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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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83 関係は変わっていく?(3)

 なんで、二人きりになっちゃったんだろう。


 こんな風に二人でご飯なんて、今までたくさんあって、特別なんかじゃないのに。

 あたしが特別なわけじゃないのに。

 わかってるのに。


 今までと同じように、って思うのに、なんだかうまくいかなかった。


 そしてそれが、嬉しいと思ってしまう、自分の単純さに、少し落ち込む。

 ……こういうのを、期待してしまうっていうんだろう。

 あたしと尚は幼なじみで、恋愛感情っていうのはないはずなのに。


 でも、もしかしたらって思う。


 尚が、あたしを好きになる?


 そんなこと……あるはずが……。




 目の前の、真剣な顔をする尚を見る。


 どんなことを言われるんだろう。

 改めて話、とか。


 ドキドキしていると、尚が慎重に慎重を重ねた口調で、こう言ったのだ。

「あのさ、莉子の、連絡先、教えてもらいたくて」


「……え?」

 拍子抜けする。

 何か、大事な話をされるのかと思ったじゃないか。

「グループの一覧に入ってるやつ、何かあったら連絡してきなよ」


 何の気なしに答える。

 けど、尚は真剣な眼差しのまま、こちらを見ていた。


 え?


「そうじゃなくて、何にもなくても、連絡したいんだけど」


「え、うん」


 それは、なんでもないことのはずだった。

 きっと、離れてる間、困ることもあったんだろうって、それくらい。


 けど。


 尚があまりにも照れるから。


 何か勘違いしてしまいそうだ。


 ちがう。

 いくら、一人で寂しかったからって、突然それが恋愛感情になったってことじゃない。


「じゃあ、今度、連絡する」


 きっと寂しかっただけだ。

 友達として。


「わかった」

 出来るだけ普通に返事をする。


 けど、ズルズルとジュースを飲みながら、思う。


 もし、尚と付き合うことになったら?


 それは、万が一、のことだけれど。

 可能性がゼロじゃなくて、もし、尚が、あたしのことを好きになったら……。


 汗が吹き出す。

 まだまだ夏の暑さだっていうのに、それは寒い時にかく汗みたいだった。


 そんなこと、今まで考えたことがなかった。

 そもそも、アンナちゃんがいたから、そんなことを考える余裕なんてなかった。


 けど、思いついてしまったんだからしょうがない。


 今はもちろんまだ無理だ。

 告白したところで、『ごめん、莉子は幼なじみだし、そういう風に見たことがなかったんだ』なんて、申し訳なさそうに返事をする尚しか思い浮かばない。

 かなりリアルに思い浮かんでしまうところが、幼なじみすぎて悲しかったりもする。


 けど。

 これから。


 もし、あたしがもっと魅力的になって。大人っぽくなって。尚がそれに気づいてくれたなら。


 もし、付き合うことになったら。

 こうして二人で出かけたりとか。出かけるだけじゃなくて手とか繋いじゃったりとか?

 もしくは……。


 そのあとはちょっと想像しきれないかも。


 そんなことを思いながら、尚の顔を見た。

 久しぶりに、にこっと犬みたいな笑顔を正面から見る。


 だから思わずあたしは、かぁっと顔を熱くしてしまって、どうにもできなくなってしまったんだ。

やっと一歩前進、でしょうかね。

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