69 夏は恋愛が動きそうな予感がする(3)
アンナは、もう泣きそうだった。
浴衣を見て、
「せっかくやっと、着れたのにな」
と呟く。
ここまで連れてきた責任のようなものが、僕にはあるんじゃないかと思った。
「いいよ、祭り、回っていこう」
気軽な気持ちで。
それは、ただ友人と歩くだけのつもりで。
僕は多分、甘く見ていた。
着飾った女の子が、どういうつもりで祭りを二人で歩くのかなんて。
潤んだ瞳で僕を見上げて、
「ありがとう」
と言った女の子が、どういう気持ちでそんなことを言ったのかなんて。
そして、そんな風に誰かに見られるのが確定的な、そんなイベントの場所で、二人で歩くことがどう見えるのかって。
深く考えないまま僕は、アンナと一緒に神社へ入った。
「はわわ〜!なんてfantasticなの!あれ!あれは何、尚人!」
「あれは射的」
「食べ物だけじゃないなんてなんてamazing!ワタシもやってみる!」
「うん、どうぞ」
「尚人は!?」
「僕は、そんなに得意じゃないから」
「あ、あれは知ってるわ、尚人!ワタガシ!」
「食べる?」
「ええ!ちょっと買ってくる!」
そんな調子で、終始ハイテンションなままのアンナについて行く。
周りがざわつき始め、もうすぐ花火の時間であることを知った。
……莉子と見たかったんだけど。
去年、クラスのみんなと一緒に、莉子と隣り合って花火を見たことを思い出す。
あの頃は、まさかこんな関係になるなんて思ってもみなかった。……今年は一緒に花火も見れないなんて。
そんな状況を当たり前としか思えずに、莉子の横顔が、ただただ可愛いとしか思えなかったんだよな。
それでも僕は、莉子以外と花火なんて見る気にはなれなくて、アンナに花火のことを言えずにいた。
クラスのみんなを探すって手もあるけれど、『もう帰ろうか』なんていう言葉が喉をせりあがってくる。
そこで、アンナを振り返ると、
「あ」
なんてアンナが声を上げた。
「尚人」
また、困った顔で僕を見上げてくる。
正直もう、巻き込まれたくないと思った。
思ったのだけれど。
「鼻緒が、切れちゃった」
そう言うと、アンナは、こてん、と下に視線を向けた。
それに釣られて見ると、確かにアンナが好んで履いていた草履の鼻緒が切れていた。
流石の僕も、この人混みの中をその状態で帰ろうなんて言えなくなってくる。
「……じゃあ、ちょっと脇に避けて」
人混みから離れるように、神社脇の林のそばへ、アンナを誘導する。
その時だった。
「うわ」
と、後ろで声がした。
振り向くと、そこには見知った顔が並んでいた。
橘、吉岡、それに莉子。
『うわ』というのは橘の声だったようだ。
そして、莉子と目が合う。
莉子が、目を丸くして、信じられないという顔をする。
くるりと踵を返すと、橘と吉岡を連れて、去って行ってしまう。
そこで初めて、そういう勘違いをされているのだと気づいた。
この状況が、どれだけまずいのかということに、やっと気づいたんだ。
テンション上がってる時のアンナちゃんは珍しく素です!




