13、これは事件。紛れもなく自然発生的でない。
次の日になっても彼女桐花夏夏呼は学校に来やしなかった。
因みに今日は惰眠を貪らずに済んだ。すっきりと適当に起床をした。愉しみに待っていたからである。
「はい。桐花夏夏呼、欠席」
ぐるりと担任簿に〇をつけた。
つけた……。だけだった。
特に担任の先生は気にしてはいなかった。
そりゃそうだろう。別に休んだ所で、それがズル休みだとしてもどうでもいいことである。
仮令その人が小野倉舞を吊るした犯人だったとしてもどうでもいいことだ。給料には何も反映しないし、警察に任せて置いた方が下手なことするよりマシだ。
大多数。教室に在籍しているクラスメイトだとしても畢竟何も気にしてはいなかった。何とも無残で残忍なことだ。
地上とはこんなにも無慈悲か。ちょっと感傷に浸った。
さて、やや、話は逸れたが、桐花夏夏呼が学校に来なかったので仕方なしに私たちはその人の自宅へ向かったのだ。
もう日が落ちて、でも夜と呼ぶには早すぎる時期に向かった。
なんて中途半端な時に赴くのかと指摘されれば、理由は至極単純明快。天ちゃんにバイトがあったからである。あの伽華さんは用事があるようで、遠慮をされたが概ね予定通りである。
桐花さんの自宅はこじんまりとしたマンションとアパートの中間ぐらいの建物に住んでいた。
築何年なのだろうか。かなりの年季が入っていそうな建物だ。背景と相まって不気味さがあったものだが、しかし、天ちゃんがステップを踏んで踊るように上がるものだから拍子抜けであった。
桐花さんの一室は二階にある。上る際の階段がぎしぎしと軋んでいたので、失った不気味さを取り戻す。
取り戻してその気持ちに浸る境遇はない。
行き慣れたようで、天ちゃんは突き当りまで颯爽と繰り出した。
「ここだわ。桐花って表札掲げられているでしょ」
「まあ。そうですね」
「インターホン押して」
「はあ」
天ちゃんはインターホンで人を呼べないタイプの誰とでも仲良くなれるタイプの人だった。
矛盾撞着でしょう。
けど、だからと言ってその矛盾を正すために天ちゃんに押させるほど面倒臭い奴ではない。
私はインターホンを押した。
ピンポーンっと軽快な音が流れた。
「……」
「……」
「出ないね…」
「これってアポイント取りました?」
「ちゃんと取ったわ。今朝に取った。今晩行くって。ついさっきも今から行くとメッセージを送ったわ」
そう言ってメッセンジャーアプリを提示してみせてくれた。
「既読ついてないじゃないですか」
「まあ。でもアポは取っている訳だから……。居るんじゃない?」と言うと躊躇もなくインターホンを押した。矛盾的だった。
「……」
「……」
「コールしても出てこない」
「なんだろうね。もしかして寝てるとか?」
「いくら不健康な人でもこんな微妙な時間に寝るとは到底考えられない。まして健康な人なら論外だ」
「勿論、桐花は前者だけど。まあ確かに夕方から寝るのもどうにかしているわ。こんな時間に寝るということは明日学校行くつもりがないということだもの。で、どうする?開かないならもう諦める?」
「いいや……」
汗が滴り落ちる。何とも言えないが、何故だが嫌な予感がしてならない。
「管理人さんとかいますか?いるのだったらその人に行って開けて貰いましょう」
「そ、そうね」
余りにもぎこちなく賛成した。そこまでやるのかっていう顔が滲み出ている。もっと取り繕って貰わないと、傷つく。
だから、言い出しっぺはカギは取りに行く。
私は天ちゃんから管理人さんのいるところを訊きだし、カギを取りに行った。
学生証を見せたなら、すぐさま貸してくれた。私の住むマンションならばこうも行かない。だからこそ、ここの防犯意識と言うのは欠けているように感じたが、今はそれが逆に好都合であった。
「借りて来ました」
「わー」
私は鍵穴に差し込み、捻り開ける。
開けると同時に、光が漏れだした。
「あれ?電気付いてる」と言う疑問を口にする前に、気圧された。この家の圧迫感は凄かったのだ。
溢れていた。色々なものが。
「ねえ。桐花さんって一人暮らし?」
「そうだね。うん。だから辛うじて踏み場はあるけどこんなに散らかっているのだと思う。前来た時よりもこれは流石にって感じだけども。アポを取ったって整理をしないらしい」
この家の散らかりようはゴミ屋敷と言うより“もの”が多すぎることに起因している。廊下にまで棚が設置され、本やらゲームカセットが敷き詰められているのだ。
本好きは本棚で圧死することをお望みと言うのが一般的である。夏夏呼が本好きかどうかは確認のしようがないけれど、まあ、本の量よりもゲームカセットの方が矢鱈と多いので、ゲーマーであるのだろう。
では、ゲーマーも本好きも結果が一緒ではないか。
私は意外に読書家であるのだがそうは思わないけど。
これは電気がついてなかったら、私はおそらくはどっかの棚の角に頭をぶつけていて、本棚が倒れて来て望まぬ圧死事件が発生する所であった。
電気が付いてなくても付けるだけなのだが、それはイフの話だ。
けど、今は付いていることに私は直感的に妙だなと感じた。前記したように本棚が倒れてきているような深刻な雰囲気は直感に反するけれど、足早に桐花さんの場所へと向かうべきだった。
まるでジャングル宛らであるこの家の廊下を前進する。
棚が転倒して圧死するかと言う恐怖をかなぐり捨てて向かった。
向かえば向かう程何故だか嫌な予感がした。禍々しい空気がこの部屋中に充満し、目見て黒いと思ったからである。
この感覚は小野倉さんが吊るされていた時と同じである。あの時は高揚感が心を支配してそれどころではなかったけれども。まああの事件との類似点があるのならそれはそれでまずいことだ。急ぎ向かうべきだ。
そうすると一番奥手に居間であり、寝室であった。
寝室だと言ったのは、そこに敷布団があったから。そして、それを被っている人間がいたからである。
「あら。夏夏呼、寝てるじゃない」
別に何もなかったじゃないと胸をほっとなでおろした天ちゃんに申し訳ないが、違うこれは。
揺さぶってみる。特に何も反応がない。別に死んでいる訳ではないが、死んだように寝ている。
ぐったりと、まるで傀儡人形のようにぐったりとしている。手足を持てばだらりと落ちる。
「これは事件。紛れもなく自然発生的でない」




