70 夏は恋愛が動きそうな予感がする(4)
後ろ姿を見送った。
莉子は、何も言わなかった。
呆然と見送る僕の隣で、
「痛……っ」
とアンナの声がした。
鼻緒が切れて辛そうだった。
そうだ。アンナを放って莉子を追いかけるわけにもいかないんだ。
苦しい思いを抱えながらも、アンナを人混みから離れたところへ連れて行った。
しんと静まりかえった林のそばは、正直、アンナと二人だと居心地が悪い。
早くなんとかして帰らないと。
「ちょっと見せて」
「うん」
鼻緒部分がブツリと切れている。けど、これならハンカチか何かを代わりにできるんじゃないか?
「僕、コンビニまで行って、ちょっと何か探して来るよ」
くるりと後ろを向くと、
「待って、ワタシも……!」
とアンナが追いかけて来ようとする。
「キャッ……!」
とアンナがバランスを崩して抱きつく格好になった。
「ご、ごめ……」
アンナは慌てて立とうとするけれど、慌てているせいでうまく立つことができない。
「いいから、落ち着いて」
僕は、そんなアンナの頭を、ただ冷めた目で眺めた。
こんなつもりじゃなかったと言うのは、甘えだろうか。
莉子の後ろ姿ばかりが、頭の中を駆け巡る。
「あれ?」
そこで、誰かが声をかけて来た。
アンナの肩を支えたまま、首だけで振り向くと、日向を始めとしたクラスの面々が呆気に取られた顔でこちらを見ていた。
「えっと……」
日向は気まずそうに視線を逸らす。
咄嗟に、言い訳をしなければ……、なんて思ったことを考えると、なんだか浮気現場を見つかったような心境だった。
「何あれ……」
「え、じゃあオレ、莉子狙おっかな」
なんて言葉が耳に入ってくる。
おいおいちょっと待て。この状況にしたのはお前らのほうなんじゃなかった?
日向に視線を向けると、ありがたいことに寄ってきてくれた。
「……どうかしたか?」
「ちょっと、鼻緒が切れちゃってさ。ちょっと直せそうなもの、コンビニで買ってくる」
それを聞いた女子数人が、アンナの方へ寄ってくる。
これ幸いとアンナは女子たちに任せることにする。
「ああ……、じゃ、俺も行くわ」
日向と二人になったところで、早速文句が口をついた。
「なんで今日、アンナと二人になんかさせたわけ?」
「え?」
日向は
キョトンと僕の顔を眺めた。
「そっちだろ。二人で行くって言ったの」
「…………え?」
どう間違っても、アンナと二人で行くっていう選択にはなりようがない。
そもそも、この集まりを知ったのは昨日のことだ。
「あ、いや」
日向が何かを思い出そうと、空を見上げた。
「アンナちゃんの方から聞いたんだったかな」
「………………え?」
その瞬間、パァン!と大きな音がして、空に大輪の花が咲いた。
そこから勢いよくパパパパパと音がした。
「アンナは、そっちが二人きりにさせようとした、って……」
日向が苦笑する。
「ないない。そもそも莉子が好きって知ってんのに」
勢いのついた花火は、連続で大きな花を咲かせていった。
さて、アンナちゃんの計算はどこからでしょうか。




