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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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71 夏は恋愛が動きそうな予感がする(5)

「全部……アンナが騙したのか……?」


 日向がキョトンとした顔で、僕を眺めた。

 じっくり見つめあったあと、理解した日向が、

「うっわ……まじかぁ……」

 と感慨深い声で言う。

「めんどくさいのに好かれたなぁ……」

「他人事だとおもって……」


 その日は、アンナを日向に任せてそのまま帰った。


 もう大丈夫だと思った。

 アンナの本性がわかった今、もう騙されたりしない。

 莉子にも説明する。


 そうすればまた、僕は莉子と一緒にいられるんだって、そう信じて疑わなかった。




 ひとんちの前で誰かを待つなんて、失礼な気がしたけれど、どうしても今日中に莉子と話がしたかった。

 一人で待つ夜の空気は静かで、どこか怖かった。

 街中だから星だって見えない。

 1時間、2時間、と時間は過ぎていった。

 電柱の影だけが、僕が見えるものだった。


 テコテコと、足音がした。

 近づいて来て、お互いが認識できるところで一度止まって、そしてまた足音がした。


「莉子」

 思ったより、泣きそうになった。

 けど、縋ってどうにかなることなら、いくらでも泣きじゃくりたい気持ちだった。


「聞いて欲しいんだけど」

 そう言うと、莉子はきっちり立ったまま、こちらを向いた。

 なにも言わずに、じっとこちらを見ていた。


「今日は二人で行くつもりじゃなくてさ。アンナに……騙されて……。みんながいるって言うから、ついて行ったんだけど、いなくて……。ごめん……。もうこんなこと、無いようにするから」


 莉子は、じっとこちらを見ていた。笑うでも怒るでもなく、ただ、じっと。

 そして、静かに口を開いた。

「ごめん、尚が何を謝ってるのかわからない」

 生気のない声だった。

「……アンナと二人でいたの、見たでしょ」


 莉子の声は、終始静かだった。

「もしそうでも、二人で、あんな場所で、いたのは事実だよ」


 それは、僕の耳をつんざく言葉だった。

 言い訳もできない。

 確かに、二人でいたのは事実だった。


 二人だと分かった時点で帰りもしないで。

 二人で祭りを回ったのは事実だった。


 いつだって、アンナを拒絶することは、出来たはずなのに。


 莉子は、それ以上何も言わず、僕に背を向けた。

 追いかけることは出来なかった。




 それから、静かな夏休みが続いた。

 莉子と出かけるはずだったのに、すっかりそれどころではなくなっていた。


 僕は、自室のベッドで、仰向けに唸るくらいしか出来なかった。

 グループメッセージの、莉子のアイコンをじっと眺める。

 …………こんな理由で、一方的に連絡するわけにはいかないよな。

 クラスで、ストーカーじみた行為をする男ナンバーワンに輝いてしまう。

 莉子があの調子なら、メッセージでなんとなるわけないよなぁ。


「はぁ…………」


 もう、ため息しかでないとはこのことか。

 この夏休み、白い天井の思い出ばかりになりそうだ。

そりゃあ、あんな風に二人でいたくせに「騙されたんだよ」とか言うのはなぁ……。

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