第十章 英雄の軌跡
辺りには、ものすごい数の人々!一般市民の方々から、メディア関係の人まで……。この様子を、全世界に中継している様だった。
そしてグリザイユくんの名前が、市長さんに呼ばれる。
流石にグリザイユくんでさえも緊張したのか、少し硬い表情で階段を上る。
皆が、グリザイユくんを、英雄の雄姿を、真剣に見つめている。
そして——
「皆さん。本日は、この場に集まっていただきありがとうございます。そして何より……今日、この場で私たちが感謝を伝えたい相手がいます。グリザイユさん。あなたは、あの日……私たちの街を襲った巨大な災害に立ち向かいました。誰もが恐怖に震え、どうすることもできないと思ったあの瞬間。あなたは、自ら危険の中へ飛び込みました。その手に持った一本の剣で、絶望の象徴だった竜巻を打ち払い、多くの命を救ってくれました」
「あなたの行動によって、守られた家があります。再び家族と笑い合えるようになった人がいます。明日を迎えることができた人がいます。あなたが救ったものは、ただ街や建物だけではありません。この街に生きる人々の未来そのものです」
「……私は、市長として。この街を守る立場にある者として。あなたに心から感謝を伝えたい。本当に……ありがとうございました。あなたが見せてくれた勇気は、私たちに大切なことを思い出させてくれました。どれほど大きな困難が目の前に立ちはだかっても。誰かを守りたいという想いがあれば、人は立ち向かうことができるということを。そして、仲間を信じることの強さを。あなたは、この街に希望を届けてくれました」
「その功績を称え。ここに、あなたを我が街の英雄として正式に表彰いたします。グリザイユさん。こちらは、あなたの勇気と功績を永遠に残すための記念品です。この品には、街の人々全員の感謝の気持ちが込められています。どうか受け取ってください。そしてこれからも。あなたらしく、あなたの信じる道を進んでください。私たちは、あなたが歩む未来を心から応援しています」
「改めまして——この街を救ってくれた英雄、グリザイユさんへ。最大の感謝と敬意を込めて、表彰いたします」
記念品が、グリザイユくんの手元に送られる。グリザイユくんは——
市長さんに小さく感謝を述べた後……。
「イエーーーーーイッ!!☆皆~~!見て見て~~!コレ!私が英雄の証ッ!!」
グリザイユくんは、記念品を持ち上げて皆に見せびらかす。市長さんも、驚いたようで、ポカンとしていた。
だが、次の瞬間。
アハハハハハ……!!
多くの人が、笑顔になる。市長さんも、思わず吹き出してしまった様だ。
「ぷふっ……!グリザイユくんは、相変わらずおふざけ好きなんだから……!」
「ここまで来ると、もはや表彰モンだな……あ、今実際に表彰されてんのか」
「まったく、少しあきれるのと、少し尊敬する」
「くう……!イタズラ好きとして、見習わないとっ!」
「いや、見習わなくて大丈夫、トロンプくん」
最前列の席で、僕たちはグリザイユくんのことを優しく見守っていた。
「イエ―――イッ!!☆テレビの前の皆も、見てる~~!?」
カメラに向かって記念品を見せるグリザイユくん。キャスターの人もカメラマンの人も、一瞬驚いたようだが、すぐにカメラをアップにして、グリザイユくんと記念品を大きく映しだす。
「あはは!何この人~!」
とある家庭では、小さな子供がグリザイユくんに向かって笑っていた。その両親も思わず笑う。幸せな家庭が、そこにはあった。
そして。
「……コホン!おふざけは一旦終わりにして……」
グリザイユくんは、少し真面目な顔をする。
「少し、私の話を聞いてください」
市長さんは、グリザイユくんにマイクを渡す。
そして……グリサイユくんの、スピーチが始まる。
「……えーっと」
「こういう場で話すのって、やっぱり慣れないねエ。皆、私のことを英雄って呼んでくれているけど……。私は、そんなに綺麗な人間じゃない」
「私は過去に。何人もの人を傷つけた。間違ったことをした。自分の弱さから目を背けて、多くの人を傷つけてしまった。……そして。一番傷つけてはいけなかった、大切な仲間まで傷つけた。私を信じてくれていた人たちに。酷い言葉をぶつけた。皆の優しさに甘えて。皆がどれだけ心配してくれていたのかも考えずに。本当に、酷いことをしたと思っている」
「正直に言えば」
「私は、皆に見捨てられてもおかしくなかった。もう二度と、私のことを仲間だと思ってくれなくても。それは当然のことだと思っていた。私は、それだけのことをしてしまったから。……でも。皆は、私を見捨てなかった。それどころか。私が戻った時。怒ることも、責めることもできたはずなのに。皆は、私に言ってくれた。おかえりなさい、って」
「……」
「あの時の言葉は。私にとって、一生忘れることのできない宝物になった。私はずっと。自分は一人で罪を背負わなければいけないと思っていた。過去の自分から逃げることもできない。でも、前に進むこともできない。そんな風に思っていた。でも違った。仲間がいた。家族がいた。私のことを信じてくれる人がいた。私がどんな過去を持っていても。それでも、手を差し伸べてくれる人がいた。だから私は決めた」
「私は、過去を消すつもりはない。なかったことにするつもりもない。私がしてしまったこと。傷つけてしまった人たちのこと。全部、これからも忘れない。ちゃんと向き合っていく。そして。その過去を背負ったまま。これからの未来のために歩いていく。大切な家族を守るために。私を信じてくれる人たちを守るために。もう二度と、大切なものを失わないために。私は前へ進む」
「……今回、私は街を救ったと言ってもらった。でも。本当に救われたのは、もしかしたら私の方なのかもしれない。皆と出会えたこと。皆が私を受け入れてくれたこと。もう一度、笑える場所をくれたこと。それは、当たり前なんかじゃない。奇跡だと思っている。この場所にいる皆。私を支えてくれた仲間。私の家族。そして、今ここで私に感謝を伝えてくれている皆さん。その一つ一つの小さな奇跡が集まって。今の私がいる」
「だから」
「心から感謝します」
「ありがとう。私はこれからも。過去から目を背けず。未来を諦めず。私の大切な家族を守れる人間であり続けます。……そして。これからも、皆と一緒に歩いていきたい」
「改めて」
「本当にありがとう」
「……これからもよろしくねんっ!」
一瞬の静寂。
そして……。
パチパチパチ……!!!
沢山の拍手。
それは、会場全体を包み込むように——温かく、グリザイユくんの言葉を受け入れていた。
僕は——
「う……」
「うわあああああああああああん!!!!!!」
また、泣いてしまった。
それも、大号泣だ。
もう、超泣いた。
泣きすぎて、皆心配な顔でのぞき込む。
「ちょ……カゲエくん、大丈夫か!?」
「……ハンカチを貸そう」
「ぼ、僕も泣きそうになったけど涙引っ込んじゃった」
「……はははっ!」
バロロさんが、珍しく大笑いする。
それにつられて、皆もほほ笑む。
グリザイユくんは、最前列の僕たちを優しく見ていた。そして。
「……ありがとね……皆……本当に……」
「こんな私を……優しく受け入れてくれて」
その言葉は、拍手の音の中に優しく溶け込んでいった。




