21、中二病患者はまだ高校では絶滅していない。
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私は只ぼおっと一つのルーティングを無心で熟すかのように、お布団から出て、ご飯を食べるかのように、教室に這入った。
だからかいつこの教室に這入ったかどうか覚えていないそんなレベルで染みこんでしまった。
気づいたら椅子に座っていた。ただ何もない教室の椅子で。
特に私の椅子とも書いていないがルール上はそうなっているだけのただの椅子に座った。特に感想はない。あのワクワクした感情が消えてしまったようだ。
まあ。ルーティング上の一つになればそういうことになってしまうのだろう。これでは天にいた頃と変わらないのではないかと、そう一存してしまった。
いつものように窓の外を眺めて黄昏て見るけれどただただ暇の一言に尽きた。全くの思いつきで時間割でも鑑賞しようかと立ち上がろうとした瞬間「わっ」と情けない声を漏らしてしまった。
いつの間にかきずなあまねの席に見たことない人が本を見ながら座っていたからである。本当にいつの間にかである。私の神の洞察力を持ってしてでなおこの目を搔い潜ったことに賞賛を与えよう。
しかし、こんな女生徒は見たことがない。この学校でこんな特徴的な人は居なかった。これと言って特徴はないのだが、ただ一つだけで目立っているものがある。彼女は眼帯をしていた。中二病患者と言うのが適当だった。美しく思った。
見たことがないのなら、この人は正真正銘のきずなあまねなんだろうと、私は窓の外を見ながら考えた。
彼女を見ながら考えるなんて無粋なことはしない。そもそも見ているだけでも話しかけろって言う雰囲気を醸し出してしまう。
私の中にいる黒い塊が反応して直視しない方がいいと言っている。
「あの。ねえ。貴方様は誰なんですか?」
ああ。話しかけられてしまった。
この場合無視するのはそれはそれは極悪人となるだろう。勇気を振り絞った陰キャの言葉を無視する無神経なギャルのように極悪人に成り下がってしまう。
不可抗力だ。
「ん?」とほんを閉じて、私の方に向き直った。その顔は美しかった。
ほんの数秒間見惚れていたのもあるけれど、ただただ言葉がつっかえて言葉が出なかった。
「元知です。元知恵神です。呼び方は何でも」
「へえ。わたくしはきずなあまねですわ。お見知り遊ばせ」
「ちゃんと覚えました」
「本当ですか?」
「それはどういう……」
「別になにもありません」
?
良くわからない人である。こうやって自己紹介をしたのだけれど、その後彼女は武骨な本を取り出して読み耽ってしまった。私は普通を知らないけれど、この後は大体談笑が続くものではないのだろうか。一言二言で終わって、沈黙という結末は何とも言えないのである。
まあ。少しぐらいは退屈な朝早いこの時間の暇つぶしになっただろう。
さて、また暇になってしまったし、別に時間割りを見る気も失せた。アイデアを借りて私も本でも読むことにしようと思ったけれど、流石思い付きである。本なんて持ってはいない。
辞典しかない。国語辞典。しょうがない暇つぶしに読もう。
ペラペラと捲る。
「ぬわっ」
「あ」
“あ”とは―――何かに驚いたり、気付いたり、深く感じたりしたときに、思わず出す声。国語辞典にて。
いやいや。そんなものはどうでもいい。目に付いたから読み上げたまで。それより早くに目に付いたものがあるではないか。目の前には驚かせることに成功させてにやにやしている桐花さんが立てた国語辞典越しに垣間見えた。
「な、何を……」
「な~に読んでん?」
ぺらりと開巻を見た。
「国語辞ー典?本当に何読んでんや?」
「まあ。暇だったから以外に理由もないのだけれど」
「この部屋に居る連中は変なものしか読んでないやん」
ここにいるのは貴方と私ときずなあまねだけだけど。
「確かにそうであるのだけれど、いやいや。国語辞典もまあまあ。面白いものですよ?まあえーと。国語辞典にTwitterの記載があるのですよ?」
「もうXやろ。型落ちやんか」
「確かにそうですけど。面白いじゃないですか」
「とは思うけど、けどな。うちは遠慮やな。トイレ行きたい」
「ちょっとちょっと。めんどくさいからってトイレに行かないでくださいよー」と私は引き留めるのだけれど、無慈悲に置いて行かれる。私は追いかけた。
この部外者であるきずなあまねがいて色々と話づらい空気が漂っていたのでこれに託けて逃げると言う計らいがあった。後単純にトイレに行きたかったのは黙っておこう。
教室から出て行く際きずなあまねに一瞥された感覚があったのだが、気のせいだろう。
「あのさ~。えっと。恵神。きずなさんなんか言ってはったか?」
先陣を切ったのは桐花さんだった。非常にぎこちなくもあるように訪ねて来た。
「別に何も言っていませんでしたよ?」
「そうなの?きずなあまねと君が邂逅するのは初めてやろう?何かちょっかいか厄介かを掛けなかったか?具体的に言えば、話しかけるとか」
「ちょっと。ほんのちょっとですけど話しかけられましたよ?」
そういう雰囲気で。ただの不可抗力で。負荷高力で。
「本当に言っている?る、ではなくられる?」
「そう」
桐花さんは驚嘆のあまり共通語にシフトした。いや。そこまで驚きなのか?私は弁明ではないし、良いわけでもないけれど、漠然とした贔屓目を感じたのでもう少し詳細を話すことでその驚嘆具合を取り除けるかと愚考した。
「若干話を交わしたけど、自己紹介して終わりましたよ?あとは無言です」
「へえ。それは珍しいこともあるんやな」
失敗に終わった。驚嘆を通り越して、ある意味感心を受けている。それとも寒心か。
「珍しいんですか?」
「そりゃ。どれくらい珍しいか語るのも烏滸がましい程度には珍しいな。珍獣や。珍獣」
ここにいるはずもないその話題の人物の方向を向いた。
「だって、今年度上がって一回も学校来ていないって言う人やな。前年度も何回来てたか分からない人だ。単位足りてはるんかな?」
「足りてないんじゃないですか。それにしてもかなり珍しんですね」
「そうだな。その上話すのは奇跡なんだろうな。うちなんて離されるだけやのに」
「誰に対してでもですか?」
「まあ。そうやな。ていうか、やっぱり彼女と話したことあるのは教師ぐらいって言うもんやな。天が話しかけて見事に撃沈した相手や。もう無理ちゃうか」
確かに、天ちゃんが仲良くなれなかったなら、天に引きこもっていた私なんて痰吐き掛けられて終わりだろう。
「じゃあ。私どうして、無視されなかったのでしょう?」
「う~ん。難しい話やな」と考えこんでしまったようだけど、「やっぱり、気に入られたのか。敵として受け入れられたか。どっちかかな」と言った。
前半はまあ順当であるけれど、後半は分からない。
「敵?」
「そう。敵。彼女はどうでもいい人には話掛けへんのや。ほら、好きの反対は嫌いではなく無関心というし……」
「仮に敵として認識されてしまったならどうなるんですか?」
「そりゃあ」と桐花さんは黙った。
あれ?何かあるみたいじゃないか。触れてはいけないものに触れてしまったのだろうか。
黙ってトイレの扉を開けようとした。しかし、彼女は体重を持っていかれる。それは同時に扉が開いたからである。
「おっ」
「お……」
出て来たのは天川天だった。眠たそうに背筋を垂らして、ぼおっと立っていた。まだ起きていないらしい。
「天か。おはようさん」
「お~はよう~。あ~。恵神もおはよー」
「おはようございます」
ペコリと頭を下げた。天ちゃんも頭を下げた。
……。えーと。天使が通ったね。
「ああ。そうや。天」
「なに?」
「あのさあ。あの事語ってやってや」
「あのとは何よ」
「きずなあまねの」




