第57話 ラフマの剣の検証
キラープラント、本来はこう呼ばれている。
森に生えている普通の植物、特に変わった様子もない。
だが、圧倒的に不自然なことがある。
よほど視力が良くないと気づかないだろうが、伸びる葉先に白い球体がある。
非常に小さく、それは植物全体の量からみると見つけにくい。その植物の特徴でも知っていない限り微妙に動く白い球体なんて気づかないだろう。
「ピギャアアアアアア!?」
その微妙に動く白い球体を斬り落としてやった。
やはり、いや、言うまでもなくこいつは食人植物だ。耳障りな程に高い喚き声を出す。
そして白い球体ーー目を一つ失っても食人植物の目は無数にある。一斉に葉先が俺の方に向かれる。
まったく、こうも凝視されると気持ち悪いことこの上ない。
キラープラントの葉の中から飛び出して来る無数の尖った触手を躱して、まず、その白い球体を斬っていく。
その度に食人植物は喚き声をあげるが構いはしない。
キラープラント
LV.49
ATK.40
DEF.38
このキラープラントはそれほど強くはない。
雑魚敵だ。
ステータスの上昇に影響しないどころか、それに伴って技のプラスもされない。
魔物討伐数は加算されるが。
キラープラントは闘っていると思っているのだろうが、俺にとってはこんなの闘いでもなんでもない。
ただ、ラフマの剣の効果を試す為の検証に過ぎない。
もちろんギルドサルーフから討伐依頼を受けた魔物ではある為、討伐はする。
引いたラフマの剣を葉の奥へ突き刺した。
「ピギャアアアアアアアアアア!」
「なっ!?」
その瞬間、突いた衝撃がキラープラントの心臓ーー核を貫いて奥の大木まで傷を付けた。
これが3度目のラフマの剣の威力か。
奥にあった大木はキラープラントから10メートルくらい離れていた場所。
ミシミシと音を鳴らし大きく倒れた。
ボーンクロウ、アイアンベアを討伐しただけでこの威力とは恐れ入る。
ラフマの剣の刀身の白濃くなっていた部分が徐々に薄れていく。
俺はすぐさま息絶えた食人植物の葉を広げて落とした種を踏み潰して繁殖を防ぐ。
死んでも種が水を補給すればキラープラントになってしまうからだ。
今回の検証で分かったことは、1度目と2度目の討伐でラフマの剣が噂通り白濃くなり、3度目でキラープラントの核を貫いた時に力が解放された。
2度目の段階でキラープラントの目を斬った時ではなく核を貫いた時に発動。この違いは単純に力加減だった。
これは、この一撃で仕留めると思ったから発動したのだろうか。
そうなると最初の一撃から3度目の力の解放が可能になるかもしれない。
ただ、問題はどの程度の力加減で反応するのかだ。
俺がこの先アスティオンではなくラフマの剣と旅を共にするなら、自分が持つ剣のことくらい知っていて当然だ。
まあ、幸いなことにこの森林には相手になってくれる魔物は沢山いる。
借りにラフマの剣ーー諸刃の剣のダメージを受けたとしても回復ポーションは持っている。瀕死級のダメージなら危険ではあるが、その辺りは実際に受けてみないと分からない。
そうしてしばらくの間、森林でキラープラントの討伐依頼を含めてラフマの剣を試していくことにした。
◇
森林の中をしばらく歩いていると、キラープラントが引き寄せられるように出てくる。
あるキラープラントは地面から蔓を伸ばして俺を捕まえようとしたり。
あるキラープラントは頭上からベトベトの消化液を垂らして来たり。
あるキラープラントは複数の蔓で俺の首元を狙って来たり。
まあ、どれも失敗には終わってしまってはいるのだが。
低ランクの勇者ならまだしも、さすがに勇者ランク6の相手にその程度の奇襲では殺せはしない。
ただ、こいつらのおかげでラフマの剣について少しずつ分かって来た。
ラフマの剣で1度目に斬った際の刀身の変化は、対峙した魔物の強さに比例するようだ。
ボーンクロウを討伐した時よりアイアンベアを討伐した時の方が白濃くなった部分が長い。
そして3度目の効果だが、やはり、弱めの斬りでは反応せず、強めの斬りに対して反応を示した。弱めの斬りを1とし今の俺の最大の斬りの強さを10とすると4あたりでの反応。
となると、強めと言っても結構な力加減を出せば反応するということになる。
そうなってくるとキラープラント程度が相手ならまだしも、後々強い魔物相手になってくると諸刃の剣そのものだ。
弱、弱、4未満で相手を攻撃し、弱って来たところで力の解放。
なかなか使い勝手が難しい剣だ。
「技を乗せたら面白いことになりそうだな」
まだ試してはいないが、例えば、撃技+3に加えて3度目の力の解放を重ねれば大ダメージになるかもしれない。
だが、これは間違えれば命の危険に関わる可能性もある。
なにせ、もし討伐出来なければ撃技+3分のダメージまで背負うことになる。何度もその威力を見てきただけに悲しいかな、自分で受けた時のダメージがイメージ出来てしまう。
それに撃技ではないにしても、速技の加速で加わった威力がそのまま俺にもくるのかもしれない。
この辺りも検証したいところではあるが、ひとまずバタリアへ戻ろう。
◇
バタリアへ戻る途中気づいたことがあった。
ラフマの刀身を見たのだが、最後の食人植物で使った3度目の力の解放の後、俺の魔力を微量ずつ吸っている。
相手の魔物の血も喰らい、俺の魔力も食らうなんてえらく大食らいな剣だ。
ただそうなってくると、3度目の高威力の斬撃は俺の魔力を変化させたものということなのだろうか。
不明なことが多すぎる剣だ。
バタリアで宿泊している宿屋に戻って、ラフマの剣をテーブルの上に置いた。
この時ばかりは俺の魔力の減りもない。
ルイやルリカにこのラフマの剣を渡した勇者の気持ちがよくわかる。
その後、少し仮眠をとることにした。
ーー
ーー30分程度の仮眠をとると身体が軽くなった。
技は使ってはいなかったが、ラフマの剣を鞘から抜いている時、魔力の消費があった為だろう。
刀身を鞘に納めている時は魔力は吸収されないようだ。
「そういえば、あの勇者の声何処かで聞いた気が」
森林の池でタイガーラビットを仕留めた大剣を操る勇者。その声は聞き覚えがあった。
懐かしい記憶が蘇るが、彼だろうか?
その後、センヴェントにラフマの剣のことを聞いてみる為に一階へ降りた。
センヴェントは相変わらずガンを効かせたかのような表情をしていた。
朝食ビュッフェ会場は既に終わっているが、食事は問題なく出来るようだ。
ここは国の管理下にない宿屋で、争い事が起きればどうしようもない。
国の管理下にある街であれば直ぐに止めに入る者たちもいるのだが、ここではセルヴェントがその役目。
最も、事が起きて後から駆けつける国の者たちよりも、こうして見えるところでセルヴェントに監視されている方が効果は絶大だろう。
何せ、“無敵の体”を持つ老人だ。
過去の魔物戦争の武勇伝だけでなく、剛力の魔物オ-ガの巨拳を弾いたほどの肉体。
「おお、シン坊か! まだ朝食はしとらんかったか?」
「済ませたよ。それよりセンヴェント、この剣のことは知っているか?」
そう言うとセンヴェントは体をぐいっと寄越して、ラフマの剣を鞘の先から上に向かってなぞるように見た。
「これは……いや! いやいや! シン坊、武器の所持は部屋だけだと聞いてはおらんかったか?」
「知ってたが、どうしてもこの剣のことを聞きたかったものでな」
センヴェントは頭を抱え左右に振った後、辺りを見渡した。
「ああ! 仕方ないのう! この様子じゃあ問題は起きんじゃろう。場所を移すぞ」
そうしてセンヴェントと共に食場を後にした。




