20、この事件まるでノックスの十戒破りである。
はあ。
私がこの解決編に正直調子が乗らなかったのはこのせいである。
魔力、魔法と言えばあらゆるトリックを無視してその魔法のせいと言えば解決だからである。実際そうであるし。そして、確実に彼女はこの事件に置いてその能力を行使した。
この事件まるでノックスの十戒破りである。
「魔法、魔術の類のものを彼女らに使いましたね?」
「ほお……」
きずなあまねは香ばしい顔をしている。
「貴方は魔法使いではなくて?」
私ははっきりと口に出した。出さないと理解しない人であるのを感じていたからだ。
だからか、彼女は私と若干の距離を取った。そのせいで左肩が濡れる。
「何故。わたくしがそうだと言うんですか?そんな魔法的なものは誰だって持っている可能性があるじゃないですかね?決定的なこの人と言える例えば防犯カメラとかなければ証拠として提出できないでしょう」
「確かにそうですね。残念ながら物的証拠はありません」
「ほら」
「ですが……」と言って私は指自分自身の目を差した。そこへ注目するようにと。
「見えるからですよ。魔力が」
「……」
彼女は停止した。口も体も何もかも驚きのあまり停止してしまった。
沈黙は同意と同じことだ。
「そう。事情は省きますけれど」
「で、見えるからと言ってわたくしが犯人って訳ではないでしょう?」
苦しい論を展開させた。
君は君自身を犯人だと認めているのに、どうしてそこまで訊いてくるのか謎で仕方がなかった。
「いいや。私には分かります。貴方の魔力の波長と、事件に残るあの魔力は同一でした。それにそれを裏付けるかのように貴方のは強い。禍々しくある」
周りからはなんてことない雨の降り頻る公園にしか見えないだろう。けれど、私には見ていられないくらいに禍々しい。
小野倉さんや、桐花さん、伽華さんの時と比べ者にならない。
はっきり言って暗黒だ。黒ずんで見える。ブラックホールの中心に来たようにしか見えない。歪みに歪んで未だにはっきりときずなあまねがどんな顔をしているのかイマイチ良く分からない。そんな光景である。
「へえ。それは貴方様も随分とその魔法紛いなことを出来ると言うことですわね」
「まあ。そうかもしれないし、違うかも知れない」
これは神であったころの名残なんて言ったところで、誰も信じないでしょう?
貴方が魔法使いであるのと誰彼構わず言いふらしたところで……それと結果は変わらない。それをする興味も面白みもない。
私が道化になったところで私は面白いか?
「私は端からこんなことどうでもいいんですよ」
「どうでもいい?」
「そう。どうでもいい」
「貴方と会う前に解決してしまったなら、それまでの道筋はどうでもいいじゃないですか」
「ほう。じゃあ。今までのわたくしたちの会話は無駄であったと言いたいのですか?」
「無駄だろうね。私にとっては」
「ほう。貴方様……。相当やりづらい相手ですわね」
「そうですか?」
「ええ」と彼女は歯痒い表情を見せた。
「ですが、解決編としても、動機の点で言えば、ただ推測に推測を重ねても、やっぱり妄想にしかならない。真実ではないのです。それを訊けたら来てよかったとは思いますね」
「へえ。貴方様はやけに上から目線でいらっしゃいますのね」
「そういう性分身分だったもので」
「ならいいでしょう。ちょっとは……。私が魔法使いになったのは数えもしない。数える暇もなかった頃でしょうね」
「子供の頃からの回想から始めるのですか?」
「そりゃあ。そっちの方がわたくしの悲劇のヒロインっぷりが分かるでしょう」
「いいですよ。そう言うの。どう悲劇であっても」
対象的につんけんどんに言い放つ。
「始めのわたくしは魔女でした。それは一角のどこにでもある田舎の本屋で出会ったしょうもない絵本からでした」と言ってぎゅっと二の腕を掴まれた。
「その次のわたくしは、少女の血をかき集めて悪魔にでもなってしまおうかと思いました」と私の鼻筋指でなぞった。
どうして、彼女はこんなに体を密着させたがるのかということを。
そんなことされれば、私は逃げれない……。あ。なんて私は暢気だったのだろう。
彼女は語りの先をいう訳ではなく、「ふふ」とにやついた。
こうやって傘に入れた所から計算されていたのだろうか。計算されていてもそうでなくとも、これは私が傘を持たなかったことが悪い。
しかし、そんな些細なミスがこのような危機に見舞われるとは、なんか面白くなってきた。詰まらない解答編が面白い解答編に瞬時に変化した。
私は踵を返し、雨に濡れるのも構わず、取り敢えず遠くに逃亡を図った。
それでも私は人間である。人間レベルにしか能力がない。魔法使いには敵わない。彼女の手から魔法陣が展開され、この公園を覆った。
まんまと袋のネズミだった。
「ははっ。お嬢ちゃん。貴方様は馬鹿ですね。いいや、わたくしが犯人であると気が付いた脳味噌は褒めてあげましょう。けれど、教師が教えたその住所はわたくしが改竄させていただいたものです。計画のまんまです」
ほう。嵌められていたのか。まんまと誘導されのこのこと適当な推理ごっこをしていたと言うのか。
私の方が馬鹿ではないか。
こんな私では今の状況をどうすることもできないじゃないか。打開策を練る暇もないではないか。
「さあって。わたくしの計画はこれにて果たされます」と言ってかちりと、瓶詰を割って液体を喉に注ぎ込んだ。
その液体の色は真っ赤な深紅の色だった。ああ。これのためか。ようやく事件の動機が分かったような気がした。魔法の動力は血であるのだ。
「ばれてしまった代わりには記憶を消さないことにはどうにもならないのですよ」
「最後に言いですか?」
「なんだ?」
「どうして、小野倉さんたちなんでしょうか?」
「ははっ。そんなことか。まあ。記憶が無くなるならまあいいよ。いいよ教えてあげましょう」
不敵な笑みを浮かべた。
「ただの私怨です」といいって魔法陣を発現した。私怨?私怨何が?とか思い当る節を探す時間もなくただただその向かってくる魔法に見とれていた。
紫のような青のような。色彩で言えば丁度命名がしづらい色だった。この色に私は全身を包み込まれた。
私は元神だ。元神で、人間になることを望んだ私だ。
そして、ようやくこれで人間に成れたし、慣れた気がした。
なぜなら私は何もできなかったからである。
だが、楽しくなかったのは事実だった。




