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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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75 甘えすぎちゃってたね(3)

 デートの日は、すぐにやってきた。

 もうこれは、考える時間をなくしてデートを実行しようとか、そういう拓真の策略なんじゃないかと思えるほど。


 今日はカーゴパンツにTシャツというコーディネート。

 意識してると言われたら、ぐうの音も出ない格好だけれど、これ以外に考えられなかった。

 まあ、意識してると言えば……、認めざるを得ないわけで。

 足を出す恥ずかしさのほうが勝ってしまったのだ。


 とはいえ、うん。髪はちょっと、可愛くアレンジしてはみたんだけど。


 家の前で会った拓真は、そんな気持ちを知ってか知らずか、ふっと柔らかい笑みを見せただけで、駅へと歩き出す。

 なんでもない顔なのに、あたしはまた顔が熱くなるのを感じた。




「ここって……」

 カラフルに彩られた大きな門の前で、あたしは仁王立ちした。

 拓真が、少し恥ずかしそうに「へへっ」と笑う。


 目の前にあるのは、『動物園』の大きな文字。

「デ、デートって、ほんとにデートなんだね」

「そりゃそうだろ」

 ぐいん、と拓真の顔を覗くように見上げると、拓真は、あたしの視線に合わせて何処かあらぬ方を向いてしまう。

「ホントは、遊園地とか、もっとデートっぽいとこにしようかと思ったんだけど、……それじゃ俺たちっぽくないだろ」


 ……拓真が照れてる……。


 そんなの、ホントにあたしのこと、好きなんじゃんって、実感してしまう。

 そんな顔されると、あたしまで照れちゃうんだからね?


 そんな空気を払拭するべく、あたしは一息にまくしたてた。

「あ、うん。楽しそう!あ、あたしプレーリードックとか見たいな。拓真はどう?象とかキリンは?デッサンとかしてもいいからね?今日はありがたいことに風が吹いてるし。そんなに暑くもないから。綾が動物園に行くときはね、なんでもかんでも描いてみたいものが多すぎて、デッサンもするんだけど、写真の量がすごくて……」


 そこまで言ったところで、あたしは、この早口が逆効果だったんじゃないかと思って口をつぐんだ。

 拓真は上から、あたしの方を眺めていた。


 すごく、優しい目で。


 だから、その目やめてってば……。




 しばらく気まずいまま、二人で歩いた。

 周りは楽しそうな親子連れやカップルばかりで、また少し恥ずかしくなる。


 ホントに、デートみたいだ……。


 もう何度目かの考えを巡らせた頃、いつもの拓真の声が、頭の上から降ってきた。


「次のオリジナルの新作さ、終末ものにしようかと思ってるんだ」

 その声は、いつもの拓真の声だった。

 いつも通りが嬉しくて、そんな拓真に少しドキドキしたりして。


「少女たちがさ、象に乗るのはどうかって」

「へぇ、面白そう」


 なんとかして出した声が、うわずったりしたらどうしようかと思ったけれど。

 あたしの声は思ったよりもいつも通り声が出た。


 話し始めると緊張していたことは忘れて、楽しむことに専念し始める。

 やっぱり、一緒にいるのは楽しいんだから。

 あたしは、歩きながら、拓真の横顔をぼんやりと眺めた。

そんなわけで、この流れのままデート回です!

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