第242話 駆ける勇者と魔王の灯火
別次元。
それは現行世界とは別に存在する世界であり、精霊獣は皆その世界へ行くことが出来る。
この世界にはアルンやフェニックスの他にも精霊獣がいるそうで、その存在意義とは勇者たちの力になる為に他ならない。
だが、その全てが勇者の力になっているわけではないようだ。
大昔、魔物が今よりも地上に蔓延っていた時代、地上に落下した神の光と呼ばれることになる球体によって、周囲の魔物を消滅させた話。
その神の光は一部の武器に力を宿し、後、宝剣と呼ばれることになる。
そしてもう一つ影響を与えたのが、魔物から隠れ逃れるようにして生きていた動物たちの存在。動物たちも同じく、一部、神の光の影響を受けて魔物とも戦えるだけの力を持つことになったという。
それが、精霊獣。
この世界の何処かには精霊獣たちが集う地なるものがあるそうで、ずっと別次元に居られない精霊獣たちが其処にいるらしい。
ただ、精霊獣の全てが其処にいるわけではなく、今も何処かで人の目を避けるようにしている精霊獣もいるのだそう。
いくら魔物と戦えるだけの力を得たとしても、元がただの動物。本来の危機回避の本能が強く働いているとルーヴァスは言う。
だが中には好戦的とまでは言わなくとも、魔物と積極的に戦う精霊獣もいる。
そうした精霊獣は共に戦ってくれる者を見つけては付いていくそうだ。
アルンもそんな精霊獣の一体で、ルーヴァスと共にいるフェニックスもそうだという。
そして、ルーヴァスが精霊獣のフェニックスと現れた理由。
過去、ルーヴァスは仲間3人と魔王の城に辿り着き、初代魔王を討伐した。
だが、その代償は大きく、宝剣を神剣にする為に獣人サラは命を差し出し、魔王との戦闘によって仲間二人を欠く事態にまで陥ってしまった。
ルーヴァスも相討ちという形で魔王を討伐することになった。
しかし、後に霊体となったルーヴァスが知ったのは魔王が再び誕生するという話。
甘い考えだった。
相討ちでも魔王を討伐すれば復活しないだろうという憶測は、再び悲劇の序曲を開けることになってしまった。
そして誕生してしまった魔王の灯火は、やがては消えることさえ叶わない業火となり、地上に再び災厄を降り注がせた。それが先代魔王の誕生。
ルーヴァスは走った。
霊体の姿で精霊たちが集う地へ残った1人の仲間と共に。
生前、偶然話に聞いていた噂を頼りに、一里も二里も休むことなく。
だが、霊体となった身体は思いの外体力の消耗が激しかったそうで、一里が何十倍にも感じたそうだ。
そうして漸く辿り着いた精霊の地。
言葉は話せなくとも意思疎通の出来る精霊獣たちは皆、霊体であったルーヴァスを精霊の地へ入れた。
その後、一体の精霊獣の力を借りることになり、再びその亡き霊体を仲間と共に走らせた。
駆けりに駆け、1人、見覚えのある者が現れた。
獣人サラ。
彼女はルーヴァスの持つ宝剣を神剣にする為に命を落とし、彼と同じく霊体となった身だった。
身体は無くも、3人の勇者たちは休むことなく大地を駆けた。
そうしてある村に辿り着いた。
初代魔王が勇者ルーヴァス一行に討伐されても、未だに残る魔物たちに怯えながらも、村人たちは細々と生活をしていた。
そんな時に現れたのが息を切らした勇者。ルーヴァスの仲間の勇者、ウィナード。
村人は歓喜し、村の英雄が帰って来たことに驚きの声と共に祝杯の声を上げた。
ルーヴァスとサラの姿は村人たちには見えなかったそうで、ウィナードが代わりに事情を説明した。
魔王がまた誕生してしまったこと、自分たちの失態、そしてルーヴァスとサラがこの場にいることも。
村人たちは信じられないと言った様子だったが、1人の村人がウィナードと友人関係にあった。
また会える日が来るとは思っても見なかったらしく、号泣しウィナードとの再会を心から喜んでいたそうだ。
ウィナードがルーヴァスと共に村を出て、魔王の城に行くと聞いたっきり、口も聞かずじまいだったことを悔いていたのだそう。
そんな時に戻って来たのだから、ウィナードは謝っていた。
話は戻り、魔王が再び誕生してしまったのは、あと一歩、準備が足りなかったとウィナードはルーヴァスの言葉を借りて言った。
だが、そんなものは事前に分かることではないと言うウィナードの様は、村人たちにしたら一人二役をしているようにしか見えなかったらしい。
ただ、以前ルーヴァスが村を訪れた時、彼と親しげに話していた少年だけは存在を信じていた。
たとえ姿声は見えず聞こえなくとも、存在を認識してくれる者がいることにルーヴァスは心打たれたそうだ。
ルーヴァスがこの村を選んだのは、生前にもしもの時のことを伝えていた為。
ウィナードを連れて行く代わりに、魔王を討伐した暁には真っ先にこの村に戻って来ると約束していた為だ。
ウィナードはそれほどまでに村の皆に愛されていた。
ウィナードはルーヴァスの言葉を借りて村人たちにこう伝える。
古びれた“それ”を使いこなすことが出来なかったのが、再び魔王を誕生させてしまったのだと。
“それ”はただの古い籠手ではあるが、この世界では昔から悪を根絶する力を秘めた代物だとシーラ王国が厳重に保管をしていた。
そう、彼ルーヴァスもまた過去にシーラ王国に行っていた。
シーラ王国は籠手の存在を伝える者を見極める為、兵団の隊長を含めた、闘技場での戦いの優勝者のみにそれを話した。
つまり、ルーヴァスはその戦いで優勝した。
その後、王宮に招かれたルーヴァスは、当時のシーラ王国の王、アクートュス=ヴァイスハイトから直接籠手のことを聞いた。
ルーヴァスは迷うことなく自身の道を示した。
ルーヴァスは自分の意思の元、魔王の城を目指すことになった。
選ばれた者であれば正しくその力を使える。ただそうアクートュス国王から聞いただけではあったが、ルーヴァスは直ぐに旅に出た。
ただ、ルーヴァスは過信などしていなかった。例え籠手の力が解放されなくとも魔王を倒す。
そして、その強い意志を持って初代魔王を討伐することになるーーが、やはり籠手の力が必要だったと、最後の最後に気付いてしまった。
それは、魔王が再び生誕の灯火を上げたから他ならなかった。籠手が本当にただの何処にでもあるような籠手ならば、わざわざ大規模な闘技場を開くことなく、ましてやシーラ王国の王が自ら王宮に招き入れることもない。
それに、ルーヴァスが旅路の途中で感じていた籠手からの声とでも言うのだろうか、ある時に限ってだけ耳鳴りがしたという。
ウィナードは、ルーヴァスの言葉の通りに事実を当時の村長に伝え、後に現れるであろう者の為にと籠手を託した。
ただし、籠手の存在はあくまで隠し、勇者たちにとっては喉から手が出るほど欲しい物だと伝えるように言って。その意図とはつまり、勇者たちの知的好奇心を刺激する為。
当時は今よりも宝の存在を強く求める者たちが多かったそうで、魔物が地上に溢れる世の中でもお宝目当てで勇者になる者たちがいたほど。
ルーヴァスはそうした背景を知った上で、村長に籠手を託したという。
籠手を正しく使える者がたとえお宝目当ての者だとしても、そこに選択の余地はない。
が、ルーヴァスはほんのごく僅か、ごく僅かな可能性を信じていたと語る。
その後籠手は、"護り"の力を司る精霊獣カーバングルによって扉の奥に管理されることになり、後に来る勇者の手に渡った。
そう、俺たちが旅路の途中で行ったウォールノーンの村のことだ。
ウォールノーンでセシルが気を失ったのも、霊体で待って居たサラが入った為。
セシルが急に訳の分からないことを言い出したのも同じ理由。
まったく、セシルにとってはえらい迷惑な話だが、見えなかった欠けた情報が繋がれた瞬間でもあった。
そうしてルーヴァスの話を聞き入っていると、空間の中が時折歪み始める。
どうやら、別次元の滞在出来る時間が残り少なくなって来たようだ。




