84 小さなプリンが繋ぐもの
汗が吹き出す。
拓真の部屋が暑いわけじゃない。
特に恋愛相談してるわけでもない。
というか、あんなことがあった相手に、恋愛相談をするほどあたしだって無神経じゃない。
ただ、いつも通り拓真の部屋にいるだけだ。
正直、拓真と一緒にいて、気まずくないと言ったら嘘になる。
けど、カーテンが開いたから。
開いたカーテンの向こうで、拓真がいつも通りに笑って、その腕を広げてくれたから、あたしは今日もここにいるのだ。
「今まで通りに、な」
なんていう言葉を、信じてもいいのかわからなかったけど、拓真と疎遠になるのを望んでいるわけじゃないから。
そんなわけでここにいるわけだけど、あたしは何より、床に転がっている紙の束が異様に気になっていた。
一番上の紙には、金髪で巨乳の女の子のラフ絵が描いてある。そして、左下には、『R-18』と書いてあるわけで。
これ……ほんとに描いてるんだ……。
そりゃあ、突然上がり込んだのはあたし。
あたし相手に体裁を保てとはいわないし、片付け忘れたなら仕方がない。
別に読むわけじゃないし〜ぃ。
なんて思いつつ、拓真が席を立った時に、ついモゾモゾしてしまう。
ど、どういうの描いてるんだろう。
あたしが見るのはやっぱりまずいだろうか。
でもでも、あたしだってもう17歳だし。ラフならセーフ、なんてことはないだろうか。ほら、表紙に『R-18』って書いてあるだけで、肝心のそういうシーンまで事細かに描いてあるとは限らないし。拓真の二次創作って読んだことないから正直気になるわけで。それにそれに、もしかしたら、こういうものの中に、尚を!骨抜きに!する方法が載ってたりするんじゃない?性的に!
よじよじよじ、と正座で座ったままその紙の束が置いてある部屋の隅へ動いていく。
あと50センチ〜〜〜〜……。
そ〜っと手を伸ばしたその時。
ガチャリ。
二人分のプリンを持ってきた拓真と目があった。
「ぅおおおおおおおい」
珍しく、拓真の眼鏡がずり落ちる。
目が合った途端、気恥ずかしさに顔を赤くしつつ、「あはははははは」と誤魔化してみせる。
「莉子ちゃぁん……」
膝からくずおれた拓真が、死の間際の手を伸ばす。
「危険だから離れて…………」
「ご、ごめんごめん」
結局、拓真が無言でデスクの引き出しに仕舞い込み、丁寧に鍵までかけてしまった。
「まぁまぁ、どうぞ」
と、床に置いたお盆の上の、プリンを差し出される。
「おいしい」
その、小さな瓶に入ったプリンは、思いの外濃厚で美味しかった。
「この間、新しいケーキ屋できたろ?そこの」
そういえば、オシャレなお店が出来てたっけ。
「あたし、これ食べていいの?」
拓真がふっと笑う。
「今日くらいに来るんじゃないかと思って買っておいた」
あまりにも予想外の言葉が返ってきて、つい、手が止まる。
「こんな風に甘やかすから甘えちゃうんじゃん〜」
拓真が、嬉しそうに笑う。
「いいじゃん。まあ、妹としてよろしくってことでさ」
色々ありつつも元に戻りたいってことで。




