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第十三章 宣言

 それから朝——。

 眩しい朝日が、部屋の中に差し込んでいた。

 ……なのに。

 僕はまだ夢の中だった。昨日の夜。キアロくんとたくさん話した。家族のこと。寂しかったこと。辛かったこと。そして。今いる仲間のこと。そんなことを話していたら。いつの間にか、眠ってしまっていた。……その結果。

 目覚まし時計をかけるのを、うっかり忘れていた。

 完全なる寝坊だった。

 そして。

 そんな僕たちを起こしに来たのは。もちろん。あの人だった。

「おい!!!カゲエくん!!また寝坊かあ!?チッ、入るからな!!」

 廊下から聞こえる大きな声。

 次の瞬間。

 ガチャリ!

 と思いっきり扉が開く。

「って——キアロ、お前もいたのか!」

 ミライ・ユくんが驚いた顔をする。

そりゃそうだ。朝起こしに来たら。僕の部屋にキアロくんがいるんだから。

「ん……おはよう、ミライ・ユ殿」

 キアロくんは眠そうに目を開ける。

 でも。昨日の夜とは違っていた。少しだけ。表情が柔らかい気がした。そして。パタリと起き上がり、服を着る。その姿を見て。少し安心した。ちゃんと眠れたんだ。そう思ったから。

「ま……それはいいとして」

 ミライ・ユくんは気を取り直す。

 そして。

「おい!!カゲエくん!!さっさと起きろーッ!」

 布団をガバッと没収される。

「わっ!?」

 突然の冷気。寒さで。

「へきしッ」

 思わずくしゃみが出る。

「ミライ・ユくん……強引だなあ……ふわああ……」

 まだ眠気が残っている僕は、目をこすりながら言う。

 すると。

 ミライ・ユくんは部屋を見回して。あるものを発見した。

「って、なんだコレはー!?」

 指を差した先。

 そこには。ポテチの空袋。昨日の夜の証拠が。堂々と残っていた。

「「あ……」」

 バレた。完全にバレた。

 怒られる。

 そう思った。

 ミライ・ユくんは眉を寄せる。何か言いかけた。でも。一瞬だけ僕たちを見る。そして。

「……まあいい!!今回だけは許してやる!!だから二人とも、さっさと朝飯食べてこいッ!」

 少しだけ呆れたように言う。

 そして。

 ポイっと。部屋にまとめて投げ出される。

「わっ!」

「っと……」

 廊下に出された僕たちは顔を見合わせる。

 そして。キアロくんが。

「……朝飯、食べに行こう。カゲエ殿」

 優しくそう言ってくれる。

 昨日までなら。もしかしたら。こんな何気ない言葉にも、少し遠慮していたかもしれない。でも今は。自然に笑えた。

「うんっ!」

 僕たちは並んで歩き出す。

 いつもと変わらない朝。

 でも。

 昨日までとは少し違う朝だった。


 ◇

 僕とキアロくんは、急いで朝ごはんを食べた。昨日の夜は遅くまで起きていたから。本当ならまだ少し眠気が残っているはずなのに。今は不思議と、気持ちは軽かった。

 隣を見る。

 キアロくんも、いつものように朝ごはんを食べている。

 でも。昨日の夜とは違う。少しだけ。肩の力が抜けているように見えた。そんな僕たちの様子を。

 ミライ・ユくんとトロンプくんが、心配そうに見つめていた。

 朝ごはんを食べ終わったころ。

「……皆、ちょっといいか」

 キアロくんが、静かにそう言った。

「ん……?どうしたの?」

 僕が首を傾げる。

 すると。キアロくんは少しだけ姿勢を正した。そして。宣言を始めた。

「グリザイユ殿とバロロ殿がいなくて不安だと思うが……。私が皆のことを全力で守り抜くと誓おう。だから、安心してほしい……」

 キアロくんは。

 少し不安そうに皆を見る。

 まるで。

 本当に自分でいいのか。

 そう聞いているようだった。

 でも。僕たちの答えは決まっている。

「ふふ……!ありがとね!キアロくん!頼りにしてるよっ!」

 笑顔で言う。

 だって。僕は知っている。キアロくんがどれだけ優しい人なのか。どれだけ僕たちを守ってくれたのか。だから。信じている。

「おいおい、俺のことも忘れんなよー?俺らだって、キアロのこと守るんだからな?」

 ミライ・ユくんも笑う。

「へへ、皆で、協力しようね!」

 トロンプくんも続ける。

「皆……」

 キアロくんは目を細める。その表情は。少しだけ嬉しそうだった。

「ありが……」

「って!!時間!!遅刻するぞッ!!」

 ミライ・ユくんが言葉を遮った。

「えっ!?」

 時計を見る。

 ……あ。

 やばい。

 本当に時間がない。

「クソ……ゆっくりしすぎたな。今から車飛ばしても間に合わねえかもしれん……」

 ミライ・ユくんが慌てて学校に遅刻の電話を入れようとする。でも。

「その必要はないぞ。ミライ・ユ殿」

 キアロくんが言った。

「え?」

「私が空を飛んで送っていこう」

「え!いいの?」

「ああ、当たり前だ」

 あまりにも自然に言うキアロくん。でも。よく考えたら。空を飛んで大学まで行くなんて、普通じゃない。……まあ。僕たちの仲間なら、今さらなのかもしれない。こうして。この日は特別にキアロくんに空を飛んで送ってもらえることになった!

 トロンプくんは羨ましそうにしている。

「今度絶対僕のことも乗せてよねー!」

 そう言っていた。

「ああ、もちろんだ。さて……二人とも、行くぞ」

 キアロくんはそう言うと。

 その長くてたくましい腕で。

 軽々と僕たちを両腕に抱えた。

「わあ……!」

 思わず声が出る。

「力持ちだね!」

「おお……たけえ!!」

 ミライ・ユくんも驚いている。

 そりゃそうだ。普通、こんな持ち上げ方されることないもん。

「ふっ、しっかり捕まってくれよ」

 次の瞬間。

 風が吹く。

 身体がふわりと浮いた。

「わっ!?」

 そして。

 キアロくんは空へ飛び立つ。

 猛スピードで大学へ向かっていく!

 冷たい風が、頬を撫でる。朝の空気。高い空。少し怖い。でも。それ以上に。楽しかった。昨日まで悩んでいたキアロくんが。今はこうして。僕たちを抱えて飛んでいる。それが。なんだか嬉しかった。……まあ。ちょっと怖かったけど!こうして。僕たちは大学にも無事間に合ったのだった。


 ◇

 そして。

 今日の学校も終わる。六限まであったから、すっかり辺りは暗くなっていた。夕焼けの光も消えて。校舎には、帰る学生たちの声が響いている。

「今日も疲れたねー」

「だなー」

 ミライ・ユくんと話しながら、僕たちは玄関へ向かう。いつもの帰り道。……のはずだった。

 すると。何やら玄関の辺りが騒がしい。

 ガヤガヤガヤ……。

 人が集まっている。

「何だろう?」

 不思議に思って近づく。すると。学生たちの声が聞こえてきた。

「ねえ、あの人何……?なんか怖くない……?」

「でも……顔よく見ると、けっこう美形じゃない!?」

「確かに!!ルンスタとか……やってるかな!?(笑)」

 女の子たちが話している。

 その一方で。男子の集団もざわざわしていた。

「羽あるけど……天使の一族か?でも、輪っかはねえな……肌真っ赤だし!」

「天使なのか悪魔なのか分からんな……でも、すっげえ綺麗……」

 その言葉を聞いて。僕とミライ・ユくんは顔を見合わせる。まさか。と思う。

 そして。急いで人だかりの方へ向かう。そこにいたのは。

「……遅かったな。二人とも」

 キアロくんだ!

 いつもの落ち着いた表情。でも。今日はいつもと少し違って見えた。だって。僕たちを迎えに来てくれたんだ。

「キアロくん!?」

 思わず声が出る。

 迎えに来てくれるなんて思っていなかった。帰りは電車で帰ろうとしていたから。正直、すごく助かった。それに。何より嬉しかった。キアロくんが。自分から僕たちのところへ来てくれたことが。キアロくんは僕たちに向かって歩いてくる。その姿に。周りの人たちはぎょっとしていた。大きな翼。赤い肌。普通の人とは違う姿。でも。その姿は怖いというより。どこか神秘的だった。

「え……!?何?知り合いかよ!?」

「ミライ・ユくんの横にいる人……カゲエくん、だっけ?あの人、何者なの……!?」

 ガヤガヤガヤ……。

 一気にうわさが広がる。

 僕たちの周りに視線が集まる。

「えっと……」

 少しだけ恥ずかしくなる。

 だって。

 学校の帰り道に。こんなに目立つことになるなんて思わなかったから。でも。前を見る。キアロくんは。少しだけ胸を張っていた。まるで。「迎えに来た」。ただそれだけのことを、当たり前のようにしている。昨日まで。一人で全部背負おうとしていた人が。今は。僕たちの隣にいる。そのことが。なんだかすごく嬉しかった。

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