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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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90 修学旅行ってやつ(2)

「うわぁ」

「すごい場所だね」

 あたしたちは、修学旅行で京都にいた。

 正直、うちはあまり旅行へ行くことがない。京都へ来たのは初めてだ。


 橋の真ん中に立つ。

 わあっと手を広げ、

「あたしだけの世界になったみたい」

 なんて言ったら、他の4人が「ふふっ」と笑う。


 これだけを見ると、あたしが一番はしゃいでいるみたいだけど、その実一番はしゃいでいるのは綾だった。

 どこに行っても目をキラキラとさせて、フラフラと綺麗な場所へ向かっていってしまう。


「今日は、絵、描かなくていいの?」

 見かねた優香が姉御肌な声を出す。

「大丈夫」

 綾は、フニャッと笑顔を見せた。

「みんなとの思い出を大事にしたいの」

 綾の目は、やっぱりキラキラ輝いていた。

「みんなと楽しんで楽しんで楽しんだら……。そしたら、帰ってから絵が描きたくなるんだと思う」


「なるほどねぇ」

 と言う優香も、きっと帰ってから何か曲を作るのだろう。何か思いついたらしく、ニヤニヤとしている。


 尚と中川くんは、後ろからアイスを食べながらついてきていた。

「さっきコロッケ食べてなかったっけ?」

「これはコロッケじゃないからなぁ」

 中川くんが、無理矢理な言い訳をする。

「そんなに食べて、お昼入らなかったらどうするの」

 優香がニヤニヤと言う。そのイタズラっぽい微笑みは、昼食二人前くらいは食べてしまいそうな顔だ。

「食べれるし」

「じゃあ、中川がアイス食べきっちゃう前にお昼ご飯にしよ!」

「いいね〜」

 優香の後に、あたしが続いた。


 たくさんの人がいた。

 観光地だから、それはもちろんそうなんだろう。

 ざわついた人混みの中で。

 秋の雲の下で。

 知らない人の中で。

 5人だけでいるというのは、なんだか不思議な気持ちだった。


 くるりと振り返ると、尚がこちらを見て面白そうに笑っている。


 なんだろう。目が離せない。

 目が離せないのは、きっと尚がこっちをじっと見ているからでもあるような気がした。


 今なら、もう少し、素直になっても大丈夫なんじゃないかって、そんな気さえしてしまうような。


 そんな、知らない場所だ。




 そんな気持ちが伝わってしまったのか、とん、と肩に触れながら隣に並んだのは尚だった。

「アイス、好きでしょ」

 なんて言いながら、自分の食べているアイスを差し出してくる。


 いやいやいやいや。


 何やってんだ、こいつ。って思ったけど、よくよく考えれば、こういうのは初めてじゃない。小学生の頃を思えば、普通にやっていた気がする。

 今でも拓真相手なら、気にせずにできたりするんだけど。


 緊張しつつも、あたしは、

「あ、うん」

 としか言えなかった。


 できるだけ、口をつけていなさそうなところを少しだけいただく。

 口の中のアイスが広がっていく瞬間、「ふっ」と笑えてしまった。

「おいし」

「だろ?」


 尚が面白そうに、あたしの隣で笑った。

つい、ニコニコしちゃう二人。

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