定規
雑居ビルの一室に招かれた男は、促されるまま部屋に入る。そこには何十もの製図台が並び、黙々と作業する者たちがいた。
「手書きの製図かぁ。懐かしいな。」
などと思っていると、いくつかのやり取りが耳に入る。それらは細部は違えど似た言い回しで、
「モノサシみたいなアレ取って」「プラスチックの真っ直ぐなアレ貸して」など持って回ったような言い方をし、言われた方も黙々とそれを渡す。という光景だ。
作業している面々の中に見知った人物がいたので、声をかける。
「なぁ、なんでみんな持って回ったような言い方してるんだ?率直に言えばいいじゃないか。じょ……」口にしようとしたところで、相手が慌てて口を押さえ、
「バカ!お前死にてぇのか!」
青ざめた顔で止めようとするが、頃合いを図ったかのように勢いよくドアが開き、
「警察だ!今、言ってはならん言葉を口にしようとした不届き者がいなかったか!」
と、捲し立てる。それに対し、止めようとした者が、
「常軌を逸している。ってそう言おうとしたんだよな!な!」
と、男に同意を促すが、
「なんだよ。みんな大袈裟だなぁ。あれか?俺を嵌めようとしてるんだろ?そんなたかが「定規」程度で……」
と、ヘラヘラと笑いながら口にする。そのやり取りを聞いた者たちはみな、青ざめる。
「貴様!警告はしたぞ!現行犯だ!引っ捕らえろ!」
警察はそう叫ぶと、部下と共に男を拘束し、部屋から出ていく。去り際、男に向かい、
「然るべき場に連行された後、速やかに刑が執行される。覚悟しておけ!」
と言った。




