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第59話 セシルの気持ち


ぴょんと立った二つの三角の耳に白いもふもふした尾。

鼻は黒くて目も黒い。身長は160cmくらいだろうか、それが獣人セシル。

狼……ではなく、おそらく犬の獣人。鼻と目だけ黒く、全身は真っ白。


セシルはベンチに座る俺とメアの前までやって来る。


「セシル、俺たちは今、魔王の城を目指して旅をしている」


「ちょっとシン!」


「いいんだ、旅を一緒にするなら知らないわけにもいかないだろう」


セシルが本当に旅に同行すると言うのならば、正直に話していた方がセシルの為にはなるだろう。


「魔王の城って……何しに行くの? そんなとこ」


獣人族は争いごとを避けて生活をする為、魔王を打ち倒そうなどとは微塵も思ってはいないだろう。

ただでさえ魔物との戦闘は控える種族だというのに。


「ーー俺はある王女から魔王の城に眠る秘宝を盗むように頼まれてな。その為に行くんだ、魔王の城に。メアもその旅について来てくれているんだが、セシルはどうなんだ?」


「……セシルは」


そう言って、空を見上げる。


「セシルは仲間のいる処に帰りたい! でも! 助けてくれたシンたちの手助けもしたい! それから、捕まってる仲間たちも助けたい! ……セシル、わがまま、かな?」


「いいえ! そんなのわがままになんてならないわよ! 仲間想いなのね」


メアはセシルの頭を撫でて褒める。セシルはまだ幼い獣人で、今の気持ちをそのまま言っただけなのだろう。


「……そうか。だったらそのわがまま、全部叶えられるように一緒に行こう」


「うん!」


無理かどうかなんて、やってみなくては分からない。

セシルがどれほどの獣人なのかは気になるが、旅に着いて来てくれるのは心強い。

獣人族は人間より遥かに嗅覚に優れた種族であり、魔力を持っていなくてもそれを凌ぐほどの技能を持つ。

セシルが捕まったのは、正直、油断のし過ぎとしかいいようがない。


「セシル、もし身の危険を感じたら直ぐにシンの後ろに隠れるのよ」


「おい、俺は盾じゃないぞ」


「分かった!」


セシルは見るからに純粋そうな獣人の子。言えば大抵のことは信じてしまう感じがする。

獣人と人間が旅を共にすることはそれほど珍しいことではないが、多いというわけでもない。

元々何か事情があったりするか、俺たちのような境遇になった者も中にはいるだろう。


その後セシルの実力を知る為、バタリアからフィールドへ出た。





バタリアの西、庭園と呼ばれる森林の手前には自然のままに荒れてしまった荒野がある。流れが早い川は浅く、まだ子供のスティールタートルが川岸でじっとしている。


「いくよ!」


そう言ってセシルの拳が俺に放たれる。

それをまずは何もせずに片手で受け止めてみる。が、侮り過ぎて不覚にも飛ばされそうになって守技を+1ほど解放した。


「やるな、セシル」


「へん! セシルの力はこんなもんじゃないよ! まだまだ、もっともっと力は出せる!」


なるほど、流石獣人だ。勇者以外の生身の人間ならば、まず獣人に勝てる者はそういないだろう。獣人は争いこそ避ける種族だが、天性の戦闘種族でもある。

まだセシルの実力ははっきりとはしないが、今のパンチが全開ではないのなら軽く勇者ランク3に匹敵するだろう。


「よし、だったら……セシル、アイツをやれるか?」


遠くにいたアグロリザードを指差した。


「シン! 危険だわ!」


「大丈夫、セシルならあの程度の魔物どうってことない。だろう? セシル」


セシルは大きく頷いて猛スピードでアグロリザードの元に向かう。

正面突破とは、戦い慣れてるのか。

アグロリザードはその自慢の一角で相手と戦う為、セシルのように堂々と正面から来る相手を好みやすい。

ただ、正面からでなくとも戦いはするが魔物の世界にもプライドが存在しているようで、アグロリザードはその部類。


セシルはアグロリザードの一角攻撃をしゃがんで躱し、喉元あたりに強い蹴りを入れた。

アグロリザードは高々と吹っ飛び地面に落ちる。


「セシル、すごい……」


「メアより強いかもな」


そう言うと、メアは何も言い返さない。

おいおい、それはないだろうメア。メアは勇者ランク5、少なくともセシルよりかは強いとは思う……が、どうだろう。

あの戦いっぷりを見る限りあながち間違ってはいないかもしれない。


セシルは立ち上がったアグロリザードに一切の隙も与えず、連打の如くパンチを繰り出す。

アグロリザードはただただ殴られ人形のようになってしまっている。

獣人は戦闘を好まない種族ではあるが、その戦いっぷりを見てしまえば嘘に思えてしまう。


明らかに戦い慣れている。そう感じざるを得ない。

あっという間にアグロリザードをノックアウトして戻って来る。


「見事だ」


「わ、私、セシルに戦い方教えてもらおうかな」


セシルはふふっと微笑む。

観察眼で見たアグロリザードのレベルは50。そしてあの戦いぶりを見た限りでは勇者ランク4から5の間といったところだろうか。

ただ、獣人のセシルを勇者のランクとして見るのは難しいところではある。

この魔物時代、勇者に合わせた技術ーー黒の紙や観察眼といったものはあるが、獣人の強さを計るものはこれといって無い。


そもそも、獣人は人間と干渉することは少なく、セシルのように人間に捕まってでもしない限りこうして接することもない。

獣人と人間が一緒にいるケースも存在はするが、稀だ。

これといった獣人専用の武器もなく、獣人の戦闘スタイルをみるのはこれが初めてだ。


そして、メアはセシルに戦い方のコツを聞いてたりしている。

俺もメアの戦い方を見ていた限りでは、セシルの方が戦い慣れているように感じた。

それでメアの戦いの技術が上がるのならばこの先の旅を有利に進めることが出来る。


魔王の城は其処がボスのテリトリーとするならば近づいて行くにつれて魔物のレベルも上がっていく。

そのテリトリーの範囲はキロ単位とも言われており、正確な距離は分かっていない。

勇者が戦死したニュースがたびたび新聞に取り上げられるたびに、魔王の城が近くにあるのではないかと噂されるが……定かではない。


“勇者5人の死亡。原因は魔王の勢力範囲内に入ったものと推測される”


だがこのような見出しが出たのを見れば、そう思わざるを得ないが実際のところはどうなのだろう。

こんな記事が出るたびに士気を下げさせられるのは、ギルドの勇者の間ではもはや日常茶飯事。このまま勇者をやっていてもいずれ魔王や魔物に負けるのならやっていても意味なんてないと言う者たちまで終いにはいる。


俺はというと別にそんなことはなくて、勇者として魔物と敵対するならば死は避けられないものだと割り切っている。死んだら死んだでその時だ。

いつ、どこで、どんな理由で死ぬのかも分からないこのご時世。それが魔物でなくとも、フィールドを旅している限り死と隣り合わせなことは紛れも無い事実。

だから、そんなニュース記事が出たからといっていちいち滅入っていても仕方がない。無駄だ。


国も国だ。なんでわざわざそんな士気を下げさせるようなことを取り上げて記事にするんだといつも思う。

確かに同じ勇者として魔物を倒す者として、士気を向上させる効果もあることも事実。

だが反面、真逆の効果になってしまうこともしばしば起こってしまっている。

難しいところではあるが、これは国に任せるしかない。一勇者の俺が、どうこう国の連中に言ったって変わらないだろう。


その時だった。


辺りが急に暗くなって、メアがセシルが上空を見上げた。


「……まさか」


巨大なそれは俺たちの遥か上空を飛んでいた。


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