体液塗りたくり男と、それを食らう寄生女!
人が行動を起こし、決断を下し、人生の舵を切る最大の理由は、「理論」などではなく、極めて原始的な「感情」である。
……とまあ、このように文字にしてしまえば、世の多くの女性たちは「当たり前のことじゃあねえか、今頃気がついたのか」と鼻で笑って同意するだろう。
しかし!
世の男性たち、とりわけ己の知性や論理的思考能力に絶対的な自信を持っていると勘違いしている哀れな男たちには、この単純明快な真理が全くと言っていいほど理解されていない場合が多々ある。
彼らは常に、合理的な自分たちの行動が、合理的な計算と合理的な判断に基づいていると信じて疑わないからだ。
だからこそ、私は今回も、極めてわかりやすい、しかし救いようのないほど愚かな人間の実例を交えて、この真理を懇切丁寧に説明してやらねばならない。
例えば、目の前で誰かが派手に転倒し、膝から血を流して痛みに顔を歪めているとする。その時、あなたが歩み寄り、「あなたの歩幅と足の角度、そして路面の摩擦を計算すれば、論理的に考えて、あなたが転んだのはあなた自身の物理的な計算間違いである」と事実のみを告げたとしたら、相手はいったい、どう反応するだろうか。
間違いなく、激怒する。
あるいは、泣き出すだろう。
そんなのは、当たり前である。
人がそのような脆弱な状況下で他者に求めているのは、客観的で正しい物理法則の解説などではない。「痛かったね」「大丈夫ですか」という、感情の共有と共感だからだ。怪我の痛みを和らげるのは理論ではなく、温かい言葉である。
これは国家間の争いにおいても同じことが言える。
ある大国が隣国に向かって、「我が国があんたたちの国を侵略するのは、歴史的経緯と地政学的な優位性、および経済合理性の観点から見て極めて正しい理由が存在するからですわよ。ほんならば。大人しく領土を渡しんさい」と通告したとして、「なるほどでござんすね。論理的に正しい理由がありますね。では、喜んで領土を差し上げましょか」……と納得して国を明け渡す国民など、この地球上のどこにも存在しない。
どれほど相手の理論が緻密に構築されていようと、侵略された側は「故郷を奪われるのは悲しい」「家族を殺されるのは許せない」という圧倒的な感情の爆発によって、徹底的に抗戦するのだ。
歴史を動かしてきたのは、常にこの「感情」の濁流である!
しかし!
世の男性という生き物は、この絶対の真理から目を背けつつ、そうして……奇妙な「病」に冒されている!
彼らは基本的に、人を褒める時も、誰かを慰める時も、恋人を抱きしめる時でさえも、「君の選択は論理的に正しいよ」「君の考え方は社会的に間違っていないよ」ということばかりを口にし、最も重要な「大丈夫だよ」「私はあなたの味方だよ」という感情のセーフティーネットを張ろうとしない。
なぜか。
それは、彼らの根底に「敵を打ち倒すこと」と、そして何より「敵を打ち倒すという自らの残虐な行為に、確固たる正当性を持ちたい」という、男性特有の逃れられないサガがこびりついているからだ!
男性とは、自らの内側に渦巻く加害欲求や、際限のない性欲といった衝動を、どうにかして人間社会のルールの中に適合させるために、「理論」という名の分厚い鎧で必死に武装する生き物なのだ。
彼らが語る「正論」や「大義名分」の皮を一枚剥げば、そこにあるのはただ「どうにかして相手をぶん殴りたい」「どうにかして相手とセックスしたい」という支配欲でしかない。彼らはその欲望を直視することに耐えられないからこそ、もっともらしい理屈をこねくり回し、なんか良さげな屁理屈に変換して、自らの行動を正当化し続けるのである。
そしてだ!
私がここで男性の病理だけを一方的に糾弾して終わると思ったら大間違いだ。
私は、この世のすべての欺瞞を許さない。
男性批判を展開したからには、当然のことながら、それと同等に、醜い女性の病理についても徹底的に批判のメスを入れる。
平等に、容赦なく全てをぶん殴るのが、探偵としての私の確固たるスタンスである。
女性の場合は、男性とは全く正反対の、しかし、同様に救いようのない構造的な欠陥を抱えている。
女性の根底には、太古の昔から遺伝子に刻み込まれた、極めて利己的で計算高い「自己防衛の理論」が最初から存在している。
それは、他者に対して、外敵との戦闘、安全の確保、金銭の獲得、衣食住の保障といった、生きていく上で最も過酷で泥臭い責任を全て丸投げし、自分は安全圏からそれらを搾取して生き延びるという、寄生虫のような恐るべき生存戦略である。
しかし!
彼女たちはその冷酷な「自己防衛の理論」をストレートに表現することは決してしない。もしそんなことをすれば、搾取の対象から見放されてしまうからだ。
だから彼女たちは、その理論を表現する際に、ありとあらゆる「感情」で重武装するのである。涙、可憐さ、弱さの誇張、ヒステリー、あるいは性的魅力、もしくは母性愛という名の呪縛。彼女たちはこれらの感情という強力な武器を使いこなし、巧妙に相手の罪悪感や庇護欲を煽り、自らの手を一切汚すことなく、他者に責任を負わせることに成功する。
生物学的な生存戦略、単なる「生き物」としては、彼女たちのこのやり方は極めて正しく、効率的であると言えるだろう。
しかし、どれほど巧妙に感情で偽装しようとも、その本質は他者への責任転嫁と搾取であり、最後の最後、いざという決定的な局面においては、彼女たちのその冷酷な利己主義が、剥き出しの感情という、最も醜い形で露呈することになる。自らの生存と利益のためならば、昨日まで愛を囁いていた相手を平然と切り捨てることも厭わない。
だからこそ、女性もまた、人間としては決定的な欠陥品なのである!
男性は欲望を理論で隠蔽し、女性は計算を感情で偽装する。
男女ともに、その本質は等しく……狂っている!
互いに自己欺瞞の仮面を被り、互いを搾取し合いながら、それが愛だの正義だのと喚き散らしている。
この果てしない狂気と欺瞞の応酬に、世の中の真面目で感受性の強い人間たちは、心底疲れ果ててしまうのだ。
だからこそ、そうした「世の中に疲れ果てた人たち」は、夜のネオン街に逃げ込み、喧騒の中に佇むオカマたちに向かって、「あーたたちこそが最もまともな人間だ」「あーたたちこそが、男の業も女の業も全て飲み込んだ、人間の完成系だ」と口々に称賛と救いを求めるのである。
彼ら、もしくは彼女らは、男の論理的な加害欲も、女の感情的な搾取欲も、その身をもって痛いほど理解し、その上でそのどちらの枠組みからもついに逸脱し、ただ、純粋な、「人」として、他者と向き合う術を知っているからだ。
そして、私がこれまで長々と語ってきた、男性の「加害欲を正当化する理論」と、女性の「責任を転嫁する自己防衛の感情」という、この世の男女の病理が、究極的に不快な形で結実した、悪夢の集大成ともいえる凄惨な事件に、私はあの日、運悪く直面してしまったのである……
その日、私は探偵としての依頼を受け、千葉県は船橋市へと調査に出かけていた。潮の匂いと、行き交うトラックの排気ガス、そして駅前に群がる人々の生活臭が入り混じった、特有の雑多な空気が漂う街だ。事件の詳細な個人情報や企業名については守秘義務があるため詳しくは語れないが、その事件の根底にある「動機」と「経緯」は、まさに……この世の悪意と欺瞞を大鍋でグツグツと煮詰めたような、吐き気を催す代物であった。
事件の概要はこうだ。
ある日、一人暮らしをしている若い女性の自宅から、彼女の着用済みの下着が盗まれた。
はい。まあ……ここまでは、残念ながら……この狂った社会においては頻繁に耳にする、ありふれた窃盗事件である。
しかし、真の恐怖と異常性はここからだった……。
数日後、その盗まれた下着が、再び彼女の自宅のポストに「返却」されていたのだ。
ただ返却されたのではない。
その下着には、犯人の男の体液が、べっとりと、これ見よがしに付着させられていたのである。
人間の尊厳を踏みにじる、おぞましい精神的テロリズムである。
当然ながら、被害者の女性はパニックに陥った。
しかし、彼女は警察には通報しなかった。
彼女が私のような民間の探偵に調査を依頼してきた理由は、「警察の介入によって事件が公になり、職場で目立ちたくないから」というものであった。
ここにもすでに、先述した女性特有の病理の片鱗が見え隠れしている。自らの尊厳がこれほどまでに蹂躙され、明確な犯罪被害に遭い、再び侵入されるかもしれないという生命の危機にすら晒されているというのに、彼女が最も優先したのは「論理的解決」ではなく、「感情的」な、「社会的自己防衛」だったのだ。自分が矢面に立って戦う責任を放棄し、金で雇った探偵という「他者」にリスクと責任を全て丸投げし、自らは安全な被害者の椅子に座り続ける。これこそが、彼女たちの生存戦略である。
……そうして、目立ちたくないという彼女の身勝手な保身のために、泥水の中を駆けずり回って犯人を探し出すという汚れ仕事を押し付けられた哀れな探偵が、そう、この私、Wan Liyueであった。
私は現場である彼女のマンション周辺を歩き、彼女の交友関係や職場の状況を徹底的に洗い出した。
私は、犯人を特定するにあたって、無能なおまわりどもが好むような机上の空論や、プロファイリングという名の薄っぺらい「理論」などは一切使わない。
特に、今回のように人間本来の異常性が絡み合った事件の時ほど、私は己の直感と、人間の「感情の歪み」を嗅ぎ取る嗅覚のみを頼りにする。
理屈で考えれば、外部の空き巣や通り魔的犯行を疑うのがセオリーだろう。だが、私の嗅覚は、現場に漂う「自己正当化の腐臭」を強烈に感じ取っていた。
これは、通りすがりの変質者の仕業ではない。
被害者の女性に強い執着を持ち、なおかつ自らの行為を「正しいこと」だとねじ曲げて解釈できる、身近な人間の犯行である。
私はすぐに、彼女の職場の同僚たちに目をつけ、身辺調査を開始した。そうして、あっけないほど短期間で、犯人の男を特定した。
男は、被害者の女性と同じ部署で働く、年齢も近い地味な男だった。彼は周囲からは「真面目で大人しい青年」と思われていたようだが、私の目は誤魔化せない。
私には、彼の中の暴走する自己愛と加害欲求が手にとるようにわかった。
私はブラフを揃え、彼を人気のない公園に呼び出して、逃げ場のない状態に追い込んでから直接対決に臨んだ。
私の追及に対し、最初こそしらばっくれていた男だったが、ブラフを突きつけられると、ついにその醜悪な本性を露わにした。彼がそこで口走った動機と弁明は、まさに私が忌み嫌う「男性の病理」の完璧な見本市であった。
「ぼくはね、悪くないッ!」
男は、自らの犯罪行為を棚に上げ、血走った目で私に向かってそう叫んだ。
「彼女はね、誰かと結婚してしまうと聞いたんだ。そんなの絶対におかしいッ!僕はね、ずっと彼女を影から支えてきたし、誰よりもね、彼女のことを理解しているッ!論理的に考えて、彼女は僕と付き合い、僕とエ、エッチをするべきなんだッ!それなのに、彼女はね、僕の気持ちを無視して、他の男とくっつこうとしている。彼女が僕とセ……セックスしないのは、僕に対する『差別』なん、だッ!」
眩暈が、した。
彼は、他人の部屋に侵入し、下着を盗み、それに精液を擦り付けて返すという、到底擁護できない変質的な犯罪行為の動機を、「自分がセックスさせてもらえないことへの差別に対する、正当な抗議活動」だと本気で思い込んでいたのだ。
男の弁明はどんどん続く。
「彼女の婚約者は男。ぼくも、男。だから、同じッ!僕にもスゥェックス!させてくれてもいいはずだよッ!それをね、拒絶する彼女の方がね、間違っている。僕は間違っていない。自分の方が、あの婚約者なんかよりもね、ずっと、彼女に相応しい人間なんだから!」
凄まじいまでの自己欺瞞。醜悪な加害欲と、独りよがりな性欲を、「差別への抵抗」だの「自分の方が相応しい」だのという、なんだかよくわからない歪みきった「理論」で武装し、自らを正当化しようとする、地獄のような雄叫びであった。彼は、被害者の女性の感情や恐怖など一ミリも考慮していない。彼の中にあるのは、「自分の要求が通らないのは論理的に不条理であるから、正しく実力行使に出た」という、おぞましい加害のロジックだけであった。
これが、理論で武装した男性の、真の姿である!
私は、彼のその吐き気を催すような詭弁を、冷酷な事実と証拠の数々で徹底的に粉砕し、彼を完全に沈黙させた。
明らかに、こいつが犯人だった。
もちろん、こいつが犯人だった……。
事件の全容は解明され、犯人も特定した。私の探偵としての仕事は、これで完璧に遂行されたはずであった。
しかし!
この事件が真に悪夢の集大成と呼ばれる所以は、ここから先に待ち受けていた、私の理解を遥かに超えた、人間という生物の……底知れぬグロテスクさにあったのだ!
私は、調査報告書と、犯人である男の身元調査の資料、そして彼が犯行を自供した録音データを持って、被害者の女性とラウンジで落ち合った。
私は、彼女が犯人の正体を知ってショックを受け、泣き崩れるか、あるいは激しい恐怖に怯えるだろうと予想していた。私は、彼女に「警察に行くべきだ」と説得するつもりだった。
彼女は、青ざめた顔で私の調査報告書を読み進めていた。
犯人が職場の同僚の男であることを知り、一瞬息を呑んだ。だが、彼女の表情から、それまで張り付いていた「怯える被害者」という感情のマスクが、まるで……ひび割れた石膏のようにポロリと剥げ落ちたのを、私は見逃さなかった!
報告書には、犯人の男の実家が、地方で手広く事業を展開する一族であり、彼自身も将来的に莫大な資産を相続する立場にあるという事実が記載されていた。
その事実を知った瞬間、被害者の女性の瞳の奥で、恐ろしく冷たい、計算高い歯車がついに回りはじめる音が聞こえた気がした。彼女はゆっくりと顔を上げ、先程までの涙ぐんだ表情とは打って変わった、異様に落ち着き払った声で、だが、もごもごと、何かを隠すように、「ほら、いま私はくすぐったいような気持ちですよ」と、青春の1ページのようななんとも甘酸っぱい表情で、私にこう言ったのだ。
「……あー、探偵さん、ありがとうございました。いや、この件は、私の方で彼と直接話し合って、いや、穏便に解決しようと思います。警察には、やはり行きません……」
私は耳を疑った!
自らの下着を汚辱にまみれさせた異常なストーカーと、二人きりで話し合う?正気の沙汰ではない。
「え?正気です?相手はあなたの部屋に忍び込むような異常者ですよ。何を聞いて……」
私が反論しようとしたその時、彼女は口元に微かな、しかし決定的な冷笑を浮かべて言った。
「や、あー、えと、彼も、きっと寂しかったんだと思います。彼が、そこまで私を想ってくれていたなんて、知らなかったから。……それに、今の私の婚約者は、優しくていい人なんですけど、でも、将来性に少し不安があって。犯人さんは、実家も裕福で、多分悪い人じゃないのかな、とか。あー、案外、私と合うかもしれないな……って」
異常。
そして、狂気。
私は、目の前で起きている現実が全く理解できず、完全に呆れ果て、声を発することすらできなかった。
彼女は、自らの下着に体液を擦り付けた変質的ストーカーが、「実家が裕福である」というただ一つの事実を知った瞬間に、怒りも恐怖も全て瞬時にゴミ箱に捨て去ったのだ。そして、現在付き合っている平凡な婚約者をあっさりと見限り、莫大な資産という「究極の安全と金銭的保障」を手に入れるために、犯人の男と交際を開始するという、悪魔的な損得勘定を弾き出したのである。
これこそが、女性の病理の究極の完成形であった!
彼女は、「恐怖」や「被害者としての悲しみ」という感情を自由にコントロールし、相手が金蔓になるとわかった瞬間に、その感情を「同情」や「愛情」へと瞬時にすり替えてみせた。全ては、己の衣食住と安全を他者に担保させるという、利己的な自己防衛の理論を満たすためである。下着を汚されたことなど、豪華なタワーマンションに住める権利に比べれば、彼女にとってはどうでもいい些末な問題に過ぎなかったのだ。
男は、自らの異常な加害欲と性欲を、結婚という名の制度と莫大な金で買い取ることで正当化し、女は、自らの安全と金銭的欲望を満たすために、変質者にすらも愛という感情のオブラートで包み込んで寄生する。
彼らは、究極的に需要と供給が一致した、地獄のようなベスト・カップルであった。
マッチング、完了……。
私は、このあまりにも醜悪で、グロテスクで、人間という生物の底なしの汚さを煮詰めたような結末を見せつけられ、探偵としての矜持も、人間に、いや、地球に、いや……この世に対するわずかばかりの希望も、全てを、根こそぎ打ち砕かれた。
依頼料は全額受け取ったが、その札束すらも、汚物にまみれているように感じて、吐き気がした。
私は放心状態のまま船橋を後にし、満員の総武線に揺られながら、ただ、ひたすらに虚無を見つめていた。
論理で武装した獣と、感情で偽装した寄生虫。
こんな狂った怪物くんたちが我が物顔で闊歩しているこの社会で、まともに息をすることなど、もう、到底、不可能だ。
そして。
私は新宿のネオン街の奥深く、三丁目の入り組んだ路地裏にある、見慣れた重い扉を押し開けた。
強烈な香水の匂いと、紫色の照明、そしてけたたましい笑い声が飛び交う空間。
「あら、探偵ちゃんじゃない。随分酷い顔してるじゃないのン。まーたゲロでも踏んづけてきたのっ?」
カウンターの奥から、分厚い化粧と派手なドレスに身を包んだママが、全てを見透かしたような優しい声で私に話しかけてきた。
私はカウンターの丸椅子に崩れ落ちるように座り、出された強い酒を水のように一気に喉に流し込んだ。
「あたしゃもう、だめだ。聞いてくださいよ、ママ。人間って、本当に、どうしようもないッスよ。欠陥品だ……。男も女も、もう、どいつもこいつも、みんな狂ってる……」
そう。
私は、あの日も、そして今も、この世で最もまともで、最も完成された人間であるオカマたちに向かって、いやと言うほど思い知らされたこの世の地獄の実態について、とめどなく愚痴を吐き出し続けているのだ!
私の声は怒りと絶望に震え、この狂った世界に対する呪詛となって、今日も、夜の闇に溶けていくのであった……!




