表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Resign  作者: Nomulesse oblige


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/19

7、神は漸く学校に赴く。

 明くる日。

 次の日と使うのが何故か幼稚っぽく感じさせたので、こっちの言葉を使ってみたがしっくりと来なかった。


 何を使えば良かったのだ。

 朝から隔靴搔痒(かっかそうよう)に感じて仕方がない。

 それともう一つ言語的悩みがある。


 私は意気揚々とステップを刻みながら定刻に高校の職員室という目的地に辿り着いた。


「すみません」

「ん?『もとちめぐみ』なのか?」


 もとち?果てさてそんな名前に聞き覚えがないのだが、もしかしなくても私の名前を読んでいるのか?確かに私に名前など無いに等しい。知恵の神などあだ名みたいなものである。


 ああ。盲点だった。人間界には名前がいるのか……。

 ならば適当に、適当に後輩が名付けてくれたのだろうか。『もとちめぐみ』と。


「そうだと思います」

「少しばかり待って欲しい。書類の顔を見比べて本人確認を行わないとならない……」


 その教員らしき人物はその書類と言うものを取り出した。じっくりと私の顔を凝視していた。しかし、その時の私は面食らった顔でもしていたのではないだろうか。

 その資料がちらりとこちらに見えてしまったのだ。


 『もとちめぐみ』これの漢字表記が『元知恵神』だったのだ。

 適当とは私は思ったが、それは適切に当てはめろという意味でいい加減ではなかった筈……。


 元知恵神ではもうその儘だろう。助詞の『の』を入れれば元知恵の神になる。現知恵の神が名付けていいような名前ではない。そういった点で私の頭を悩ませた。


 だが、戸籍謄本だってこの名前で登録されているのだから、どうあがいた所でそう易々と変えられるものではない。仕方がない。神様(こうはい)から賜った有難い名前だと思いましょう。


 こんなもどかしさそのものを抱えながら私は教室に案内された。

 さっきの教員らしき人は担任の先生らしかった。

 その人物と共に朝のホームルームへと突入した。案の定私は自己紹介と言うものをさせられた。経験としては初めてである。


「私は元知恵神です。特技は特にありませんが、一介の市民として懸命に生きています。どうぞ宜しくお願い致します」


 非常に完結な紹介である。

 始めてにしては出来は良いではないかと手ごたえ見たいなのはあった。


 そもそも聞かれてないという感じでもあった。そこの人間の雄たち…雌も同様か…私の容姿の話ばかりである。神だったのだ。そりゃ絵画に描かれるほど美しいに決まっている。


 ああ。そうだ一個言うのを忘れていたが転校生は黒板に自分自身の名前を書くというのが一種の通過儀礼であるが私はそれを見送った。


 まだ、この名前に慣れていないというのもあるが、さっきの葛藤を引きずっているから上手く書ける気がしなかったからだ。


 だから見送った。

 黒板からも見送った。私が指定された席に移動しただけである。

 窓際の教壇から最も遠い席。ここだった。俗に主人公席ともいうが、こんなもの教室の真ん中から右下の席などと言われて理解できるわけがない。だからこそ分かりやすい席に設定されているだけだろう。私の席もその一環だ。


 こんなことを考えているとホームルームが終わってしまった。

 転校生だからしっかり話は聞いておかないと後々困ってしまうのに……。大層私は抜けている。全知だった弊害か。


 まあいいや、こんな時には助け合える友達成るものを作るべきだと知っている。しかし、陰キャには難しいとか、そんな一部の人間には難易度の高い高尚なものらしいのだが、その高い難易度を超えるのも楽しいだろう。要は友達作りに息巻いたという訳だ。


 そんなこんなをしていると「元知さん!」と煩わしくもなるほど溌剌な声が響いた。誰かが噂でもしているのだろう。転校生についての話題を友人間で交換することに何ら違和感はない。寧ろその話をして、転校生に話しかける人の方が珍しいことである。行きつく所、転校生と話をする人など限られている。

 興味本位の人のみである。それでもいい転校生の珍しさの勢いで友達を作るしかない。


「元知さん?」と二度目の私を呼び声が聞こえたので、自意識過剰にならざるを得なかった。私は顔を上げて、発声元を探した。


 探すまでもなく見つけられた。見つかったと言うべきでしょう。

 前の席の人が話しかけて来た。

 意外ではないが、話掛けやすい席と言うのは自分より一つ前だろう。学生時代を経験した人が経験則で知っている。


 横ではなく縦。横では若干の距離がある。隣同士の机が最も接近するのは教科書を忘れるときだろう。そんなイベントは滅多に発生しない。

 だからこそ私は渡りに船かと思った。


「反応してくれましたわね?元知さん」

「はい元知です」

「恵神って呼んでいい?あ、あたしは天川天(てんかわてん)。天は二物を与えずと言ったけれど、私は天。天だから私が与える側よ」

 ……。

 どう反応したら。正解なんだ?恋愛シミュレーションゲームならば選択肢すら浮かばないほど意味の分からなさだ。それをしたり顔で言ってくるものだから、可笑しな人だと思った。


 それともこんな同級生の間で先輩風を吹かせたいのかと思えばそれも違う気がする。結局私は開口一番に発せられた言葉にずっと当惑を隠せずにいるとようやくまずったことを相手も自覚してくれたのか、軌道修正を図ろうと笑顔を見せた。


「ははっ。友情には厚い女よ。天ちゃんとでも呼んでくれたらいいわ」


 やはり同級生であるのに先輩風を吹かせたがっている人なのかもしれないという位置づけになった。しょうがない先輩風を着せるために私はそう呼んでやることにした。


「くうう……。良いわ。凄く良いわ。こう呼んでもらえたの初めてだから」


 ここではもう出回っている通名とかを出してくるものだ。天ちゃんと言うものに私は若干ながら引っかかりを見せるが、ともあれ天ちゃんは高揚していた。今直ぐに床に寝っ転がってジタバタとのた打ち回りそうだった。


「えっと恵神はなんかのモデルとかしてるの?」

「してないが?」

「えっと……ほんとに?嘘ついてないよね?じゃあ。スキンケアとかどういうの使ってるの?逆だけどメイクしたら駄目になりそうなくらい整い過ぎてるわ」

「えっと……何もしていない……」と私はほっぺを触りながら言った。


 どうもこうも言われても数十億年この顔でやって来たものだから整っているとかなんとかも自覚と言うか脳味噌のリソースを割く必要もない。


 これが当たり前で、私の後輩の方がずっともっと整っていたような気もする。

 だからこそ自己評価をすれば並み程度だと思っていた。

 しかし、地上ではそうではないようだ。天ちゃんが非常に間抜けな顔で唖然と口を開けていた。


「それが本当ならもうあれだわ。傾国の美女。天使だわ。天使に違いない」

「何もそこまで……」


 謙遜をする。天使と言うけど、私は元神だ。今天使と言うなら天ちゃんの使いになるけど。


「それを言うなら天ちゃんも綺麗だと思うけど?」

「い、嫌味?嫌味になってしまうよ。それ。容姿に付いて何も自慢も何もしない方がいいわ。卑下も自慢のうちだってそれは。恵神、アンタは整い過ぎてて男子が日和見を見せて、女子は顔を直視できなくて話しかけずにそうにしているわ」


「じゃあ天ちゃんはド級の度胸をお持ちなのか?」

「当た棒よ。伊達に友達百人リアルタイムアタックを入学時に決行していたあたしじゃないわ」


 手を腰に当て自慢気に豪語した。

 なるほどそれぐらいの人物ではないと私に話しかけてはいけないと思っているのか……。

 それは困ったものだ。神が困ってしまった。


「じゃあ。私もそのプログラムに入れば……」

「そんなことをしてしまえばあたしの努力の結晶が水の泡ですわ。恵神なら瞬く間に本当に目叩く間に出来てしまうわ。あたしのリアルタイムアタックの記録を消し炭にしてしまうこと間違いなし」


 それはそれで申し訳ないな……。


「でも、忠告……忠告って言ったら強制力が働きそうだから、アドバイスと言って置くわ。あの友達百人より、たった一人の友人を作って来なさいと言うヨーロッパの考えの方があるそうよ?そっちの方が本来あたし向きなのだけど」

「一行矛盾撞着」


「まあ。だからこそ、あたしは貴方の一人目の友達に立候補するわ」


 だからこそって何がだからこそだ?接続詞として何も機能していない。


「そう。友達は立候補するものではなくて、大層勝手になるものでないか?」

「それはそうね。じゃあこれから友情を育めばいいものだわ。宜しく」


 そう言って天ちゃんは手を差し伸ばして来た。これを受ける理由はあれど拒む理由はない。

 私はこれに応じるのみだった。


「では、放課後にでも学校案内しようかしら。こうするのがセオリーでしょう?あ、時間ある?」


 にっこりと向き直った。天川天。無邪気な子供っ気が抜けない人物のようだと感じた。良く言えば純粋。悪く言えば――不器用。


 そんな人だと思った。良い奴だ。

 それが友人でも構わない。そう思えた。


 私は勿論行くという趣旨を伝えた。


 若干微笑ましく思ったが、時計を見るともう間もなく授業が始まるようだ。

 授業……授業…。


 授業と言えば教科書がいるのだがほっとんど私は手ぶらで来てしまった。ペン一本とメモ帳のみ。

 胸ポケットで事足りる程度だ。それのみだ。教科書なんてまだ届いていない。


 隣に見せて貰えばいいだろう?

 いや、隣に誰もいないんだが?この場合はどうすればいい?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ