18、一難去ってまた一難の、三度目の正直を作ってしまったのではないか。
食事を台無しにされた日の翌日。
私は工場の流れ作業の如くこの事件の犯人は分かったと思った。
急に何を根拠に言っているのかと、どうにか私が成ってしまったのではないかと思うかもしれない。まだこの作品は半分ほどの分量しかないから適当なことでも嘯いでいるんじゃないかと勘繰られるかもしれない。まあ。話半分でもいい。私だって話半分でしか話していない。
まあ。つらつらと論理を並べるほどいいものではない。端的に話そうか。
犯人はおそらくいやこんな推量の副詞をつけるまでもない。確実にまごうことなくきずなあまねだ。
「あー。おはよう。恵神」
実に単純な論理であると気が付いたのはベットから起き上がろうとしたとき。
気づいてしまった私はもうそれはそれは玩具を盗られた子供のように無気力になってしまった。だから、全く起き上がる気にもなれず、後十五分程度で、ホームルームらしいと言う所で、学校の通用門を潜った。そして、殆ど、教室に這入る私と同時刻に、いや追いかけたのは天ちゃんだった。天ちゃんもこんなに遅い時間なのか。意想外だと思い、目をあちこち遣るとほんのりと頭部が濡れていたことに気が付いた。
窓の外を見るに、今日は若干の雨が降っているらしい。見事に乱層雲が当たり一帯を覆い隠している。どんよりと薄暗く気分的には余りいいものではなかった。
それでも形式的には元気に「おはよう」と私は返して置いた。
「いやあ。ちょっと遅刻してしまいかけたんだけれど、それに加えて雨が降ってくるなんて、一難去ってまた一難も早とちりしちゃったみたいだわ」
「それは災難ですね」と言った瞬間、あれを訊こうを思えた。さっき論じていた論の補足情報が欲しい。
やや無理繰りだけれど、私はこう切り出しした。
「あの……私の隣の席はきずなさんよね?」と。
私の席の隣は空席だった。私以外誰も来ていないから空席なのは当たり前なのだけど、ずっと空いている席である。
だから私はここずっと届かない私の教科書の代わりを教師から借りなければならなかったのだ。
教師から借りるというのは苦ではないが、面倒だった。そんな面倒を間接的にかけた人。私はこの人が結局のところ犯人だと位置付けた。
別に私怨では毛頭ない。一旦は候補に挙がっていたが、動機と言う線で外された。しかし、決定的な動機があったとも言えよう。
「あ……。急にどうしたの?まあ。ここは創作さんだね。創作零周の席」
何故か不機嫌な顔をした。睨み付けた顔をした。一難去ってまた一難の、三度目の正直を作ってしまったのではないかと憚られたが、訊いてしまったものは戻れなかった。
「えっと、創作って書いてきずなって読むらしいけど、銃創の創に、作すの作で捻り過ぎではないか?」
「ああ。字面だけでは読むの難しいもの。書き方は変わっているけど読み方は普通でしょう?」
「まあ。確かにだけど。どことなくファンタジー味があるけれども。ところでその人はどんな人なんですか?」
「どんな人って言われてもなあ。創作さんは殆ど学校に来ないから……印象と言う印象がないね」
「学校に来ないの?」
「そう。何故だか?今学年に上がっても殆ど見ていないかもしれないね。いじめがあったわけでもないし、中学校の時いじめがあって対人恐怖症を患っているのなら、私にはどうにもできない案件だわ」
「殆どって言ってたけど、まるで一回来たかのようですが…」
「来たよ。彼女は」
「どうして?」
「どうしてって?それはよく分からないけど……。授業にはちゃんちゃら参加はしなかったから余りしっかりとは見ていないわ。すぐにふらふらと保健室に向かったもの」
「へ~。その人はどういう印象?」
「とても話しかけづらい人かなとは思うね。全てに敵対心を抱いているような……。まあこれも偏見でしかないのかしら。私良く話したことないから。と言うかこの学校でよく話す生徒がいるなら驚天動地だわ。かなりの物好きだと言えるね。そんなんだから、聞くなら先生とかの方がいいよ?特に保健室とか、まさしく担任のあの教師とか。私が知っているのはこの限りだわ。もういいでしょ」
天ちゃんは投げ捨てた。もっと色々とだらだらと訊きたいことは山積しているが、そんな態度をされたラ止めざるを得ない。
私は微妙な気持ちながら「ありがとう」と言って置いた。
さて、訊くことには訊いたけれど、とてもいい収穫とは言えない。伝聞などそんなものだろう。結局は自分で確かめるのが普通の選択であろう。
ではその人とコンタクトを取るにはどうするのか考えなければならない。いきなり職員室に行って先生に創作さんのことを尋ねるのも不可解である。
なので私は訪ねることにした。直接的に。最も簡単な解決方法ではある。
けども、私はそんなきずなさんの家なんてしらない。
天ちゃんに須らく訪ねて見たのだけれど「知らない」と一点張りだった。ダメ元で小野倉さん、桐花さん、伽華さんにメッセンジャーアプリで訊いてみたものの知らなかった。桐花さんに関しては返信すら返ってこない状態であった。どんだけ怠惰に過ごしているのか想像するには容易だった。
う~む。どうしようか。どうしようもない。親密なひとの住所を知っているのも珍しいものであるのに、関わりの全くない人の住所など知っているのはもはやストーカーの類ではないだろうか。そのストーカーが今こそ必要であるけど、傍にはいて欲しくない。と言うか私がストーカーではないかと薄々思って来た。聞いて回って住所特定を図ろうとしている行為は十分にストーカーとして見なされる行為である。恥を晒すのは全くよろしくない。
仕方がない。忌避していたが、ただ一人だけに恥を晒す方がいい。一人くらいには奇々怪々に思われるのは自然ではないか。
だって元神だもの。
どうしようもないので私のホームルームの教師に尋ねた。
ビクビクと何を言われるのか様々憶測を飛ばしたものであるが、取り越し苦労に過ぎなかった。
なぜなら、案外あっさりと教師は教えてくれた。生徒名簿を適当に私に投げた。全くダウナー過ぎやしないか。やはり公務員教師でしかない。公務員教師代表を務められる程には公務員教師をしていると言いたいところではあるけれどそれ以下であろう。個人情報保護法って知っているのかな?
まあ。それもまた好都合ではあるけれど、こんな人でも理由を訊いてこないほど干渉しない訳ではなく、「私が色々と話したいことがありまして……」なんと言う拙い言い訳を聞いて許諾を与えてくれたのだ。もっと適当に「つー」とか「かー」とか言っていても許可してくれるのではなかという程には適当だった。もしそうであるなら公務員教師以下であるのは確定事項だ。所詮マニュアル人間か。と嘲笑して、自虐でもあるけれど、取り敢えずその住所に向かうことにした。




