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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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77 君を追いかけて(1)

 誰かに言えば、それは自業自得だと切り捨てられる。

 そんなことはわかっている。


 あれ?


 リビングに置かれたスマホに、多大なる違和感を感じた。

 普段は何もついていない、カバーすらつけていない兄貴のスマホに、ストラップが付いていた。

 珍しいこともあるもんだな……。

 それがまた、かわいいペンギンだったから違和感を感じる。

 けど、だからといって何か突っ込むこともなく、その時はそれで終わったのだ。




 あ、莉子。

 玄関を出たところで、隣の家から莉子が出てきたことに気づいた。

 呼び止めようとしたけれど、慌てて走っていく莉子には声は届きそうにない。


 その時、見えてしまったんだ。

 家の門の前を走っていく莉子の持っているカバンに、動物のキーホルダーが、ひとつだけ付いていることに。


 あ……。


 その瞬間、理解してしまった。


 少し前に、兄貴がいない日があった。

 あの日、もしかして、莉子に会ってたんじゃないか?


 いや、落ち着け。莉子がどこかへ行ったお土産ってこともあり得るんだし……。

 なんて自分に言い聞かせるけれど、そんな簡単なものじゃないとわかっている。

 そもそも、どこかへ行ってうちの兄貴にお土産買うってなんだよ……。


 二人は会ってたんだろう。

 この間。

 動物……園に……?


 二人で動物園なんていったら、そんなのもう……。


 ゾッとする。


 僕は……今まで、何やってたんだよ……。


 もう……こんなのは嫌だ。


「まず、話をしないと」


 誤解を解いて。

 そしていつか、告白出来ればいい。もし、気持ちを伝えるだけになったとしても。




 そう思い、翌日には隣の家のインターホンを押していた。

「…………」


 出ない、か。


 沈黙。

 沈黙の中で、ピンポーンという音が、間抜けに響く。

 虚空に手を差し出している気分だ。


 やっぱ、デート誘った相手の前で、別のヤツとデートしてるみたいになったのは……幻滅されて当然……だよな……。

 アンナに散々振り回されたのが悔やまれる。


「莉子?」


 声をかけてみたけれど、返事はなし。

 家にいるのは確かなのに。


 確実に僕は、莉子に避けられていた。


 こんな時、家が隣同士なのはいいことなのか悪いことなのか。

 つい、隣の家を眺めてしまうし、莉子の気配を追ってしまう。声が聞こえるんじゃないかと、耳を澄ませることもしばしばだ。




 ボン、ボン。

 庭に立ててあるバスケットゴールにボールがぶつかる度に、そんな音がする。


 つい、監視、じゃないけれど、どうしても莉子を捕まえたくて、僕はとうとう庭で待つことにした。

 夏休みが終わるまで1週間。いつまででもここにいるつもりだった。


 ボン。

 ボン。


 好きだったはずのボールが跳ねる音。


 ボン。

 ボン。


 キィ……。


 そこで、隣の家の門が動く音がして、咄嗟にそちらを振り向いた。

 そこには、莉子がいた。出かけるところらしく、少しよそ行きの格好で、小さなリュックを持っていた。


「莉子」


 名前を呼ぶと、莉子が、こちらを向いた。


 青い空の下で靡く短い髪。

 門にかかる小さな手。

 泣きそうな顔。


 何か言いたそうに唇が動いたかと思うと、莉子はそのまま、道の向こうへ駆け出した。


「莉子!」


 なんだよ!なんだよ……!


 手に持っていたバスケットボールを庭に投げ出すと、そのまま莉子を追って、自然とかけだしていた。

ここから尚人くんのターン!

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