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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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85 画面の向こう側

 スマホを手に取る。

 そして、置く。

 じっと、スマホを見る。


 この作業を、僕はもう数十回繰り返している。

 ……連絡していいって、言った、よな?


 心臓が、ドキドキした。


 カーテンの隙間をそっと覗いて、莉子の部屋に人の気配がするのを確かめる。

 よし、今は部屋にいる。


 連絡するなら、今だろ。

 スマホの画面をつけると、莉子のプロフィール画面が現れる。

 これで、友達申請して、莉子に承認されれば、莉子と“友達”ってことだ。


 ドキドキする。


 お、押すよ?

 押すからな?


 申請ボタンに、指でそっと触れる。


 お、押した!


 じ……っと画面を見ていると、『友達申請が承認されました。』なんていうお知らせがすぐに出てきた。


 よ、よし!


 思った通り、返事は早い。


 これで、かなり頑張った気がする。

 いや、まだただの“友達”なんだけど。

 それは、正直なところ、日向と同レベルだ。

 僕は知っていた。

 日向のスマホには、莉子の連絡先が“友達”として登録されている。

 それはまあ、二人が体育祭実行委員なんてやっていたからなんだけど、そんなことにまで嫉妬しなくていい日が、やっとやって来た、というレベルで。


 それはそれで嬉しいんだけど。


 僕としては、もう一歩、莉子に近づきたいのだった。


 まず、なんて送る?

 ひとしきり悩んで、1時間ほど経った頃。

 ……もしかして、通話の方が簡単か?

 なんて思えてくる。


 ……用事がなくても、連絡するとは言ってあるし、うん。


 手が、震える。


 ドキドキドキドキ。


 僕は、ビデオ通話のボタンを、全身全霊をかけてタップした。


 トゥルルルルル。トゥルルルルル。


 呼び出し音が小さく聞こえる。

 何かの宣告でも受ける前の気分だ。

 息がしづらい。


 なんて言おう。なんて?


 何も思いつかないまま、画面がパッと変わる。

 白い壁。雰囲気を損なわない程度に、小さなポスターが2枚ほど貼ってあるのが見える。

 莉子の部屋の壁、か。


 この間、莉子を追いかけて窓から乗り込んだときは、すごく久々に入った時だったけれど、その時も部屋の様子を見る余裕なんてなかった。

 その前は……、中学の時だっただろうか。

 デザイン好きって言ってたし、今、こんななんだな。


「……莉子?」


 おそるおそる、声をかけた。


「あ、うん。どうしたの?」

 話しながら、ひょこっと画面に莉子が出てきた。

 画面の角度からして、デスクからの景色のようだった。


「用事はないんだけどさ」

 莉子の顔を見ると、あれほど緊張していたのに、見えているのはやっぱり莉子で、なんだか拍子抜けしてしまう。

 莉子の「ふふっ」という嬉しそうな声を聞いて、気づけば僕は、すっかり安心しきっていた。


「今、何してた?」

「英語の課題」

「そんなのあったっけ?」

「あったよ。『2学期も始まったばかりで腑抜けな君たちに〜』」

 なんて、莉子が英語教師の真似をした。

「ふははっ」


 なんだ。

 こんな会話も出来るんだな。

 画面の向こう、ちょっと緩んだ莉子の顔が愛しくて。


 僕は、画面の向こうに見えないように、そっとスマホの画面に触れたんだ。

やっとほのぼのイチャイチャになってきたー!

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