第十五章 そして、事件は起こる
電話の送り主は……。
トロンプくんだった!
「トロンプくん……?」
嫌な予感がした。
普段なら。こんな昼休みの時間に、急に電話なんてしてこない。
何かあったんだ。そう思って。急いでかけ直す。でも。
ツーツー……。
繋がらなかった。
「……出ない?」
もう一度かける。
でも。結果は同じ。胸の奥がざわつく。そして。画面を見ると。留守電ボタンが光っていた。
「……」
僕とミライ・ユくんは顔を見合わせる。
無言で。そのボタンを押した。すると。次の瞬間。聞こえてきた声は。いつもの明るいトロンプくんの声。……だけど。その声は。明らかに焦っていた。
《カゲエくん!!ミライ・ユくん!!今、大変なんだッ!!》
「「!?」」
思わず息を飲む。
そして。
続いた言葉に。
頭が真っ白になる。
《さっき、百人くらいの白い軍隊が突然家にやって来て……!》
「……え?」
家。僕たちの家。皆がいる場所。
《キアロくんだけじゃない!僕も、執事やメイドさん達まで……!皆をコイツらの拠点まで誘拐した!!》
「「!?!?」」
嘘だ。そんな。突然。そんなことが起きるなんて。
ミライ・ユくんの表情も一気に変わる。さっきまでの少し不機嫌そうな顔は消えていた。そこにあるのは。仲間を心配する顔だった。留守電は続く。
《さっきなんとか鍵を盗んでオリを開けることに成功して、今執事さんとメイドさんたちを全員に逃がしたところッ!》
トロンプくんの声が震えている。
それでも。
必死に伝えようとしている。
《キアロくんは、一番上の奥の部屋に連れていかれてしまった……》
「キアロくん……」
胸が締め付けられる。
昨日。あんなに悩んでいたキアロくん。それでも。僕たちを守ると言ってくれたキアロくん。そのキアロくんが。
《そして、今資料室に入ってこの軍隊に事を調べてるんだけど……》
トロンプくんは続ける。
《どうやら、この人たちは悪魔ハンターみたいなんだ!!》
「……!」
悪魔ハンター。
その言葉に。背筋が冷たくなる。
《悪魔の血を流れてるキアロくんのことを狙いに来たみたい!》
やっぱり。
キアロくんが目的だった。
でも。
トロンプくんは。そこで少し声を落とした。
《でも、本当の目的は……》
「……?」
何だ。
何を言おうとしたんだ。
その瞬間。
留守電の向こうから。
別の声が響いた。
《『おい!お前ッ!!何をしている!?』》
「!?」
心臓が跳ねる。見つかった。トロンプくんが。
《あ……やべっ》
その声を最後に。
プツリ。
留守電は切れた。
静かになる。
でも。
僕たちの中は。もう静かじゃなかった。
家族が。仲間が。危険な場所にいる。僕は。ぎゅっと拳を握る。
「……行かなきゃッ」
そして。ミライ・ユくんを見る。彼も。同じ顔をしていた。怒りと。心配と。覚悟の表情。いつもの僕たちの日常は。一瞬で終わった。今度は。僕たちが。
助けに行く番だった。
◇
魔法を使って、電話の発信地を調べる。画面に表示された場所を見て。息を飲んだ。そこは……。
森の反対側。人がほとんど近づかない。奥深くの場所だった。
「……ここか」
ミライ・ユくんが地図を見る。
そして。
「ここ、廃墟が沢山ある場所だな……」
そう言った。どうやら。敵の拠点は、その廃墟地帯のどこかにあるらしい。嫌な予感がする。でも。迷っている暇なんてない。キアロくんが。トロンプくんが。皆が。今、助けを待っている。僕は。ぎゅっと手を握った。
「どうか……無事でいて……ッ!!」
そう願う。
そして。
ミライ・ユくんの車は。森の中を全速力で走っていく。
ブオオオオオオン!!
エンジン音が響く。いつもなら。楽しく話しながら乗っている車。でも今は。誰も口を開かなかった。ただ。一秒でも早く。仲間のところへ。その気持ちだけで。僕たちは向かっていた。
◇
そして。
敵の拠点。
「~~♪」
入り口の見張り役は、緊張感もなく、音楽を聴きながら暇をつぶしていた。
まさか。自分たちの場所に乗り込んでくる者がいるなんて。考えもしなかった。
その時。突然、遠くから。何かの音が聞こえる。
ブオオオオン!!!!!
「……?」
音が近づいてくる。
どんどん。
どんどん。
そして。
「!?!?」
黒い車が。
勢いよく突っ込んできた。
「おいッーー!止まれーーーッ!?!?」
見張り役が叫ぶ。
でも。車は止まらない。
「アブネエッ!?!?」
次の瞬間。
ドカーンッ!!
大きな音を立てて、車はそのまま入口へと突っ込んだ。
「な、何事だ!?」
音を聞きつけた敵たちが。
一斉に集まってくる。
「クソッ……!?テメエら、ただじゃおかねえ……!!」
怒りながら。車へ近づく。そして。窓ガラスを割って。中へ侵入した。……が。
「……?」
誰もいない。
「は……!?」
車の中は、すっからかんだった。人の姿は。どこにもない。
「ふざけやがって……」
敵は車内を探す。
すると。
いくつかの物が見つかった。
ペットボトル。リュックサック。
そして。
一枚の絵画。
「なんだこれ?」
敵が絵画を持ち上げる。
その絵は。どこか不気味だった。普通の絵とは違う。まるで。絵の中の存在が。こちらへ手を伸ばしているような。そんな感覚がした。次の瞬間。
「!?!?」
絵画が。
動いた。
「な——」
敵が声を上げる。
しかし。
最後まで言葉を発する前に。
絵の中から。
手が伸びた。
そして。
敵の腕を掴む。
「う、うわあああ!?」
そのまま。
絵の中へ引きずり込まれていく。
「は!?!?」
仲間たちが慌てて絵を覗き込む。すると。再び。絵の中から手が伸びる。一人。また一人。次々と。敵が絵の中へ消えていく。
「なんなんだコレはッ!?」
恐怖が広がる。自分たちが。狩る側だと思っていた。でも。今。狩られている。そう理解する。
数人になった敵は。
「上に知らせるぞ!!」
そう叫び。
拠点の奥へ走り出した。
◇
そして。
静かになった入口。
スルリ。
絵画の中から。
僕とミライ・ユくんが姿を現す。
「……」
僕は。絵画を見る。
僕の魔法特殊能力。「メイドインキャンバス」。絵、芸術作品。その中の世界に入り込むことができる力。本来なら。誰かを匿うため。誰かを守るため。大切な人を安全な場所へ逃がすために使う能力。
でも。今回は違う。この絵は。敵を閉じ込める場所になった。仲間を守るための。強靭なオリになった。
「……行こうか」
ミライ・ユくんが言う。
僕は頷く。
まだ終わっていない。
キアロくんを。トロンプくんを。
皆を。
必ず助ける。
そのために。
僕たちは。
敵の拠点の奥へ進んでいった。




