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Resign  作者: Nomulesse oblige


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10/23

10、13日の金曜日は結構起こるものだ。

 ようやく人間界にも慣れた頃合いだろうか。

 ここに落ちてから、一週間とそこらが経っただろう。

 大分馴染めて来たかと思うだろう。

 神の習慣と人間の習慣はさほど変わらない。人間の方が下賤である印象が強いのを除けば、概ね同じくらいだった。


 あれ?と違和感を持つ。もっと劇的に変わるかと思っていた。

 だけれど、同じ……。私がこうした意味はあったのだろうか。

 こう思えば、ここがもしかしてまだ天界にいるのではないかと勘繰ってしまう。


 目を開ける。

 昨日と同じ天井だった。時計も立てかけてある。

 惰眠を貪り尽くし、今はもうずいぶんな時間が経過しているようだ。今日はギリギリな登校になりそうだ。


 なのに億劫になってしまっている。言い訳がましく視線誘導されるかのように目に付いたカレンダーを見つめていた。私のような長く生きているものであれば、ただ地球が一周するくらい歯牙にもかけないことであるのに、今日はそれがとても気になったものである。


 けどもご丁寧に、この部屋にはカレンダーが掛けられていた。この部屋はその現在進行形で長命である後輩が用意したものであるのに。


 いくら知恵の神であったとしても、一日一日を過度に気にするようなタイプに見えない。

 スマートフォンという文明があるのだから、もうその紙切れだけの情報では物足りない。

 いや、これを置いたのは別の意味があってだ。このカレンダーに書き込みがあったのだ。

 今日から一か月くらい後の休日にぐるぐると筆で丸してあった。


 『後輩と会う日』と書いてあった。その下に紙幅がなかったのかその日の枠にはみ出す様にハートが描かれている。—―なら、要らなかったんじゃないか?

 まあ、つまりこのカレンダーはこれを伝えるためなのだろう。


 一日一日を大切にする奴ではなく、私と会えない日々を一日千秋と感じるような奴という訳だ。

 そりゃいい後輩を持ったなと感じるべきなのだろうけど、ここまでされると何とも引いてしまう。神は寿命長いのだから一か月など人間ベースなら十秒もないだろう?しかし、ここまで織り込み済みで書いているからこそ質が悪いというものだ。そんな子に育てた覚えはないんだけど……。


 ああ。今日はいい日にならなそうだ。

 だって今日は十三日だったのだ。金曜日の。



 仮にも元神であるのにそのような迷信紛いの道聴塗説を引き合いに不幸の説明をするのか。これは後輩が笑いこけて人間になった私をコケにしますよ。けれど、私は声を大にして言いたい。これは意外にも馬鹿にできないと。


 十三日の金曜日と言うのは英語圏、独語圏、仏語圏などで不吉なものとされている。

 イタリア語やスペイン語ではまた違ったものが不吉とされているが考えないものとする。

 英仏独語と言うのは意外と世界の言語割合が高いものだ。その共通認識が世界中に広まっていると言っても過言ではない。現に発祥とは程遠い日本でもこれは何となく不吉な日であるとなっている。

 この認識が不幸を引き起こす場合がある。俗にプラシーボ効果と言う。

 だから馬鹿にできないのだ。警戒して損はないはずだ。


「ね~ね~。今日は~今日は十三日の金曜日だね~」とおっとりとした口調で伽華さんはそんなことを言った。


 こんなぼおっとしている伽華さんですらこの迷信を知っているのだ。

 全世界プラシーボ効果にでも掛かっているかもしれない。大層警戒心をより一層高めなければ。


「と言ってこれは特に何もないんだろ?個人的には十二月二十五日や二月十四日の方が重要だな」

「クリスマスとバレンタインだわ」

「今はフリーだから捕まえんのよ。全てのリソースとペックを総動員して勝者になるのよ」

「ハンターの目をしている」

「ハンターの目をしないと捕まえられないのよ。私は。お気楽三人衆と一緒にしないで」


 私、伽華さん、天ちゃん。今いる全ての人を見た。

 いつもの桐花さんはまだ来ていない。


「私は意外と頑張っちゃっているんだけど?舞以上に努力してるんじゃないかと思うわ」

「そうだとしても報われちゃっているじゃんか。報われない努力もあるけど、今はそれに縋るべきじゃない。可能性ってそれだけで頑張れるの。だから合コンのセッティング忘れないよね」

「ああ。そんな話もあったわね」

「忘れてんなよ。私は藁をも摑む思いで縋ってるんだから」

「はいはい。じゃあ。人でも集めて置いてよ」

「おっけー」と跳ね上がった。

「ああ。だとしても何が何でも天地がひっくり返っても凛香と恵神は呼ばないからな。私より若干レベルが落ちる。そんな奴を連れていく。そう。人員選択から合コンは始まっていると言っても過言ではないのだっ!」と、合コンのプロは申しております。


 自信満々に、その百戦錬磨のそのデータで。しかし、こと合コンに関しては百戦錬磨ではなく、一発で仕留めた方が勝者であるだろうけど。


 量ではなく結果。

 そもそも合コンを開いている時点で努力しないと作れないような人は……。おっと小野倉さんから怪訝な顔をされている。


 呆れた目線をそんな顔で返されたのだ。

 嫉妬で。


「残念だね~。私、行きたかったなあ~」


 伽華さんは少し意外な反応を見せた。当然私側の意見ではないにせよ、曲がりなりにも結果的には同じであると勝手に推察していた。


「どうして?」と思わず訊いてしまうほどには意外性があった。

「え~。だって楽しいじゃ~ん。皆張り切ってくれるから、お店とか意外に美味しい店とか見つかるし、カラオケだって私は好きなんだよ~」


 伽華さんは純粋だった。至って不純がなかった。

 対して不純物しか入っていない小野倉さんは「そんな甘い気持ちで来るな。そんな気持ちで私はいつも蔑ろにされて来たんだからなっ。合コンis戦争」と声を荒げて叫んだ。


「御免御免。流石に私は行かないよお~」

「そうしてくれ。合コンクラッシャー」

「そんな酷い名前。やめてよ~」

「と言うか、主催が天ちゃんなら、天ちゃんは来るんですか?」


 なんて言ったら、いらん事言うなよみたいな感じで小野倉さんが睨み付けて来た。いや、私は参加を見送るけど重要事項でしょう。


「私は……。別に、別にとか誤魔化してもしょうがないわ。正直行きたくない。けど、主催するから行かないとでしょ」

「そ、そんあ……」


 小野倉さんは床に跪いた。邪な思いで、主催してもらって鮮やかな本末転倒でしかない。


「主催しても、出ない方法を……」

「私の信用がなくなるわ」

「ガッ。そ、そんあ。いや、待て。待てよ。私よりレベルの若干低い奴を連れていくと言ったがそれを変更して、私より数段階乃至、数万段階落ちた奴を連れて行けばいいんだ。そうだ。簡単なことだ。敵を一人にすれば私にも勝機がある」

「ははは~。最低だね~」

「最低でも結構。私は勝ちに行くんだああああ」


 うおおおお。と躍起に熱気に燃え盛っている。全国大会の決勝のような雰囲気を一人で出している。

 そこまでして彼氏が欲しいのか。その気持ちはよく分からないが、熱中できるものを持っているのは美しいと感じる。

 うっとりとした微笑ましい目線で見つめるが、癪に障ったようで踵を返した。


「まず、手始めは夏夏呼だろお」

「まだ、来てませんけど」

「そうだな。可笑しいわ。こんな遅刻するような奴でしたっけ?」

「そんな人でしたよ~」

「まあ。いい。私のための合コンを成功させる駒として昇降口にでも迎えに行きますよ」


 紳士っぽく言った。下心しかない紳士。

 変態紳士よりも質の悪い人間ではないのか。その変態は一目散に宣言通りに飛び出していった。


「朝から騒がしいやつだね~。元気があっていいと思うけど~」

「夏夏呼がいたらもっと騒がしかったと思う」

「確かに」

「けど、もうホームルーム始まるけどいいのか?」


 私は根本的なことを尋ねた。

 大丈夫?見切り発車も良いところだろう?


「あ」と皆が口を揃えて言う時、チャイムが鳴り響いた。

「どうする?」

「ほっとけば?帰ってくるわ」

 どこか安心感のある声だった。

「早く椅子に座りましょう?」と鶴の一声で離散した。



 なんてことないホームルームが始まった。

 先生が形式的に私の自己紹介と言うのを除いた昨日と同じようなことをしている。良くも悪くも世に蔓延る公務員教師と言うことだ。


 まあ。別にそれで困るようなものではない。

 自己流でやられるよりも、マニュアル通りに熟す人間の方がいいに決まっている。

 殊、画一的な人間を作ろうとする教育機関ついて理想像的ではないだろうか。そうやって国民国家が誕生したのだから別に悪いことではない。

 天にいた私もそんな画一的な生物ではあったのだろう。

 あれを客観的に見ればその先生と言う奴のなのだろう。

 なんだか、機械だ。

 苗字を呼んで確認する行為であるからこそとも言えるのだろう。


「小野倉舞……欠席」

「桐花夏夏呼……欠席」

「きずなあまね……欠席」


 きずなあまね。

 ああ。隣の人そういう名前なのか。先生は席も見ずに、適当に名簿にチェックを付けた。欠席を常習的にしているのだろう。故に昨日は教科書を先生から借りなければならなかった間接的原因がある人だ。

 まるで廉があるような言い方だが仕方がない。


 多分廉がある。まあどうでもいい。

 今由々しきことが起こったとしても、何かが終わった気がしてもどうでもいいのだ。

 それよりも目の前のホームルームで小野倉さんが途中で帰ってくるかとソワソワとしているのだ。

 ほらあれだ。なんか怒られる他人がいる気がするとなればがむかむかしてこないかい?私はしばしばあるのだけれど。

 しかし、この心配はとっくに杞憂だった。

 遂にはホームルームが終わるまで桐花夏夏呼は帰ってこなかった。



 ホームルームが終わるや否や天ちゃんは私の方に向き直り「舞が帰って来ませんわ。途中参加になると思いましたのに」と心配そうに言う。


「夏夏呼は休みだと納得できるけど、流石に舞は今日ここにきてくだらない話をしていたから……」

「どうします?探しに行きます?」

「そうするべきだわ」

「私もそうだと思います~」


 どこから湧いたか分からないけど、伽華さんが来た。

 こんなに深刻そうな話であってもニコニコとどこか抜けている表情を見せていた。


「じゃあ昇降口から……」

「いや……」


 私は思う。そんな所にいない。それは直感的にも、そして論理的にも分かる。

 だから違和感のあった場所へと、その場所の名前を言った。あれはそれと関係している。


「?どうして?」と天ちゃんは首を傾いだけど、「はじめさ~。移動教室だから、ついででいいんじゃない~?」と言う伽華さんの助け舟のおかげで説明する手間が省けた。


 そことは昨日の所。校舎の最東端。

 急ぎ私たちは向って――声にもならない声を上げた。


 どうしてかって?


 小野倉舞が無残にもキリストのように十字架に吊るされて気絶していたからだ。或いは奇絶だった。

 そこに丁度良く計算され尽くしたかのように太陽が差し込む。

 てらてらと炯々に照らされた小野倉舞が不覚にも美しかった。不幸にも。

 本当のキリストかと思った。


 この光景に私は高揚した。どうしてこうなっているか分からないからだ。

 この感覚は新鮮そのものだったからだ。人間はこのような面白い感情を抱いているのか。

 あはは。私は多分人のしてはいけない顔をしているような気がしてならない。

 まあ。こんなことが起こるのは仕方がない。

 だって今日は十三日の金曜日なのだから。



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