74 甘えすぎちゃってたね(2)
それから一晩経って。
あたしは、暗くした部屋からコッソリと拓真の部屋を見ていた。
窓の下から、そっと顔を出していると、カーテンの向こうでデスクに座ってまた何やらしている拓真の影が見えた。
返事……したほうがいいよね……?
じ……っと見るけど、こういうときってどんな風に言い出せばいいんだろう。
それも、受け入れるのならともかく、お断りするのは心苦しくて。
オロオロしているうちに、夕方といってもいいくらいの時間になった。
家と家の間に、オレンジ色の明かり入ってくる。
悩んでも悩んでも、答えなんて出ないな。
その瞬間だった。
シャッと大きな音を立てて目の前のカーテンが開いた。
そこにいたのは、もちろん拓真だ。
こんなあたしを見て、相変わらずの困り顔。ひそめた眉は、すぐに複雑な模様を描く。
「おいで」
「……え、あー、うん」
歯切れの悪い返事をすると、拓真はその困り顔のまま笑った。
「ほら」
差し出される腕。
だからいつもみたいに、あたしは拓真の部屋に、拓真の腕の中に飛び込んでいったんだ。
床に座り込む。
頭の後ろにはベッド。
膝を抱えるようにして、俯く。
「あのね、拓真。あたしやっぱり……」
その言葉を遮るように、拓真は言葉を被せた。
「そんなつもりじゃなかったんだよ。気を遣わせるとかさ」
見上げた拓真は、優しく笑っていた。
「大丈夫。いつも通りでいいから」
「でも……」
口をパクパクさせるあたしに、拓真は優しく囁いた。何かを言い聞かせるみたいに。
「言いたいことはわかってる。でもさ、俺だって足掻きたい時もあるわけ」
「え?」
「今度、デートしよう」
「け、けど、あたし」
「お試しとか、思い出にとか、そんなので構わないから」
「あ…………」
「まあ、ほら、この状況が、もう俺にとっては、一歩前進だからさ」
「え?」
「いつもだったら、床やらベッドやらでゴロゴロするだろ。今日は違う」
そう。確かに、今日は床にちゃんと座っている。
そんなことに気づかされて、かぁっと顔が熱くなった。
今までもしかして、ショートパンツとかスカートとか、短過ぎた?
スカートの裾を手で払うように伸ばしておく。
「も、もしかしてあたしがここで無防備にしてたから……」
好きになったの?
なんて、言いかけて口をつぐむ。
すると、拓真はあたしのそばにしゃがんで、呆れた顔をした。
「お前もしかして……自分にそれだけの色気があると思ってる?」
「ち、違うの!?」
「そんなのが理由じゃないよ」
そんな風に言われると、改めて、この人はあたしのことが好きなんだ、って感じてしまって。もう、あたしはなんて返していいかわからなかった。
その日は、結局デートの約束をして、戸惑いのままに部屋に戻された。
そんな、デートだなんて言葉を使われるのは、やっぱり初めてのことだから。
結局その日の夜は、一人、ドキドキと向かい合っていた。
そんな風に言われたら、緊張しちゃうじゃないか。
拓真ったら拓真ったら……!
まだお兄ちゃんのターン!




