第56話 庭園と呼ばれる森林
「魔物の相手は久しぶりだな」
ギルドサルーフに行って魔物の討伐案件を決めた後、バタリアから北西に位置する庭園と呼ばれる森林に来ていた。
ルイとルリカから譲り受けたラフマの剣を鞘から抜き取り、確認するように軽く振ってみる。
感じとしてはアスティオンよりかは若干重く鉄剣よりかは軽い。そんな感じだ。
ただ、武器屋で借りた鉄剣とは全く違って振り下ろした感覚が鋭い。ラフマの剣を振る度に、握る手に力が入る。
そして今回俺がギルドサルーフで引き受けたのは食人植物の討伐案件だ。
この庭園と呼ばれる森林には溢れかえるように食人植物が生息しており、ギルドに依頼される以前から手を焼いていた魔物だと受付嬢のメアリーは言っていた。
食人植物は絶命時に自らの種を残し、それが発芽するとまた食人植物に育っていく。
食人植物を討伐してくれるのは有難いが、しっかり種まで処理してほしいと受付嬢のメアリーは困り果てた顔で言っていた。
「ラフマの剣……見せてもらおうか、その力」
ラフマの剣が噂通りの剣ならば、そこらの武器屋で借りる剣より優秀なことには変わりない。
早くラフマの剣を試したいのだが、こういう時に限って魔物は姿を現さない。
暫くの間、森林を歩いていた。
そうして、ようやくラフマの剣を使う時がやって来た。
ボーンクロウ
LV.39
ATK.42
DEF.28
黒い羽根からところどころ骨が剥き出しになった魔物、ボーンクロウ。
片方の目はなく、もう片方の赤い目でぎょろりと俺を見る。
この程度の魔物、ステータスの上昇には全く影響しない。
まあ、今回はラフマの剣がどんな剣なのか確かめるという意味で討伐しよう。
「ギャアアギャアアア!」
乾ききったガラガラ声で鳴きながら、数羽を落ちして飛んで来る。
そのうち飛べなくなるんじゃないか? と思うほどに見える羽根もスカスカだ。
嘴を開いたボーンクロウは、空中でラフマの剣に斬り裂かれた。
まずまずと言ったところだ。
すると、白銀の刀身が6分の1ほど色濃くなった。
なるほど、噂は本当だったのか。
地面に落ちたボーンクロウも死んでいる。
そして、その戦闘を合図にするかのように次の魔物が現れる。
アイアンベア
LV.54
ATK.66
DEF.59
「また、面倒なやつが出て来たな」
逆立った毛並みは威嚇しているからなっているのではない。もともと、このような毛の魔獣。ただ、唸る様子は明らかに俺を威嚇しているようだ。
先手必勝。
俺はアイアンベアの横腹あたりを狙った。
「バアウッ!!」
剣は狙い通り入った。だが、その名が示すように鉄のような毛のせいで阻まられる。
一応、この箇所がアイアンベアの急所の一つなのだが。困ったな。
他にはほぼ例外なく多くの魔物の急所とされる頭だが……いけるか?
跳躍し、一閃する。
「バアウッウッ!?」
ダメージは入ったようだ。刃がアイアンベアの毛を斬り飛ばして傷を付けた。だが、その程度。
おかしい……鉄剣よりかは使い勝手はいいと思っていたのだが。
「刀身が……」
すると、先程見た刀身の濃い部分が若干上部に上がっていた。
街の武器屋で聞いた話では1度目に魔物を斬れば刀身が濃くなって、2度目でさらに濃くなる。
おそらく、今はこの2度目の段階だと思うのだが……今は考えるより試そう。
ここで撃技か速技を使って討伐したいところではあるが、まずは何もしない状態でラフマの剣の能力を確かめる。
アイアンベアの攻撃を避けつつ、空いたボディに攻撃を入れていく。
とすれば、やはり刀身の色は上部に向かって濃くなって行く。
そして、辺りの樹を利用して上空から口を開けたアイアンベアめがけてラフマの剣を突き立てた。アイアンベアは最後の悪足掻きのように、威嚇し逆立つ毛をした手を伸ばすが絶命した。
「まるで妖刀だな」
ラフマの剣の刀身は半分より下、拳一つ分ほどまで濃くなっていた。
何も斬っていない状態に比べると、さながら魔物の血を吸った剣というところか。
まさに呪われた剣。
腰にかけてある銀の鞘には何の変化もないが、その刀身に至っては禍々しいとは全く言えないほどに白く濃い剣となった。
呪われた剣というのもどうかとは思うが、噂通りなら3度目の正直でそれも間違ってはいない言い方だろう。
目的の食人植物を探しながら森林を進んだ。
◇
食人植物は見た目こそそこらにある植物と何ら変わらないが、一度本性を現せば血肉貪る悪魔の如き人を食う植物。
森にある植物に擬態し、獲物を待つ獰猛なハンターだ。
そして今歩いている森林はそんな食人植物が溢れかえっており、勇者たちの手を借りたい人々も多い。
この森林の近くに村はないが、被害が多発しているのは村を離れて街を目指す人々の道に当たるからだ。
何も知らないであろう森林を通る者たちは、たちまち食人植物の餌食になってしまうというわけだ。
食人植物は足の生えた魔植物と言われ、逃げようものならしつこく追いかけて来る。食人植物は基本的に弱者を狙う為、勇者でもない人間は奴らの餌となる。
だからそこら辺に人骨の一つや二つ落ちていそうなものだが、辺りは自然の育みがただただ広がっているばかり。
それもそのはず、食人植物は人間の骨を含めた全てを食す為だ。
本性を現せば、見た目はグロテクスだが実は森林の掃除屋と呼ばれるほどに綺麗好きな魔物だ。
森林の中を歩いて行くと一際大きな溜池がある。折れた巨樹が二つほど浮かんでおり、水面が風で揺れている。
深緑の森林に囲まれた池は生き物たちにとってもオアシスのような場所なのだろう。
本来なら人間を見るなり襲って来る森の魔物も、水分補給の為か俺と反対側の場所で寛ぐ様子が見られる。
「いつもこうなら良いのにな」
魔物という存在は人間を滅ぼす為に存在しているというのに、あんな風に寝転がっている魔物を見るとどうも気が抜けてしまう。
タイガーラビットは虎ほどの大きさを持ち合わせながら兎のような跳躍力を持つ魔獣。肉食動物と同じように獰猛だ。ただ今は池に昼寝でもしに来ているのか、三体が横たわっている。
「ガォオオン!?」
突如、タイガーラビットが斬られて大血しぶきを上げた。そして、残る二体のタイガーラビットにもそれが及ぶ。
その三体をやったのは、大剣を振り上げて登場した勇者だった。
「そこのー!」
大剣をぶんぶんと振り、俺だろうか、そう叫ぶ。
「悪いことは言わない! 今の時期の庭園は気をつけた方がいい! 出来れば、早めに庭園を出ることをおすすめするがねー!」
「忠告感謝する!」
男は大剣を振り背負い、森林の奥へと姿を消した。
俺と同じ勇者だろう。この魔物時代、魔物を地上から殲滅する為に生まれた勇者という職業は協力し合うことも時には必要とする。
中には、俺、俺と自らが魔物時代に幕を下ろすと豪語する者も少なからずいるが、そういう奴ほど生き残れない。
「……出たか」
先程、大剣でタイガーラビットを討伐した男がいた場所に現れたのは2体の食人植物だ。
池を挟んだ側にいるのだが、それでもかなり大きいサイズ。
死んだタイガーラビットを長い無数の触手で捉えて捕食している。
食人植物は取り込んだものや栄養によって、その個体の大きさも様々。
今、ちょうどタイガーラビットを捕食している食人植物はここから見える範囲だと中サイズと言ったところ。
タイガーラビットでさえ4メートル強。
そんな食人植物が溢れかえっているのがこの森林だ。
食事中の食人植物2体を討伐して依頼完了といきたいが、今回のギルドサルーフからの依頼は可能な限りの食人植物の討伐。
それに食人植物のいる池の反対側に行く為には、池に浸かっている樹々の間を抜けて行きぐるりと廻らなければ行けない。
此処は池が3つあった場所なのだが、地面が割れて繋がった。池というより湖に近い。
「討伐されに来たか」
俺がタイガーラビットを丸呑みしてしまった食人植物を見ていると、背後から気配があった。この池に来た時はあった筈のない場所に森の植物がある。
さて、またラフマの剣の効果の検証再開といこうか。




