第六章 竜巻
そうして、そのまま皆のところに行ったのだが……皆の顔を見るなり安心してしまって、また涙が僕の目を濡らした。
「うう……ぐすっ……グリザイユくん……」
ポン、とバロロさんが頭をなでてくれる。皆も僕のことを慰めてくれた。
そんな時。
ピロロロロロ……特殊な音が、バロロさんから響いた。
「おや……?魔法電話だ。こんな時に、誰からだ?」
バロロさんが、魔法のモニターを映し出す。そこには……。
予想外の人物がいた。
「……!?ゼーユカタルシス様ッ……!?!?」
「「「!?!?!?」」」
皆も驚く。
「え?だあれ?」
僕はポカンと聞いた。すると、
「カゲエくん知らないの!?まあ、最近来たばかりだから知らないのか……」
「うん……?ゼーユカタルシス様って?偉い人?」
「ゼーユカタルシス様……初代Venom Desire構成員、……大幹部の一人だ」
「え!」
なんと……!ここにきて大幹部が来るとは……!でも、そんな偉い人から、一体何の用だろう?
バロロさんは通信ボタンを押す。
《やあ……初めましてかな?バロックロココくん》
「……これはこれは。まさか貴方の方からお声をかけていただけるとは思いませんでした」
バロロさんは少し微笑む、ふりをする。
「私のような末端の構成員に、一体どのようなご用件でしょうか?」
《……もしかして、ニュース見てないのかい?》
バロロさんがテレビのリモコンを押した瞬間、けたたましい警報音とともに緊急ニュースが画面を埋め尽くす。
『——繰り返します。現在、魔法都市中心部において、原因不明の超巨大竜巻が発生しています!建物への被害が相次いでおり、市民の皆様は直ちに安全な場所へ避難してください!』
映像には、空を覆うほど巨大な渦。魔法障壁が次々と砕け、街の光が風に飲み込まれていく光景が広がっていた。
「これは……!?」
「なんだこりゃ!?」
「……なるほど。これは……ただの自然災害じゃない」
テレビの音量を上げるバロロさん。
「ゼーユカタルシス様」
少し声が低くなる。
「まさか、これを私に見せるため電話を……?」
《ボスが愛したこの街を守りに、先程からVenom Desireの組員を何人か止めに行かせているんだけどね……負傷者が増えるばかりで、ちっとも対処できていないんだ。いや~、本当に困った。私は医療班のリーダーとしてこの場を離れられないし……そこで、だ。バロックロココくんはたしか『物をバターみたいに柔らかくする』という魔法能力を持っていたね?竜巻丸ごと柔らかく……なんて、流石に出来ないか》
「……ゼーユカタルシス様」
フウ、とため息を吐く。
「それは……流石に無茶なご注文ですよ。アレは『物』じゃない。空気の流れ、圧力、魔力の渦……いくつもの要素が絡み合って発生している現象です。竜巻そのものを柔らかくする、なんてことをしたら……たぶん私の魔法が届く前に、街ごと吹き飛ばされます……すみません。期待してくださったのは嬉しいですが、それは私には出来ません」
しかし、バロロさんは画面から目を離さなかった。
「ただ」
声色が変わる。
「竜巻を消すことが無理でも、竜巻による被害を減らすことなら、まだ手はあるかもしれません。飛んでくる瓦礫を柔らかくする。倒壊しそうな建物の衝撃を逃がす。避難経路を確保する……私の能力は、派手に敵を倒す向きじゃありませんからね。でも……こういう時のためにある能力なのかもしれません」
《……ああ、丁度それを頼もうとしてたんだよ。原因はコッチ、上のやつらで調べる。だから、バロックロココくんたちは一旦竜巻の被害を最小限にする行動をしてほしい。……お願いできるかな?》
「お願いなんて言葉を使われたら……断るわけにはいきませんね。この街は……ボスが愛した街なんですよね?なら、私たちが守る理由は十分です。……行ってきます。そちらも、無茶はしないでくださいよ」
《はは……ありがとう。健闘を祈るよ》
そうして、電話は終わった。
「……バロロさん!この災害って!?」
「……原因は調べてる最中みたいだ。それよりも」
バロロさんは真剣な顔で言った。
「被害を抑えに……街を、守りに行かなくてはッ」
皆一瞬顔を見合わせたが、
「「「「はい!!!!」」」」
すでに返事はきまっていた。
◇
ドタドタと、下から走る音がする。
私——グリザイユは、あいつらを心底鬱陶しく思った。
「……どっかに行ったか」
フウ、とため息を吐く。……さっきまた来たと思ったら、訳の分からないを言って、また去っていった。
「……本当にわけのわからない奴らだ」
私のことが心配だとか、そういう御託はいいから早く狂桜を返してほしい。あの刀がないと……私は……。
そんなことを思っていると——
《……グリザイユ……》
「!?誰だッ!また来たのか?」
部屋を見渡しても、誰もいない。
《……グリザイユ……》
でも、声はする。
「チッ、何なんだよ!?」
すると。ガチャリ。扉が開く。
「ん……?また来たのか?無駄な話はよし……!?」
そこには……宙に浮いた、狂桜。何を言ってるか分からないかもしれないが、私にも分からない。
「は……!?狂桜!?」
《グリザイユ……》
狂桜は喋る。私の脳内に語り掛ける。
《会いたかったぞ……》
この意味の分からない状況で……私は——
心底、嬉しかった。
狂桜が、自分から会いに来てくれた!この私に!!
「狂桜、早くここを抜け出そう!あいつらは出かけたみたいだ!早くオリから出してくれッ!」
《……それは……無理な願いだ》
「え」
思わず困惑する。
「なんでだよ……!狂桜、私を助けに来たんじゃ……?」
《違う》
狂桜は語る。
《私は……お前と話をしに来た》
「話……?」
困惑する私をよそに、狂桜は喋り続ける。
《……私は、お前が正義の道を歩むのを助ける、という約束であの日お前に協力したな》
「は……?」
「何の話だ……?」
《まさか……》
《忘れたのか……?》
狂桜との約束……?そんなの、したっけな……。
「ああ……覚えていない。あの日って、いつだよ?」
《ああ……グリザイユ……ショックで忘れてしまったのか。なら……》
《思い出させてやろう。あの日。私たちがしたことを》
次の瞬間。
「ッ……!?」
大量の記憶が、一気に頭に蘇る。
そして、
私は、
すべて思い出した。
自分の犯した大罪を。




