第65話 ランク8の勇者
マッドとの戦いが終わってから、直ぐに第三回戦も始まった。
勇者ランク6のエドワードは繊細な長剣捌きを披露して相手のリディを一方的に倒した。
エドワードは駆け上がりの勇者らしく、この大会に出るのは2度目だそうだ。
そして続く四回戦、五回戦と続いて行き……俺が気になっていた男、クランの登場。
「クラン選手は勇者でありながら、国が認める魔物撲滅本部に所属している!! そんな男と対戦するのは! 前回三位にまで上り詰めたゴウ選手! チームとして勇者活動をしているリーダーの実力はまた上がっているのか~!?」
戦いの鐘が鳴った。
クランは腕組みをしたまま、ゴウの元に歩いて行く。
「はっ! 国が認めるからってなんだ! こちとら2年もチームのリーダーやってんだ! そんな余裕かましてるとな、痛い目見るってのが世の常識なんだよ!」
巨大スクリーンを通して、ゴウの声が響く。
ゴウの武器は長剣。
そこらの武器屋で売っているようなものではないように見える。
速技を巧みに操り、5人ばかりの残像を作り出す。影分身というやつだ。
観客席からおおお! というような声があがる。
だが、それを見ても微動だにしないクランはいよいよ背中の剣を抜いた。
光る十字の紋章が入った長剣ーー宝剣ルークスとクラン本人は言っていた。
俺がテクニック・ザ・トーナメントの受付会場に入った時、暇そうにしていた男が言っていたこと、宝剣を持つ勇者はクランで間違いなさそうだ。
他にも宝剣を持っている奴が大会に参加している可能性もあるだろうが、それは限りなく低いだろう。
宝剣を持つ者同士が会うことすら珍しいというのに。
クランは宝剣ルークスを迫って来るゴウの残像に向けた。
「なんだなんだ!? 国の犬はそれが精一杯なのか!? なわけないよな!」
5つの残像が一気にクランめがけて行く。
クランは宝剣ルークスをわかりやすいほどに大振りする。
その一瞬の間に起こった出来事を確認出来たのは、観客席を含めた大会参加者の中でもごく一部だろう。
クランが宝剣ルークスを振った瞬間、空気の波に乗るように撃技の赤い光がとても小さく確認出来た。
通常、技を発動すればその+値によって光の強弱は見えるのだが、それはあくまで技を取得して初期の段階。
この初期の段階というのは基本的に2年間と言われている。そしてその期間、もしくは慣れの期間を過ぎた頃、光の強弱を自己コントロールすることもできる。
これは、そうすることで敵に対して防御体制をとらせない為だ。
技の+値が大きければ大きいほど、光はより見えることになり、今からどのような力を出すのが目に見えてしまう。
魔物には人間並の知能はない生体がほとんどなのだが、学習によって生存確率をあげるような対策はしてくる。
残る遺伝子には確実にそれが伝わっている。
相手が人間となると、戦いを有利に進められるだろう。
「ぐあああっ!!」
ゴウの残像が全て消滅し、本体にもその撃技の波は直撃した。
ゴウは大きく吹き飛んだ。
「これは番狂わせな戦い!! 高ランク勇者に入るゴウ選手、まさかここで終わってしまうのか~!?」
「はっ……誰が終わるって!? 俺はまだーーひっ!」
目の前に立ったクランを見たゴウが情けない声を出した。
そして自らが持つ長剣を地面において、あろうことか降参してしまった。
それを見た観客席からはブーイングと言わんばかりの声があがる。
立会い審査員のセリオーザが持つ旗がクランの方に挙がった。
「ク、クラン選手の圧勝だ~!! ゴウ選手、ここで惜しくも脱落!!」
クランはバトルフィールドの外に戻って行く。
「魔物撲滅本部、噂に聞く力は伊達ではなかった~!」
魔物撲滅本部の基本構成は勇者ランク5以上の人間とされるが、その実力は持つ勇者ランクより先を行くと言われている。
その為、たとえ勇者ランク5だとしても、勇者ランク6、7あたりの実力は備えている場合が多い。
仮にクランが勇者ランク7以上だとすれば、勇者ランク8、9は固いということだ。
宝剣ルークスを背中の鞘に納め、クランはバトルフィールドを後にする。
今後、アスティオン奪還の為に俺の前に立ち塞がる壁の1人は間違いなくクランだろう。
その後、技の解放をしつつ保有スキルを発動する参加者もちらほら見られ、テクニック・ザ・トーナメントはさらに進んで行く。
敗者は去り、勝者だけが次のバトルへの参加資格を得てそれぞれの参加目的を果たす為に試合の行方を見届ける。
中には、自分の試合が終わるな否や何処かに行ってしまう者たちも。
俺はこの後対戦するであろう参加者のレベルを確認する為にも試合を見届けていた。
◇
テクニック・ザ・トーナメントの参加者16名全てが1巡した後、数十分程度の休憩を挟んだ。
その後、勝ち上がった者たちはランダムによって対戦者が決められた。
第2巡の1戦目では、前回華麗な長剣捌きを魅せたエドワードと、先端の尖った剣レイピアを使うブレインが対戦した。互いに魅せる剣技はギャラリーから歓声が度々あがった。
勝者はエドワード。やはり、駆け上がりの勢いというものがあるのだろう。
無論、このテクニック・ザ・トーナメントでは技能を魅せた上での戦いではあるのだが、その基盤となる身体の使い方がモノを言う世界。
その意味においては、ブレインよりもエドワードが若干上手だったように見えた戦いだった。
「続きまして! 前回4位まで登りつめた勇者、ライアー選手と! 大会初出場ながら順調に勝ち上がって来たシン選手の対戦です! 両者、バトルフィールドへ!!」
俺の対戦相手、ライアーは一巡目ではスキルを使っていた勇者だ。
このテクニック・ザ・トーナメントはスキルを保有していようがいまいが平等のジャッジを受ける。
もちろん、スキルがあるからといって有利になるかと言われれば違う。現に、1巡目でスキルを持っていた者が持っていない者に負けた戦闘も見た。
「少しは楽しめそうだな」
深く被ったバンダナから見えるのは、その視線を真っ直ぐに俺に向けているように見える。
シンプルな両剣を持ち構える。
戦いの鐘がなるな否や、バトルフィールドの地面からゆらめきが起こる。
その所為で、対戦者のライアーもゆらめく。
一直線に向かって来ているのだが、そのゆらめきが翻弄させるようだ。
「俺はライアー。お前を討ち、この先に進む!」
その言葉を現したかのような両剣の斬撃が繰り出される。
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ!」
ライアーもそうだが、俺もこの戦いに負けるわけにはいかない。
何せ、自分の剣が大会優勝賞品になっているからな。
回り抜けスキルを発動したいところだが、俺がライアーに触れようとしているのを察したのかそうさせてはくれない。
警戒心の強い相手は苦手だ。
「陽炎ーー強」
ライアーがそう言った瞬間、周囲のゆらめきが強くなった。
視界のライアーだけでなく、バトルフィールド全体がぐにゃりと曲がった感覚に陥った。
戦い難いことこの上ない。
ライアーはその隙を逃さまいと斬りかかって来る。
斬撃の波が押し寄せ、俺は解放した守技により防ぐ。
ライアーの勇者ランクは6。
俺は勇者ランク7だがそう変わりないように感じる。
勇者ランクなんて所詮ただの飾りだという良い例だ。
そしてこの勇者ランク。大会の受付時には開示するのだが、バトルでの開示は各々の判断に委ねられる。それは、勇者ランクを開示することのリスクが少なからずあるからだ。
このテクニック・ザ・トーナメントは国公式のものではないが、ギャラリーの中に国の人間がいることも考えられる。
もしくは国の人間がいないにしても国と繋がっている人間。
もし、そういった人間の目に止まった勇者がいれば、国を守る勇者として勧誘を受ける可能性もある。
国を守る勇者として勧誘ーーそれが意味するのは、王族の護衛、もしくは極秘任務などの依頼。
もちろん、最終的な判断は勇者自身がするのだが、国の者は勧誘する勇者にとって優遇な条件を付けることは違いない。
勧誘され王族の護衛ともなれば、魔物との戦闘も避けられない。
本来逃げることが出来る場合でも、王族がいればそれは叶わないことを意味している。王族の命が絶対最優先、例え勇者が命を落とす結果になったとしても……
加えて極秘任務を受けていれば、たとえ魔物から生き延びたとしてもまた遭遇する場合もある。俺は今、この極秘任務をシーラ王国、アリス王女から預かっている。
が、いつでも逃げ出そうと思えば逃げれる任務。だがそうしないのは、この魔物時代の先の未来が明るくないと俺自身が強くいつも思っていたからだ。
俺のような勇者には到底重荷過ぎる任務でも、俺は俺自身の力を試す為に……今はそんな心情だ。そういう意味ではアリス王女には感謝している。
ライアーは勇者ランク6だと開示したようだが、そのあたりは国も曖昧なところがある。
何せ、俺が極秘任務を受けた時が勇者ランク5だったから。このテクニック・ザ・トーナメントでは勇者ランク7なんてざらにいるだろう。
ライアーの陽炎によって空気のゆらめきが続いている。
ライアーの陽炎は少々厄介ではあるが、本体の位置を捉えられないほどのスキルではない。
俺が同じ職業である勇者と対戦をするのは、こうした大会か旅先でいざこざを阻止する時くらいしかない。
ライアーは実力もまだ出し切っていないように見えるが、俺はそれを見越した上でラフマの剣を鞘に納めた。




