第66話 見合わぬ技能
「シン選手! なんと剣を納めてしまった! 一体どうしたと言うんだ~!?」
「何故、剣を納めた?」
司会のディズやライアーが疑問に思うのも無理はない。
ギャラリーもざわざわしている。
「何てことはない。ただ、剣だと死ぬ可能性があるからな」
「……酷く、見下されたものだ。いいだろう、後悔がないならそのまま俺の前に散れ。陽炎ーー極」
視界が見事に歪曲されてしまった。
視界に映る全ての物や人々の面影も保っていない。
ただ、ライアーは自身のスキルである為なんの問題もなく見れているのだろう。
あくまで俺の予測ではあるが、中々便利なスキルを持っている。
先程より強く歪んでしまった視界の先にはどんどん大きくなっていくライアー。
赤い光も確認出来る。
「見せてやる、俺の技を」
ライアーがそう小さく呟いた。
俺は守技+5、そして撃技+6を解放。
ライアーの両剣を少しばかり受けてしまった。だが、攻撃範囲に入ったライアーに撃技プラス6が乗った正拳突きを身体中段に打つ。
ここまで近距離になれば、陽炎によるゆらめきも多少なりともマシになる。
「がはっああ!!?」
歪む空間の中、後方に飛んでいくライアー。
そして解除された陽炎の先には、動かないライアーの姿。
審査員のセリオーザの旗が俺に上がった。
「シン選手~! これで2連勝!! 剣を使わない格闘戦、これが彼の戦闘スタイルなのか~!?」
別にそれが俺の戦闘スタイルなわけではない。
ただ言ったようによほどの格上の相手でない限り、下手に技の乗った剣を振るえば、致命傷を与えかねない。
俺は魔物を殺しても、人間は殺したくはない。ただ、それだけのこと。
ラフマの剣も流石に人間を殺めたくはないだろう。
バトルフィールドから身を引いて次の対戦まで、暫くの間大会会場から出ることにした。
◇
外は大会の熱気を感じないほどに涼しい。
ただ、テクニック・ザ・トーナメントを一目見ようと押しかけていたのは観客席にいた人々だけではなかった。
外に置かれている魔力電子スクリーンを見る人々。そして今対戦しているのは、1巡目の1回戦目で戦っていた元ホックファー王国の勇者ブレイブ。相手はクラン。互いにまだ様子見といったところだろうか、大技は繰り出していないようだ。
「元、ホックファー王国の兵士と国の狗の対戦。どちらが勝つか、こりゃ見ものだな」
「どっちもどっちだけどな。でも、これはさすがにクランに旗が上がるんじゃねえか?」
「そうか? ブレイブといやあ、ホックファー王国でも優秀だった兵士って俺は聞いたぞ? ま、俺は楽しめればそれでいいさ! 頑張れよ! どっちも!」
魔力電子スクリーンを観ている男たちがそう会話する。
ブレイブが戦斧を剣のように構えた途端、地面に亀裂が入る。それを避けるように後方まで飛んだクランは宝剣ルークスを斜め下に構えた。
クランは何をする気だ?
ブレイブが戦斧を突いた衝撃で、まるで弓矢のような斬撃がクランめがけて飛ぶ。
クランはそれを宝剣ルークスで撃ち落とすが、次々と飛んでくる斬撃の矢は止まない。
「やるな、ホックファーの元兵士」
ブレイブの様子が魔力電子スクリーンに映し出される。
高速による戦斧の突き。それから繰り出される斬撃の矢。これが、ただの魔物相手なら既に蜂の巣どころの状態ではない。
この大会に出場している勇者たちにとっても手強い相手には違いないだろう。
クランにしても、移動してもなおも飛んでくる斬撃の矢をただただ宝剣ルークスで凌いでいる。
そして、一際おおきな斬撃の矢が放たれた。
しかし、無情にもその攻撃はクランには通らなかった。
斬撃の矢は宝剣ルークスの一閃により消え去った。
ブレイブが歯を食いしばったような表情を見せ、戦斧を持ち構え縦に大きく振る。
その斬撃は俺の一回目の対戦相手だった、マッドが見せた斬撃とは比べ物にならないほどのおおきさだ。
これを受け止められる者はそうそういないだろう。
だが、それはあくまで他の勇者の場合。
クランはその巨大な斬撃をいとも簡単に消し去ってしまった。
ブレイブの表情から焦りの様子が見られる。
「悪いね。君は何か事情があってこの大会に出ているんだろうけれど、僕相手じゃね」
いつ、ブレイブを斬ったのか。
その一瞬一閃によって、ブレイブは地面に倒れ、審査員のセリオーザの旗がクランに上がった。
「クラン選手! ブレイブ選手との対戦を経てなおも余裕の表情~!! 魔物撲滅本部、底知れない強さはやはり本物!!」
クランがスタスタとバトルフィールドを後にする中、魔力電子スクリーンをちらりと見た。
ゾクッと背筋に悪寒が走った。
かかって来い、まるでそんな風に言われたみたいだ。
それが勘違いであるならば、他の誰かに向けられたものだろうか。
この魔力電子スクリーンはバタリアだけでなく、魔力電子スクリーンが置かれている他の国にも放送されている。
バタリアは国の管理下にない街ではあるのだが、過去の名残で黒柱からの魔力の享受は受けている。
その後、庭園で会ったグレイスと無言の男ローグとの対戦が始まった。ローグはこのテクニック・ザ・トーナメントで唯一勇者ではない者。
1巡目の対戦では浮遊スキルを駆使し、自らの長剣を操り巧みな戦術による勝利をおさめていた。
グレイス相手にどう戦うのか実物だ。
じっくりと近くで観戦しよう。
◇
グレイスとローグの対戦が始まってから両者は正反対の戦い方だった。
ローグは自身の能力である浮遊で長剣をマジシャンのように扱いグレイスの動きを封じつつ、本体は格闘戦をする。
対するグレイスは幾度なく舞う長剣を防ぎ、1発1発が強烈な一撃をローグに対して放つ。
その度に大きな地響きが鳴る。
「グレイス選手、なんとも強力な一撃! がしかし! それをひらりさらりと避けるローグ選手は、まるで地上を滑るかのように移動!」
ローグの浮遊スキルは、物だけでなく自らも対象のようだ。
司会役のディズが言うようにバトルフィールドを滑るように移動し、グレイスを翻弄する。
だが、グレイスは大剣を大きく回転させて旋風を巻き起こし、ローグの行く手を阻む。
この対戦を観ている限りでは、両者ともに互角のように見える。
「何をする気だ?」
するとグレイスは徐に左手を空に掲げた。
ローグはその動きに合わせるようにグレイスへ高速で長剣を向かわせる。
その長剣の周囲には赤い光も確認出来る。
ただ、ローグの放った長剣はグレイスに届くことなく地面に落ちた。
いや、落ちたというより押し付けられたといった表現が正しいのかもしれない。
グレイスはローグの長剣が放たれた後、掲げたその左手を地面に落としたのだ。
その瞬間、グレイスの辺りを中心とし、地面に亀裂が起きる。
おそらく、何らかの能力の類。
それはローグの元にまで到達し、彼を地面に押し付けた。
グレイスはゆっくりとした歩みでローグの元にまで行くと、大剣を彼の顔に堂々とした様子で降ろした。
魔力電子スクリーンに映し出されるローグは悔しそうに向ける顔を下にした。
審査員セリオーザの旗がグレイスに上がった。




