第243話 魔王の城に眠る秘宝
「ーー特に変わった様子はないな」
別次元から戻り、籠手を確かめるようにして見る。
ルーヴァスから籠手のことを聞いてから、籠手に違和感を感じる。が、その見た目は特に変わった様子はない。
「……正しく、使う。ーーシンの能力がまさにその開く力というなら、可能性はそれしかない。この先は精霊獣の力を使っても入れない上、霊体の俺はこの壁に触れることさえ出来ないんだ」
そう言って、ルーヴァスは先にある大扉に進もうとするが、強い衝撃によってその手は弾かれてしまう。
「そのようだな」
と、だが俺は問題なく通れた。
アルンも通れるのだが、別次元の力を使って戦闘するとなると置いていった方が良さそうだ。
「ううっ」
そんな時だった。
セシルが急に気を失ってしまう。
またか。いつもいつも唐突に現れる奴だ。
その見た目こそセシルそのものだが、違う顔つきや立ち方で彼女だとすぐに分かる。
俺を見て苦笑いしつつ頭を下げる。
「ルーヴァス! ルーヴァスなのね! ーーそっか」
ルーヴァスの存在に気付きサラは彼の元に走るが、身体が通り抜けてしまう。
「んん? ……まさかサラか!?」
「そう! あれから何十年経ったかしら……。やだ、私ったら」
セシルが泣くところなんて初めて見た。いや、セシルじゃないのだが、どうも慣れない。
2人は懐かしみ、当時のことを振り返るように話している。サラが命をかけてまで宝剣を神剣にしたこと、もう1人の仲間だったいう勇者こと。そして俺たちも聞いた初代魔王を討伐した後のこと。
その後、サラはフェニックスがルーヴァスといたことにやっと気づいたようで、その鮮やかな身体を撫でている。
「……地震か?」
突如として大きく揺れ、下に見える森から騒めきが起こっている。
「分かっているだろうが、俺は何も出来ない。サラも、もうそこにいないで出て来るんだ」
言われるように、獣人サラはセシルの肉体から離れた。
倒れるセシルを抱え込み、数秒後、セシルが目を覚ます。
出られるんじゃねえか。
俺がキッとした目付きで見ると、サラはささっとルーヴァスの背後に隠れる。
サラが謝るように両手を合わせているのをルーヴァスが見て、やれやれといった様子で首を振る。
「魔王が動き始めてる……。ルーヴァス、私たちが出来ることは本当にもうないの?」
ルーヴァスは開く自身の掌を見つめて、目を閉じる。
目を開け、サラを見つめては頷いた。
「シン、俺のこの力、霊体でも今あるならばこの先の戦いに役に立つはずだ。それを活かすも殺すもお前次第だ。手を前に出してくれ」
ルーヴァスが俺の前に手を出す。
俺も合わせるように手を出して合わせるとエネルギーの流動を感じる。
「ルーヴァス!! ……私も」
驚きの声を上げるが、サラはセシルとメアの方を交互に見て両手を2人の前に出す。
2人はそんなサラの行動に手をそれぞれ合わせる。
そうしている間にも揺れが起こるのは、サラが言ったように魔王が動き始めているのだろう。それにさっきよりも外が暗くなって来た。嫌な空気を感じる。
ややあって、ルーヴァスの手が俺から離れた。
何か不思議な力を感じる。
「どうやら成功したようだ。死者から生者へ、力の流動が出来るのはあくまで一時的なもの。もう一度いうがその力を活かすも殺すもお前次第だ。俺の力を存分に使って奴を倒してくれ! そしてもう二度と、二度と悲劇を生まないようにーー」
そう言い残して、ルーヴァスは光の結晶となっていく。
サラは最後の最後に俺たちに笑みを見せ、光の結晶となって消えゆくルーヴァスと共に消えていった。
「ーー行くぞ」
そうして、振り返ることなくその歩みを大扉に向けた。
◇
尋常ではない気配。
飲む息すら痛く感じ、その歩みを進めるたびに重力が重くなっていく感覚を感じる。
辺りには柱に巻き付く龍の姿があったり、歩く下を見れば傷一つない光沢のある真っ黒な床。
俺たちの姿が反射し、辺りにある柱が一層長く見える。
「うっ」
「大丈夫か?」
口を抑えるのはラピスで、この尋常ではなく重い気配がよほどきついと見える。
メアたちはまだ平気そうだが、ここに長居は危険だと直感で分かる。
ややあって進んでいくと、尋常ではない気配の正体が一つ分かった。
紫黒に輝く巨大な物体。それはダイヤの形をしており支えられてもおらず、上下からねじれてある黒紅の色をしたものに挟まれるようにして浮いている。
「シン! 何する気よ!?」
メアがそう叫ぶのは、俺がアスティオンを抜いたから。
「何って、壊すんだよ」
こんな訳の分からないもの、壊すに限る。
そもそも、魔王の城にあるものだ。……そう、魔王の城に……
「シン待って! これ、もしかしてだけど……」
そう止めるセシルは、紫黒に輝く物体に近づいていく。
が、俺がさっと止める。
どうやら、セシルも俺と同じことを思ったようだ。
「ーーまさか、これが……!」
突如、全身にずっしりと来る重い空気。
傷一つない光沢のある真っ黒な床が軋む音。
コツコツと辺りに響く音はあるものの、その姿は見えず。
間も無く現れた者は漆黒のドレスに身を包み、鬼のような王冠を身につけ、まるでその姿は何処かの国の姫のように。
「魔王……」
そう言うと口角を少しばかり上げ、スッと片手を向けて来る。
俺はすかさず構えるのだが、その向けられた片手は人差し指を立てさらに上へ向く。
「この城の秘宝じゃ。此処に来る奴らは皆、その秘宝を欲する。我がいる限り永劫叶わぬというのに、頑なに人間共は諦めぬ。よもや、呆れて笑う気すらおこらぬ。お主らとて同じじゃろう?」
どうやら、この紫黒に輝く物体が魔王の城に眠る秘宝そのものらしい。
アリス王女、こんな物一体どうやって持って帰れっていうんだ。
こんなの200人くらいでやっと運べるんじゃないか?
それほどの大きさ。見た目からして相当重いように見えるが、どうも浮いている様で軽いようにも見えてしまう。
「なんじゃ、黙りか。ならば、何故この城にやって来たのじゃ?」
「もちろんお前を倒すためだ。そしてこの秘宝も持って帰る」
そのままを言った。が、魔王はその言葉を聞いて徐々に笑い始め声を上げるほどに笑い出す。
こうして見ていると、いつかの王女のことを思い出すがこいつは魔王。
一国の王女とは違い、地上、空、海、その全てにいる魔物のトップに君臨する。
「我を前にその言葉、そしてその目……。覚悟だけは認めてやろう。ーーじゃが問題はこの我を倒せるかどうかじゃ」
何する気だ?
魔王が中指を親指に当てた。
瞬間、弾いて起きた衝撃は俺の放った斬撃と衝突した。
ただの指で弾いただけでこの威力とは、桁外れな強さだ。
「ーーふむ、此処まで来ただけのことはあるようじゃ。数は5人かーー我が直々に相手をしてやろう」
魔王にはまだ余裕を感じられるが……
さて、敵の大将相手に俺たち5人でどこまで戦れるか。
もちろん、倒す勢いでいかせてもらう!




