89 修学旅行ってやつ(1)
「全員いるなー!?」
雑な点呼のあと、制服姿の学生たちが新幹線に乗り込んで行く。
今日から僕たちは、修学旅行というやつだった。
前に修学旅行に行ったのは中学の時。
あの時、僕はもう既に自分の気持ちを自覚していて。だからといって何かできるわけでもなく、男子と積極的に一緒にいたっけ。
とはいえ、莉子の風呂上がりの姿は、目に焼きついているわけだけど。
今回は、同じ班なわけで。
隣同士に座れたりもするんじゃないだろうか。
なんて思ったのも一瞬で。
吉岡は窓際の席で絵を描いており、その隣が莉子。どうやら無我夢中になっている吉岡のナイト役を買って出たようだった。
僕の隣は当たり前のように日向だった。
日向がうるさい僕らの席の後ろは、穏やかな空気が流れていた。
「あ、日向」
と日向に声がかかって、連行されていく。
束の間の静けさってやつだな。
ふと後ろを見ると、莉子の姿も何処かへ消えていた。
なんだよ。
外を眺める。
流れていく雲の下は、遠くまで見渡せる山が立ち並んでいる。
感慨深い気持ちでいると、
ボスン、
と隣に誰か座った気配がした。
日向よりも軽いそれは、どう考えても女子特有のもので。
莉子なんじゃないかと、期待するのも当然のこと。
横を見て、
「あ」
と目が合ったのは、アンナだった。
…………は?
とは言わないけれど、うっかり、睨むような目になってしまい、
「揺れたから、バランス崩しちゃって」
と申し訳なさそうな顔をさせてしまう。
「あ、いや」
僕が取り繕うようにそれだけを言うと、アンナは、にっこりと笑顔を見せて立ち上がった。
「困らせるつもりじゃなかった」
と、空気を悪くしないためなのか、明るく言い放つ。
「うん」
僕は何を言っていいかわからず、それだけを言うと、アンナは小さく手を振って歩いていった。
入れ替わりで、莉子が戻ってくる。
目が合ったので、話しかけようとすると、目をそらされた。
え……?
僕が何かした……?
不安になったのも束の間、ちょこん、と隣に座ったのは莉子だった。
「ん」
言葉少なに差し出してきたのは、スティック状のスナックだ。
「うん」
こちらも言葉は少ないまま、スティックを一本つまむ。
カリッと小気味良い音が、僕たちの間に響いた。
「それだけ」
そう言って、莉子が立ち上がったので、
「待って」
慌てて制服の裾を掴む。
「え?」
「もうちょっと、ここにいなよ。日向、しばらく帰って来ないだろうから」
「あぁ……」
キョロキョロと後ろの席を見た莉子だったけれど、結局、
「うん」
と座り直した。
よっしゃ!
「お土産何にしよっか」
「ああ。一緒でいいよな。涼しくなってきたし、どうせ隣とご飯とか言い出すよ」
「そだね。八ツ橋?」
「生八ツ橋美味しそうな」
触れそうなほど近い距離で、のんびりとした空気の中、僕の心臓はドキドキしていた。
窓の外を、あまりにも呑気に、雲が流れていく。
キュンキュンな感じで旅行させてあげたいと思います!




