8、学園ものだからと言って授業風景が詳細に語られることはない。
学園ものだからと言って授業風景が詳細に語られることはない。
果然これを学園ものと言っていいのかどうなのか疑問に思う。大体のその系列の話は朝や昼休み、休日に行事ごとしか描写しない。
それを学校の楽しい所と言うならばこれだけなのか。
大部分は楽しくないという社会の共通認識なのか。
授業を楽しかったと、別に悪くないなぁなどと表現するのが小説ではないのか?いいや、どうこうしても授業はつまらないということか。
これは革新を与えられない教師の仕業か。
だって、今は放課後。
授業を午前中、それと午後少し受けきった生徒たちはぐったりと元気がない。いや、空元気はある。
放課後と言うのはそれだけパワーがあるということなんだろう。
もう半日超も終わっているというのに皆非常に嬉しそうだ。不思議ではあった。新鮮でもあった。
わちゃわちゃと楽しそうだ。儚い人生で一瞬でも最高の輝きを得ようとしているかのように美しかった。
まあ。今はそれを通り越して煩わしく思えて来たのだが……。
特にその渦中となっているのは天川天のグループだった。最大勢力最大派閥。
このクラスの女子の約半数。クラスで言えば四分の一程度のグループだった。天ちゃんの友達百人と言うのは伊達ではなかった。
そして、そのグループで渦中になっているのがもう一人いる。
私だ。
「元知さん。元知さん。元知さんはどうしてそんなに可愛いの?」
「そうだよね~。頑張ってスキンケアして、メイクして、男さ~侍らそうと躍起になっている舞と違うよね~」
「確かに確かにっ。舞さんはそういう所が駄目なんや。完全に良くないんよ。なっ。うちらは大人しく少子高齢社会を加速させへんか?」
「はい?そんなことするかよ?肩組に来られても困るんだよ」
「そうだ~。かなこだけが一生涯彼氏いないんだよ~」
「ちょっ凛さんは、こっち側やろ?少子化戦犯で一緒に血祭りに上げられようなあ?」
「違うでしょ。凛香は意外と持てるんだよ?知らないの?」
「照れるなぁ~」
「凛さんも照れるなや。てか、うちを陥れたいがために嘘つかなくていいって」
「そんな訳ないでしょ。アンタが狙ってた先輩、凛香に告白して振られたって来たんだけどお?」
「知らないよぉ~。どの先輩だよぉ~」
「ど、どの先輩だとっ……。これから推定されるのは数多くの先輩から……凛さんは敵やったんかっ」
「そうだ。真の敵は凛香だったんだよ?」
「いやいや~。そんな目を向けられても困っちゃうよ~。告白されても誰も付き合わなかったから殆ど意味ないし~。でも、これからはこんなに来ないと思うよ?これからはほらもっといい人が居るから~」
「あ……ああ」
「強敵ね。ねぇねぇ。どうして元知さんは可愛いの?」
私の番がようやっと回って来たと言っていいのだな?――それにしては最悪のタイミングでしかない。
一周して最初の結論と一緒なのだが随分と意味合いが違っているように思える。
目の敵にされている。
右が小野倉舞、私の方に腕をだらんとしているのが伽華凛香、左に伽華凛香である。
先ほどの会話もこの順番で進んでいた。
この三人は天ちゃんのグループの中でもまだ度胸のある人たちみたいだ。
友達の友達は友達になりやすいという論理を早速適応している訳だ。とはいえクラスの四分の一あるグループの半分もない。まだ広がる可能性もあるがこんなものでいい。私について甘酸っぱい会話をしているこの三人で十分な気がしてきた。これが卒業まで続くのだろうか。
「ちょっとちょっと三人。恵神の周りを取り囲んで喧嘩しない」
「天さん。喧嘩やない。意見の衝突。議論の成熟の過程やねん」
「そうだ。そうだ。外野は引っ込んでろお。我らでその裏切り者を粛清しなければっ」
桐花さんと小野倉さんはぶーぶーと伽華さんを非難している。
これが彼氏のできない女性の悲しき叫びか。ここが心霊スポットとして全国に馳せるのも遠くない未来なのだろう。
「そうなら、私は結構糾弾されるのでは?」
「ああ……」
「ああ……」
二人は顔を見合わせた。それもそうだとアイコンタクトで合意した。仲いいね。
「お前らずるいぞー」
「「ぶーぶーぶーぶー」」
おそらくこの世で最も無駄な訴えが私の左右で聞こえている。
「御免ね~。恵神ちゃん。申し訳ないなぁ~」とおっとりとした口調で伽華さんは言った。
こういう所で持てるか持てないかが決まっている気がしてならない。素直で純粋ですぐ謝れるのは意外と基本的で誰もがすべき能力なのだ。
「飴ちゃんとか要る~?チョコレートとかもあるよ~」とか言って袋を取り出した。いやいや、そこまでの詫びは要らない。
若干私が困っていると、外野が五月蠅くなってきた。
「次は恵神を取り込もうとするのかっ。女からも持てる凛香は結構ですねぇ。私はイチゴの飴が欲しい」
「凛さん。うちに譲ってくださいよ。大体。飴ちゃんキャラは関西人であるうちやろ。うちはやっぱメロンの飴を……」
五月蠅い外野が伽華さんによって餌付けされている。貪り始めたから私はすぐさま距離を取ることにした。
なぜなら餌付けされた後また騒ぎ始めた。
特に彼氏が欲しいと喚いていた小野倉が五月蠅い。色恋は素晴らしいものだけれど、そこまで言われたら煩わしく思う。
グルグルとここで言い争われても困るんだが。
これを看過できない天ちゃんは「そろそろその辺でいいんじゃないか?そんなに色々いうのだったら私が、初めて合コンを開催してあげるから」と言った。なんか凄いこと言っている。
天ちゃんが一方的な損で終わっている。
「ははっ。女に二言はないよな?」
「そりゃ。ないわよ。私は」
「おお。言い切れるなんて天さん。最高。うちなら二転三転するのに」
「駄目だな。夏夏呼は」
「ははっ」
「さて、こんなところで無駄口叩いて…いるのはこの三人か。まあ気にせず、行きましょう?」
「はいそうですね」と私は頷いて、立ち上がった。
「ちょ、ちょお~私は関係ないですよ~」
「うちも関係ないな。全ては舞さんのせい」
「はあっ。押し付けるなよ。連帯責任だろ」
「ハイハイ。連帯責任って言うのは悪さが分配一律になるわけで一番悪い人だけが得する制度なんやで?自白、有難う。舞さん?」
「己ええ」
「争わないと済まないのか?〇〇〇しないと出られない部屋があったら真っ先に投入する」
「そんな殺生な……」と言いながら天ちゃんに抱き着いた。
「そこまでしないと駄目だろう?呉越同舟だが、楚越同舟だが知らないけど、強権ぐらい発動しないと収まらなさそう。無理矢理作るのを検討すべきかも」
「殺生……」
抱き着いていた舞さんをさらりと交わしながら教室の扉前に立った。
舞さんはベタっと床に突っ伏した。非常に滑稽なスタイルだった。
「恵神、行くよっ」
私は言われるがままついていくしかなかった。
あの三人は放っておいていいのかな?とか思ったが、気にすることもないことはすぐに分かる。にこりともう隣に立っていた。タフなことで。




