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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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91 修学旅行ってやつ(3)

「風呂上がりの女子は格別だ」

 というのは日向のセリフ。


 そんなわけで、まだ髪が濡れている日向が、大浴場前の竹で出来たベンチに座る。

「格別って何」

 なんて言いつつ、まあ、僕も、ちょっと気にはなるわけで。


 莉子の風呂上がり姿か。

 風呂上がり姿を見たことがないとは言わない。けど、前に見たのは多分小学3年かそこらだろう。

 ちょっと、ドキドキする。

 どんな服を着てるんだろう。

 ジャージ……ではないだろうし、パジャマってのも違うだろう。まあ、Tシャツかな。

 少し湿気を帯びたTシャツか。

 うん。

 確かに風呂上がり、いいかもしれない。タオル持ってるだけで、アリかもしれない。


 文句を言いながら、近くにあった自販機で買った小さな炭酸飲料を開けて、日向の隣に座る。


 いや、僕は期待してここにいるわけじゃないけど。


 しかし、そのすぐ後、風呂から出てきたのはうちのクラスの男子どもだった。


「なになに、尚人、奥さん待ち?」

「違うって、休憩」


 否定しつつも、“奥さん”なんていう言葉をスルーする。

 それは悪くない言葉だった。

 とはいえ、付き合ってもいないのに、莉子をそう呼ぶのは正直虚しい。


「え、とうとう付き合った?」

「そりゃあ、あれだけ熱烈に宣言されれば、莉子だって靡くよなぁ」

 なんていうヤツが出てくるだろ。

「いんや。付き合ってない」

 と、返事をするのも虚しくなる。


「じゃあ、風呂上がり見たいがための出待ちかよ」

 それは、間違っていると言いたいところだが、言い切れないのも残念な話だ。

「あー、じゃあ、俺らもここにいるかぁ」

 お前こそ、女子の風呂上がり目当てじゃないのか。

「ああ、木を隠すには森の中ってな」

「俺らも莉子見てれば、尚人のキモさが目立たなくなるってことか」

 キモいとか言うなよ。

 ……キモい、か?


「莉子まだかなぁ〜」

 なんて他の男の言葉は、冗談でも聞きたくはなかったわけで。

 こんな冗談みたいな調子で、コイツらに莉子の風呂上がりを注目させたくもないわけで。


 ずざっ!


 と僕は立ち上がって。

「お前ら、部屋戻るぞ!」

 と叫ぶ。

「ちぇー」

 みんなは不満そうだ。

 けど、莉子をみんなの前に晒すくらいなら、僕も見ない方がいい。

 みんなは不満そうながらも、おとなしく僕についてくる。

「戻って大富豪でもしよ」




 結局、僕らがカードゲームなんて勤しんでいるところへ。

「はろー」

 部屋の前に立った数人の女子の中に、莉子はいたわけだけど。

「入っていい?」

 と女子の一人が言う。


 莉子を気にしつつも、

「どうぞ」

 そっけなく対応した。


 部屋に入ってくる莉子と目が合って、つい、風呂上がりをわざわざ見ようとしたことが思い出され、ちょっと気まずくなる。

「あ……、えと」

「ん?」


 肩までの短い髪に、白い丈の長いTシャツ。それにレギンス。

 髪はもうすっかり乾いていて、それだけではもう風呂上がりかどうかなんてわからない。

 わからない、けど。


「いや、なんでもないよ」

 耳を熱くしながら目を逸らす。


「変な尚」

 ぷいっと行ってしまう。

「ほんと、何でもないって」

 僕は、莉子の隣に座るべく、慌ててそのあとを追った。

お泊まり特有のイベント、風呂上がり!

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