17、どくどくと静脈動脈がリズムを刻んでいた。
え?なんで?
伽華さんが食卓に伏す様に倒れた。予告もなくそれが当然であるかのように、突然に。
「凛香?ど、どうしたの……?」
私はこの光景に呆気を取られ暫く行動できなかった。脳の処理が止まってしまったかのように硬直していた。こんなはずがないと。
それと同時に予想外の展開に小躍りしたくなるほどの高揚を覚えているのか。
胸を押さえる。どくどくと静脈動脈がリズムを刻んでいた。
このリズムを断絶するように天ちゃんは伽華さんの元へ駆け寄った。
ああ。リズムに気を取られている場合ではないと、我に返った。
見ると、「凛香?凛香?」と天ちゃんは不安そうに必死に体を揺らしていた。
「うぐう」「うぐう」と伽華さんのそれが唸っているのがかすかに聞こえる。
「あんまり揺らすものじゃない。大丈夫。さほど問題はない」
「ど、どうして……そう言えるの?」
「寝ているだけだから」
このような息の吐き方はおそらく眠っているだけ……。
気絶のように見えたけど、ただただ眠っているだけであった。バタリと深刻そうに倒れたけれど、ただの寝落ちである。言うなれば、桐花さんと症状と同じである。だが、桐花さんより幾らかマシのように思える。泥のようないつ起きるか分からない眠りではなく、眠り自体は浅かった。これならすぐに起き上がるだろう。だから安心しろ。そう言ったことを天ちゃんに説明した。
「でも、ねえ。やっぱり……私のせいで……」
彼女は徐に皿の方を見た。
「そんなことは一概に言えない。伽華さんをこのように出来るのはなにも天ちゃんだけじゃないし、私だって出来ることだよ?」
「確かにそうではあるけれど……」
天ちゃんは一つも納得はしていないような顔を見せていた。
じゃあ納得させるにはどうすればいいのかと思うと、そして、私は余りにも残酷な推論を思いついてしまった。伽華凛香をこのように出来るのは何も私たち、私と天川天だけではないということを。
彼女伽華凛香の両親にだって出来ることではあるのだ。余りにも突飛な話であるはすぐ分かる。
適当な論理だ。語れるものではない。特に天ちゃんには。
されども、最も有力な証拠はある。
「でも、そんなことはどうでもいい。理由は至極単純で、やはりと言うべきか、皿に何もなかった。毒を食らわば皿までと言っていたけれど毒なんてなかった。入念に隅々まで、調べて見るけれど、何もなかった。一回その伽華さんの皿を舐めて見て判断して見るのもいいかもしれない」
「ああ……」
そう天ちゃんは頷いて、皿を持ち上げた。下品に舌を出した。だけど、そこまでだった。
「う……ん……。やめとこうかしら。何故か怖いわ」と再び置き直した。
懸命ではある。本当はまだ、何かの成分があるのかもしれない。
元神の私ではない。見落としと言うのがある可能性がある。
「こうやって私が悪くない理由を並べられても犯人は一向に見つからない。非常に歯痒く思う。逆に何かあって私が悪いと診断されたら幾らか気分は楽……というのは只の冗談ね……」
話のトーンが可笑しかった。須らく彼女の言っていることが全く冗談には聞こえなかった。自己犠牲の塊みたいな発言じゃないか。本当に早く犯人を見つけないと自らの身をこの冷たい世間様に投げうってしまうのではないかと心配してしまう。
「間違ってもそんなことしないでくださいね」とわざわざ釘を刺しておかないといけないと思わず言ってしまった。
「多分ね……」
「……」
信用は出来なかった。信用は出来ない返答だった。
この人するぞと心の中で訴えかけられている。完全に天ちゃんは不安定だった。
早く解決しないといけない動機付けになる。
その後の食事と言えば、私の喉はどうにかしてしまったほどに喉にものが通らなかった。
あんだけ楽しみにしていたのに……。




