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第68話 撃技ぶつかり合いの終着点


肋骨が折れた音、それは重力空間が支配する場所ではさらなる激痛を生んだ。

ビキビキと聞こえる音は生々しいほどに聞こえてしまう。

痛む声すら上げることなく、ぎろりと俺はグレイスを睨んだ。


「怖いね~。だけどこれはただのテクニックを競う大会。所詮はお遊びだろ?」


「……そうだな。だが、俺はそういうわけにはいかない!」


流石に肋骨を折られたのはきつい。

だから早々に決着をつけたかった。


俺は回り抜けスキルを発動しグレイスの背後に瞬間移動。

グレイスが俺に触れた為、回り抜けスキルが発動になった。


撃技+5を乗せた正拳突きをグレイスの顔面にお見舞いしてやった。


「これはシン選手! 一瞬でグレイス選手の背後に回ったかと思うと強烈なパンチを繰り出した!!」


「へえぇ……面白えスキル持ってんじゃねえか!」


グレイスが口元についた血を拭った。


「余所見するなよ」


俺は再び回り抜けを発動しグレイスの背後へ。

そしてラフマの剣で一閃。


「クッソッ! 卑怯者め! そんなスキル有りかよ!?」


「それはお互い様だ」


重力を操るスキルだって十分過ぎるくらい強力だ。

グレイスはブオンとした音を鳴らした。

すかさず俺は大きく離れた。


そして来る重力の波。

グレイスを中心にどんどん広がっていく。

これを速技で突き抜けていいものか……


俺は守技+5とラフマの剣を盾にした。


「っ!?」


だが、守技とラフマの剣の盾を超えて来た重力の波は折れた肋骨には響く。

また骨の嫌な音が聞こえる。


収まった重力の波。

ラフマの剣が地面にめり込んでしまっている。


グレイスは自分の大剣がある場所に向かう。


「させるか!」


ただでさえ厄介な能力。

大剣を持つ前になんとかしたい。


ラフマの剣でグレイスに再び斬りつけようとしたが弾かれる。

生身の人間を剣で斬ったにもかかわらず剣が負ける。有り得ないことだ。

だが俺たちは勇者。有り得ないことを可能とする。


「守技もここまでくれば鎧がわりだな。そう思わないか!」


グレイスは狙ったかのように折れた肋骨付近に拳を突き立てる。


「ぐっ!? う……」


効き過ぎた。

再び、グレイスの拳が俺に向かう。

グレイスの拳がゆっくりと、ゆっくりと俺の目の前に迫って来る。

こういう時、人は死を想像してしまう。

自分はこの一撃によってこの世からいなくなる。


しかし、これはテクニック・ザ・トーナメントという技を競い合う為の大会。

もちろん死を前提としたものではなく、バタリアで昔からある由緒正しい大会。

だから、死なない。そんな風に考えるのは愚の骨頂だ。

どんな時も人間は死と隣合わせ。たとえそれが、大衆を喜ばせる大会だったとしてもだ。


観客たちの叫びが聞こえる。喜んでいるのだろうか、悲しんでいるのだろうか。

いや、ただ単に盛り上がって喜んでいるだけだろう。

観客たちは大会参加者を自分自身に投影させ、あたかも自分が戦っているように脳に勘違いさせているだけだろう。

本当に戦っている感情を疑似体験して楽しむ。

それがギャラリーの特権だ。


だから今、俺がグレイスの拳を食らってどうなるかなんて正直どうでもいいだろう。

ただ、この観客席の何処かにいるメアとセシルだけはそんなこと思っていないと願っておこう。


「またか!!」


俺は消えるように回り抜けを発動した。


「この勝負、俺が勝つ!」


いつ以来だろう、ここまで熱くなったのは。

俺は現状出せる限りの力と、撃技+5を乗せたラフマの剣でグレイスを斬った。




グレイスが言葉なくその場に倒れ、すかさず審査員のセリオーザが走って来る。


グレイスの吐息は浅いが、まだくたばってはいない。

その場で首をゆっくりと左右に振ると、何故か笑った。

審査員セリオーザの持つ旗が俺に上がる。


「勝者! シン選手!!」


会場から割れるほどの拍手が沸き起こった。





グレイスとの対戦が終わってから控え室で休んでいた。

持ってきたエリクサーを一本飲み干して傷んだ身体を治癒する。


体の疲労感が徐々に抜けて、折れた肋骨も治り始めている。

それほどの効果を持ったアイテムがエリクサー。大会が始まってから技を幾度なく使った分、抜けた疲労感が消えた体は随分と軽い。

グレイス戦で使った魔力の回復も徐々にされていく。


次はいよいよ決勝戦。

今、外のバトルフィールドで対戦が始まろうとしているどちらかが俺と戦う。

クランかエドワードか、気になる一戦だ。

控え室にも電子魔力スクリーンが置いてあって負けた選手がちらほらいる。

俺が対戦したマッドやライアーの姿は見あたらない。


「大会の優勝賞品、欲しかったよな~。宝剣だぜ? 宝剣」


「そんなこと言ったって負けは負け。ここで優勝者が誰になるか、見物するしかできないんだよ」


「くそ~、宝剣が手に入れば俺も有名勇者の仲間入りなのに~!」


そう悔しそうに言う男は拳をぎゅうっと握りしめている。


俺は思わず笑ってしまった。


「何がおかしい!?」


「いや、単純だなって思ってな」


そう言った瞬間男は俺に殴りかかって来ようとしたが、もう1人いた腹の出た男に止められた。


「悪いな兄ちゃん。こいつ、負けたからただイライラしてるだけなんだよ。兄ちゃんはさっき戦って勝った人だな。良い戦いっぷりだったよ。邪魔したな、次の対戦も頑張ってくれよ」


そう言い残して、腹の出た男はまだ苛立ちを見せる男と控え室から出て行った。


「あんたの言う通りだよ」


そして控え室にいた覚えのある男。背は高く、赤の髪がセットされている。


「ただ笑っただけで殴りかかるなんて程度がしれてる」


赤い髪の男はクランと対戦していた選手だった。

チームで勇者活動をしているリーダー、ゴウと司会のディズは言っていた。


「宝剣が手に入れば、なんて言っている奴は、結局宝剣を手に入れたって何も変わらない」


「そうだな」


流石、チームのリーダーをやっている勇者は分かっている。

宝剣を持っていれば確かに勇者自身に強大な力を与える。だが、それは前提として勇者自身の心の構え方があってからこそ言えること。

宝剣があってもなくても勇者として生きる。

あれば魔物に対して有効打を与え、尚且つ希少な武器を持っている勇者として名が知れ渡るのかも知れない。

ただ、後半の言葉に至っては少々疑問を感じる。現に俺はバタリアに着くまで宝剣アスティオンを持っていたが有名だと感じたことは一度もなかった。

シーラ王国に捕まった時も、俺のことを知っている素振りをした人間は1人もいなかった。

だから宝剣を持っていて、尚且つ大衆の目につく場所で何らかのことをした。これがあるんじゃないかと思う。

俺にはその覚えが全くと言っていいほどない。唯一、バールガン一家の件で多少目立つ行動を過去にしたが、それも翌日の新聞には何処にも記載されていなかった。


「あんた、なかなか話のわかりそうな人だな。俺のチームに入らないか?」


「断る」


「はっは! そりゃそうだ! あんたの目は他の奴らとは違う。何か、遠くのものを見てる……」


「どうも」


ゴウは真剣な様子で俺をじっと観察するように見る。


「行くのか?」


「次もあるからな」


手を振るゴウを後にして、控え室から出た。




そして始まるクランとエドワードとの対戦。

次の俺の対戦相手はどちらになるのかを決める対戦。

無論、ラフマの剣でこの先の旅をやっていく覚悟もしているが、今まで旅と数々の戦いを共にしてきたアスティオンが目の前にあるのをみすみす逃すほど俺も馬鹿ではない。

勝った方に全力で勝ちを取りに行く。


試合開始の鐘が大きく鳴り響いた。


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