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第60話  蒼き竜


巨大な翼をゆったりと羽ばたかせ、優雅に空を飛ぶ。人はそれを見、驚嘆するが間も無く畏怖することになる。


あれは魔物ーーそれも、危険度を除けば悪魔族を上回るほど。

黒龍でこそないが、魔物の中ではトップクラスで関わってはならないと言われている。


魔竜、ボルティスドラゴン。

黒龍を含めないのならば、空の支配者の一体は間違いなくボルティスドラゴンだろう。



ボルティスドラゴン

LV.122

ATK.226

DEF.170



レベルは100番代越え。ステ-タスも今までの魔物とはまるで比べ物にならない。俺が苦戦したレベル86のスカルエンペラーが可愛く見える。


「どうする!?」


「シッ!」


声を出すメアに言う。

魔竜、ボルティスドラゴンの聴覚は鋭くほんの小さな声ですら聞き逃さない。

黒龍のように古伝書に載るほどの魔物で把握されている情報は既に開示されている。

聞くところによると、ボルティスドラゴンの縄張りに入った同じ魔物が瞬く間に消された逸話もある。


セシルは本能的にそれを知っているのか声の一つもあげず微動だにしない。


暫くしてボルティスドラゴンが北西の空に去って行ったのを確認するが、まだ目視出来る範囲にいる為その後も待った。





「あり得ない! あり得ないわ! 何で災厄の魔竜がこの地に!?」


もう大丈夫だろうとメアが口を開く。


「災厄の魔竜?」


セシルがメアに不思議そうに聞いた。


「魔王の城に居る竜のことだ」


「ほえー」


俺とメアは知っていたが、セシルは知らなかったようだ。


災厄の魔竜。そう聞けば大概の勇者なら分かる。

魔王の次に厄介な魔物で、順番的には悪魔族より上に位置している。魔竜族という種族だ。

ただ、悪魔族と比べると危険度は低く、敵と認識されなければ襲って来ないと言われている。

と言ってもそこらの魔物とは比べ物にならないほど危険なことには変わりないのだが。


魔竜の移動範囲は魔王の城圏内と聞いていたのだから、メアが驚くのも無理はない。


「さあ、続きと行こうセシル」


「はいはーい!」


ボルティスドラゴンは既に北西の空に去った。流石にこの距離では大丈夫だろう。


「あっきれた! あんたたちには緊張感ってものが無いわけ!?」


「そんなこと言っても、いずれまた会うことになる。何せ、俺たちは魔王の城目指して進んでいるんだからな。セシル、来い」


「やあああ!」


セシルがパンチを繰り出す。

それを受けてみたり避けたりしながら、セシルの実力を知っていく。


メアは……俺とセシルの様子をただただ黙って見ていた。





セシルの大体の力が分かったところで切り上げて、バタリアのレストランで夕食を食べている。

魚介類の旨味が濃厚なスープに、トマトソースで煮込まれたチキン、小麦粉にジャガイモを混ぜて作られた蒸しパン、ローストポークとキャベツが盛られた料理などがテーブルの上に並ぶ。

バタリアのレストランの料理人が腕を振るって作られた料理が食欲をかきたてる。

セシルは本当に美味そうに食べる。


魔物がいる世界にいると、こうしたほんのささやかな楽しみが心の活力になる。

食があって身体が作られ、精神的な安定をもたらし勇者としての活動を支える基盤。

適当な食事はせずにバランスよく食べる。


そうして数十分ほど食事を楽しんだ後、宿屋に戻った。


「取り敢えずこれからの予定なんだが、大会までの時間を効率よく使いたいと思う」


「そうね」


「まず一つ目は勇者である俺とメアはいつも通り魔物の討伐に励む。セシルも付いて来てくれ」


「りょ-かい!」


今、俺の勇者ランクは6でメアは5。まるで足りないランクの埋め合わせは魔物の討伐でしか埋まらない。


「そして二つ目だが、魔竜族と悪魔族に会った場合の対処法を聞いて欲しい」


ボルティスドラゴンを見なければまだ言わない考えだったが、この際話しておこう。


「そんなの戦わなければいいだけじゃない!」


メアの言う通り極論は無闇に戦わないことに尽きるのだが、今後はそういうわけにもいかなくなる機会が増えるだろう。


それに、戦闘意欲を持った魔竜族や悪魔族との戦いを避けるのがどんなに難しいことか。


大会まで後5日。

その時間を使って魔物の討伐と、魔竜族、悪魔族の対処法。

俺が知り得た魔竜族と悪魔族に関する情報を2人に話す。


「メア、これから話すことはもしもの時の為。その時になってどうしようだなんてことにならない為にな」


「聞く聞くー!」


メアもセシルのように積極的に聞いてくれれば良いのだが、やけに嫌そうな顔をする。


「……私、シンの旅に着いて行くって言ったけれど、まだ、死にたくはないわ。だから聞くわ……」


転がっている樹に座るセシルの隣に、メアも座る。


「まず、2人にこれだけは言っておく。魔竜族にしても悪魔族にしても、戦闘することになっても勝とうなんて考えるな。可能であればすかさずその場から離脱、それが出来なくても諦めることを選択肢に入れるな」


「無茶言うわね。さっき此処を通って行ったボルティスドラゴンに見つからなかったのはたまたま運が良かっただけで、次会ったら容赦されないわ」


確かに無茶なことを言っているのは自分でも分かる。実際に会ってしまって逃げることがどんなに大変か。俺は身に染みて分かっている。


セシルは真剣な表情をして俺の話を聞いてくれている。


「たとえそうなったとしても、耐えて隙を見てその場から離脱。これが最優先だ」


俺やメアがランク10クラスの勇者ならば抵抗くらい出来るだろう。


「ただし、あくまで今俺が言ったのは現時点での話。これから先、技もステータスも上昇して行くなら、討伐も視野に入れておく。魔王の城に着くまでにどれくらいのレベルアップが出来るか」


そのレベルアップの為の時間は言うまでもなく魔王の城に着くまでの旅路。

それまでにランク10というのは難題ではあるが、不可能ではない。

勇者としてのランクを上げることは、生き残る……そして、魔王の城に眠る秘宝を盗み出す鍵の一つになる。


「遭ったら離脱の隙を伺いつつ、討伐出来そうならする……様子を見ながら戦えってことね」


「そうだ」


メアがうまくまとめてくれた。


セシルはちゃんと理解してくれたのだろうか。真剣な表情のままだ。


「セシルは、魔竜族も悪魔族も倒したい……けど、そんな力がないことも知ってる。だから! うんと強くなってシンとメア、そして仲間たちも守りたい!」


「頼もしいな、セシルは」


「ほんと、私なんかよりずっとしっかりしているわ」


獣人は魔力を使った技や武器を使うことは少ないが、飛び抜けた身体能力の高さがある。

それに加え、勇者と同じように持つ技能ーー撃技、速技、守技によって身体能力はさらに強化される。

心強い味方だ。


セシルはぶんぶんと空を突き、やる気十分といった感じだ。



その後、俺はメアとセシルと別れて宿泊中の部屋に戻って備え付けのシャワーバスルームを利用し旅の疲れを癒した。

ブルッフラの宿屋にあったシャワールームよりかは作りが良かった。

勇者という職業柄、体を洗い流すのは旅の途中で訪れた村や街しかない。

ましてや、フィールドで何日も体を洗わない時なんてざらにある。

こうして清潔感を保つのは健康面にはもちろんのこと、精神的な面にも影響する。


これからはこんなに落ち着いて宿屋に泊まることは少なくなってくるだろう。

魔竜族や悪魔族を警戒することはもちろんだが、魔物はそれだけではない。


それに、魔王。

魔物の頂点に立つ者の称号で、別次元の強さにいる存在。


バタリアのテクニック・ザ・トーナメントに出るのは予想外のことだったが、ちょうどいい滞在期間になる。


あと5日後。

魔物の討伐、技の発動訓練、そして、カサルの地にいる宝剣を持つ勇者への手がかり。

さらには、俺の旅の目的である魔王の城に眠る秘宝に関する情報収集。

誰彼構わずには話せないが、このバタリアでは1人や2人くらい話しても良さそうな者はいるだろう。


クランはーー魔物撲滅本部の人間。

話しても、魔王の城に眠る秘宝を狙う理由を聞かれるのはもちろんのこと、それがシーラ王国のアリス王女から頼まれていることだと話せば納得はしてくれるだろうが賛成はしないだろう。

無理だ、そう言うのが目に見える。


そして暫くの間旅を共にするラフマの剣。俺の元にアスティオンが戻るまでの代替えの魔剣。

物好きなやつにさっさとくれてやりたいところ。俺の魔力を吸い取るなんて、魔剣の名に相応し過ぎる。

そんな魔剣は今テ-ブルの上に置いてあるが、吸収した俺の魔力を放つように異様な空気を漂わせる。


悪い感じはしないが、得体の知れないものはやはり不気味だ。

そんな魔剣を背に、間も無く眠りに就いた。


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