の私の判断は、論理としては完璧であったが、現実という「生き地獄」の本質を全く捉えきれていない、決定的な間違いであったのだ。
私はこの直後、人間の知性が及ぶ範囲を遥かに逸脱した、さらなる「異常」と「野蛮」の深淵へと真っ逆さまに突き落とされることになる。
結論から言おう!
私の綿密な調査の末に浮かび上がった犯人は、姉が雇った復讐の代行者などでは決してなかった。犯人は、妹の人生にも、姉の嫉妬にも、この家族の歪んだ歴史にも一切の関係を持たない、完全に無関係な、見ず知らずの男であったのだ。
では、なぜその無関係な男が、白昼堂々と妹を強姦することができたのか。なぜ彼女は抵抗もできず、通報もできなかったのか。
その真実は、私がこれまで見てきたあらゆる犯罪の動機すらも生温く思えるほど、極限まで乾燥しきった、絶対的な不条理の産物であった。
その無関係な男は、暴力で彼女を屈服させたわけではない。彼はただ、「正当な対価」として現金を支払い、妹を強姦する権利を「購入」したのだ。
誰がその権利を売り飛ばし、そうして、許可を出したのか。
彼女の夫である。
あの、暴走族上がりの、実家に寄生している夫が、自らの遊興費を稼ぐために、己の妻を、見ず知らずの変質者に二束三文で売り飛ばしたのだ。
「妻を強姦していい権利」を、商品として販売したのである!
この事実を知った時、私は事務所のデスクで飲んでいた野蛮なコーヒーを、胃液ごと床にぶち撒けて……吐いた!
これは比喩でも誇張でもない。
人間の尊厳が、これほどまでにでたらめに、ゴミのように扱われ、金銭という最底辺の価値基準によって蹂躙されているという事実に対して、私の肉体が、生物としての根源的な拒絶反応を起こしたのだ。
私は震える手でタバコを取り出し、火をつけた!
深く煙を吸い込み、どうにかして狂いそうな神経を落ち着かせようとした。だが、吐き気を堪えながら吸ったせいで、紫色の煙が目に直接入り込み、激しい痛みと共に涙がボロボロと溢れ出してきた。私は、目を擦りながら、暗い部屋の中で一人、声を殺して泣いた。それは悲しみではない。この世界に蔓延る、圧倒的で救いようのない「馬鹿」という病理に対する、絶望の涙であった……!
そしてこの時、私はようやく、姉が言い放った「強姦されてよかったかもね」という、あの凄まじい言葉の真の意味を完全に理解したのだ。
姉は、高すぎる知性ゆえに、この家の惨状を、そして妹の破滅的な未来を、冷徹な観察者として見抜いていたのだ!
頭が悪いまま、何も学ばず、ただ、肉体という脆い武器だけを頼りに生きていればどうなるか。
イカれた男を引き入れ、家をチンピラに乗っ取られ、家族の自由を奪われ……そして最後には、自らの肉体すらもその男の金蔓として売り飛ばされ、ゆくゆくは命を奪われる。
それは、この残酷な世界において、弱者が必然的に辿る破滅のルールであり、避けては通れない混沌のマナーであり、絶対的な悪のエチケットなのだ!
「強姦されてよかったね」という言葉は、姉から妹への、血を吐くような「最後の警告」であった!
「これに懲りて、自分がどれほど悪の道、いや、破滅に向かって一直線に進む『馬鹿の道』を歩んでいるのか自覚しろ。そして、今すぐその男から、その生き方から足を洗え」……ということだった!
姉の言葉の裏には、表現の仕方は歪んではいたものの、確かに、妹に対する血の通った、しかし、絶望的な、愛が存在していたのである。
私は、被害者である妹を人気の無い喫茶店に呼び出した。そして、私が調べ上げた全ての事実、つまり、夫が彼女を売り飛ばしたという吐き気を催すようなおぞましい真相を、オブラートに包むことなく、暴力的なまでにストレートに彼女の顔面に叩きつけた。
「あんたさ……もう、今すぐあの男と別れなよ。というか、家から追い出せ。なぜって、お前はいま、殺されかけているんだよ?」
私は、探偵としての冷静さを完全に失い、一人の人間として、血の通った言葉で彼女を説得しようとした。姉の真意も伝え、今ならまだやり直せると、必死に訴えかけた。
だが!
彼女のふくよかな唇から紡ぎ出された回答は、私の持つ倫理観も、論理的思考も、人間としての根源的な共感能力すらも完全に無効化する、もはや「超常現象」としか表現しようのない、絶対的な「狂気」であった。
彼女は、夫に売られたという事実を知っても、一滴の涙も流さず、怒り狂うこともなく、ただ、つまらなそうに手元のストローをくにくに、くにくにといじくりながら、空虚な瞳で私を見つめ返して……こう言ったのだ。
「あー、リウちゃんさ、大袈裟だよ。お姉ちゃんは、私が結婚して男がいるから、ただ嫉妬してるだけ。お姉ちゃんは男の扱い方を知らないから、あんなね、ひねくれたこと言うのよ」
私は絶句した!
彼女の脳内では、自らが売春婦以下の、オナホール以下の、いや、ゴミクズ以下の扱いを受けたという事実すらも、「姉の嫉妬」という極めて矮小なフレームの中に都合よく収められ、処理されていたのだ。
だが、真の恐怖は次の言葉であった!
「つかこれ、金になるから、私、今の彼氏と別れて、彼氏の『お父さん』と結婚してもいいかなって思ってるんだよね。そうすれば、お父さんの人脈で、もっとお金持ちの、さらに『いい客』、取れるかもしれないし。家族で回したほうが、効率いいでしょ?」
私は、自分の耳の機能が破壊されたのかと思った。
聞こえなかった。
いや、聞きたくなかった。
だが、聞いてしまった。
彼女は、自分が強姦されたという絶対的な被害の経験を、自らの内面で反省するどころか、どういうわけか……それを「ビジネスモデル」として吸収し、さらなる高みへ……つまり、「義父と結婚してより高単価な客を取る」という、倫理の底が完全に抜け落ちた地獄のような「論理的な最適解」へと昇華させていたのだ。
彼女の巨乳は、もはや……剣でも爆弾でもなかった。それは、人間の尊厳も、家族の絆も、愛も、全てを金銭という餌に変換して飲み込む、底なしの怪物、「ブラックホール・おっぱい」へと進化を果たしていたのである!
私は悟った!
ここには、救うべき被害者など最初から存在しなかった!
彼女は被害者という仮面を被った、この野蛮な世界に完全に適応してしまった、なんらかの、「新種の怪物」であった。知性で語りかけても、愛情で訴えかけても、もはや彼女の心臓には一ミリも届かない。
自らの尊厳を売り飛ばすことになんの躊躇いも持たない、新たなる未知の怪物に対して、論理や倫理などという文明の利器は、完全に無力なのだ。
人間として、この度を超えた異常で残忍で、卑劣極まりない野蛮な事件の結末に対して、私はどう向き合うべきか。
私は、ゆっくりと立ち上がった……!
そして、一切の躊躇いも、一切の感情の昂りも見せずに、探偵としての全ての建前を捨て去り、一人の野蛮な獣として行動を開始した。
私は、ビジネス・モデルの展望を語っていた彼女の頬を、右の拳で……全力でぶん殴った!
悲鳴と共に、彼女の体が床に崩れ落ちる。
周囲の客が息を呑むのがわかったが、私の心は氷のように澄み切っていた。
私はそのまま店を出て、彼女が彼氏と待ち合わせているというパチンコ店へと向かった。駐車場でタバコをふかしているその男を見つけるや否や、私は背後から無言で近づき、無表情のまま、拳を振り下ろした!
……これが、私の選んだ解決方法である。
あまりにも野蛮で、暴力的で、法治国家においては決して許されない犯罪行為。
だが!
この圧倒的なまでの「野蛮さ」こそが、狂気の世界に呑み込まれた者たちに対する、私なりの最後の「知性」と「愛」の表現であった。
言葉が通じない怪物には、理論など、一切の意味を持たない。圧倒的な物理の苦痛をもって「ここから先は踏み込んではならない領域だ」という線引きを、その肉体に直接刻み込むしか、方法は、ないのだ……
これが、私が人間として彼らに示せる、最大限の敬意であった。
その後、私は依頼人である姉に電話をかけた。
「お前さ。……いや、お前は悪くないかもしれないが、もう、絶縁だ。二度と私の前に姿を見せるな。……終わりだ」
姉は電話の向こうで何も言わず、ただ静かに息を呑む気配だけが伝わってきた。私はそのまま通話を切った。
高すぎる知性に押し潰された姉も、底なしの愚かさに適応した妹も、私には到底……救うことはできない!
私はただ、これ以上、彼らの放つ狂気の瘴気に当てられて、私自身の魂まで腐り落ちるのを防ぐための、「絶縁」という名の防波堤を築くことしかできなかったのだ!
凍てつく夜の横浜。
冷たい風が、私の殴った拳の熱を奪っていく。私は全てを切り捨て、誰も待っていない暗い自分の部屋へと帰り着いた。
コートを脱ぎ捨てることもせず、私はキッチンに立った。棚からコーヒー豆の入った瓶を取り出す。
ブレンドの比率など、どうでもいい。
私は複数の種類の豆を、なんの計算もなしに無造作に、めちゃくちゃに混ぜ合わせた。それを安物のミルに放り込み、怒りに任せて、めちゃくちゃに挽き砕く。豆が悲鳴を上げるような音を立てて粉砕され、荒々しい香りが部屋中に充満する。
私は、やかんで沸かしきった、100度を超えているであろう熱湯を、フィルターの中の粉に向けて、円を描くことすら無視して、高い位置から滝のようにめちゃくちゃにぶち込んだ。粉が暴れ、泡が吹きこぼれ、黒い泥水がポットへと落ちていく。
私はその、雑味も、エグみも、苦味も、全てが過剰に抽出された漆黒の液体をマグカップに注ぎ、一息に煽った。
舌を焼き尽くすような熱さと、脳を殴りつけるような強烈な苦味が、私の全身を駆け巡る。あまりにも野蛮で、乱暴で、冒涜的な味。
だが、私はその野蛮な黒い液体を胃の奥底へと流し込みながら、確かに感じていた。
この狂気に満ちた、救いようのない、終わってしまった世界の中で、私はまだ正気を保ち、怒りを感じ、生にしがみついているのだと!
私は、暗闇の中で空になったマグカップを握りしめ、もう一度、野蛮なコーヒーの香りを深く吸い込んだ……




