78 君を追いかけて(2)
莉子の髪のゆらめきを追って、走る。
「莉子!」
必死だった。
あいつ、意外と足速いよな。
角を曲がる。
「あ……れ……?」
そこには、誰もいない道が続いていた。
まるで、今まで見ていたものが夏の蜃気楼ででもあったかのようだ。一瞬、莉子に会いたすぎてみてしまった幻だったんじゃないかと疑うほど。
幻なんかじゃ、ないはずなのに。
駅へ続く道は確かにここが一番近いけれど、回り道をすれば、他の道から行けなくもない。
「莉子……!」
ダメ元で、周りにある塀の中や低木の下を覗く。
側から見れば、探しているのは猫なんじゃないかと思われるくらい。
「なんで……」
そんなに僕と話したくないって……?
けれど、正直、このことはむしろ僕に火を着けた。
そこまで逃げるんなら、意地でも捕まえてやろうじゃんか。
それから、僕と莉子の追いかけっこが始まった。
莉子が出かけている間は、庭でバスケと向き合いながら、莉子の帰りを待った。
いる時にインターホンを鳴らしてみたり、ドアの前でしゃがみ込んだこともあった。
「知ってるか?それ、ストーカーっていうんだぞ?」
電話越しに『明日はバスケに行かない』とだけ言った、日向の返答がこれだった。
「わかってる……。……僕も、おばさんがいる時、差し入れ持って乗り込んだのはやりすぎだったと思ってる」
「お前は……、どれだけ莉子のこと好きなんだよ」
「どれだけって……。言葉には言い表せないくらい、だよ」
「怖…………」
とまあ、そこまでしても会えなかったわけだ。
「会えるようにしてやろうか?莉子なら、オレも友達だし」
「…………」
ひとしきり悩んだ末、
「ちょっと考えておく。出来れば一人でどうにかしたいし」
と答えることになった。
もう正直、背に腹は変えられなくなりつつある。
このままどうにもできなくなって、後悔するのはもうごめんだ。
8月が終わろうとしていた。
コンビニにアイスを買いに行って、家まで帰ってきたところだった。
どこかから帰ってきた莉子が、ちょうど家に着いたところのようだった。
あ。
「莉子!」
慌てて駆け寄る。
僕に気づいた莉子が、同じく慌てて門の中へ入った。
「莉子、話があるんだ。大事な」
「あたしは……!」
それは、久しぶりに聞く莉子の声だった。
泣いているみたいに、波打った声だった。
「尚と話すことなんて、何もないから。今は特に、話なんかしたくない」
「僕にはあるんだ……!聞いてくれるだけでいいから……」
門のところに駆け寄ったところで、莉子が家の中へ入ってしまう。
「莉子!」
最後に顔を合わせた莉子は、もうほとんど泣いているんじゃないかってほど、歪んだ顔をしていた。堪えるように歪んだ眉。いよいよ涙があふれそうな瞳。
そんな顔見せられて……、このまま引き下がれるわけないだろ……!
まだ捕まえられてないようですね!




