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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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86/88

86 「ごめんなさい」

「あ、弁当取ってくるから先行ってて」

 教室に入る。


 体育の後片付けでちょっと遅くなってしまった昼休み。

 昼食の前に体育なんて、ついてない。

 腹も無駄に空くし。

 不幸中の幸いは、今日は弁当持ってきてるってことだ。今から売店にいったところで、食パンが残ってるかどうかってとこだろう。

 それもただの食パンじゃない。青いチョコペンで今日の格言が書いてあるのだ。


『意味のないものこ』


 途中で切れてんじゃねぇか。

 とまあ、そんなわけで、不人気パンランキングを爆走しているわけだ。


 そんな、一人教室に入った昼休みのことだった。


「尚人」

 僕の名前を呼ぶ声に釣られて、後ろを振り返る。

 教室の扉を塞ぐように立っていたのは、他でもないアンナだった。

 ……あまり、会いたくはなかった。


 横を通り過ぎようとすると、袖を掴まれる。

「話があるんだけど」

「……何?」

 その上目遣いの潤んだ目に、嫌悪感を抱いた。


「夏休みは、ごめんなさい。尚人ともっと仲良くなりたい一心だったんだ。けど、迷惑、だったんだよね?」

「……うん」

「今なら、わかる。あれじゃダメだったんだって。だから……、ごめんなさい」


 こちらを見つめるアンナの目は、潤んでいるというより、既に泣いていると表現した方が的確なくらいだった。

 けれどそれを見たところで、早く解放してほしいとしか思えない自分がいた。

「……わかった」

 こんな話だなんて。

 アンナに対しては、何を言われても、もう信頼できないと思えた。


「仲直り、したいの。元に戻って欲しいなんて思わない。けど、話すくらいいいでしょ?」

 なんだか、仲が良かったような言い草だなと思う。

 いや、実際、仲は良かったのか。一緒にいた時間だけを考えれば。

 ただそれは、うちで世話をしている父の会社の社長の娘だからで、気持ちがあってのことではなかったけれど。


「同じ家の中で、話もできない人がいるなんて……、ワタシだって辛いし、尚人も辛いでしょ?」

 知ってしまえば、話し方が鼻につく。何も知らない人間が聞けば、まるで一緒に住んでいるみたいだ。アンナはただ、保護者代わりに世話をしている関係でよく家に来るだけに他ならない。わざと曖昧に言っているんだろうか。

 けど。

 言っていることはもっともだと思えた。


「わかった。普通に話すくらいはしよう」


 そう答えるしかなかった。

 本当に反省しているかもしれない人間に対して。同じ家にいることが多い人間に対して。これ以上冷たくする気にもなれなかった。


「二人きりになるとか、一緒に帰るとかは無しだから」

 そう冷たく言い放つと、アンナはにっこりと笑う。


「ありがとう!また話せて嬉しい」


 それは、何も知らない人間が見れば、天使の微笑みと言われても過言ではない喜びの笑顔だった。

 けど、知ってしまった今ならわかる。

 こいつは、自分の魅せ方を知っているんだろう。どの角度が魅力的か。口角をどの程度あげるべきか。

 ただただ呆れる。この作った笑顔を堂々と見せられるこいつにも。そんな笑顔に騙されていた自分にも、だ。

そんなわけでアンナちゃん再登場なのでした〜!

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