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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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68 夏は恋愛が動きそうな予感がする(2)

 浴衣が珍しいのか、アンナがはしゃいでいた。

 兄貴が珍しくソファで棒アイスをかじっている。


「兄貴は祭りいかないの?」

 様子を探るように声をかけると、

「行かないよ。人混み嫌いだし」

 なんて言うセリフが返ってくる。

 よく言うよ。莉子のためなら、早朝から夜まで出かけてられるくせに。


 そこで、兄貴が、

「莉子も、祭りはいつも通り友達と行くって言ってたしな」

 なんて、僕の気持ちを見透かしたように言ったので、少しドキリとした。

 そしてそのセリフは、兄貴が莉子を誘った証拠でもあった。

 毎年友達とみんなで出かけてるの、知らないわけじゃないんだろ?

 心底つまらないという視線を兄貴に送る。


 そんなわけで、結局アンナと二人で出かけることになった。

 こんな時ばかりは、莉子の連絡先を聞いておけばよかったと思う。

 それとも、こんな時なら莉子の連絡先をグループメッセから探して、突然連絡してもかまわないだろうか。


 カバンの中のスマホに意識を向ける。

 いや、やめておこう。何も言ってこなかったってことは、いつも通り橘たちと行くってことだろうから。


 アンナと二人で、住宅街の中を歩く。

 夕方に差し掛かった時間だけれど、まだ空は青い。

 いつもは人通りの少ない通りだけれど、この日はいつになく人を見かけた。そしてみんなどこか浮き足立っているように見えた。


 次第に、祭りが行われる神社へとたどり着く。

 神社はここいらでは大きく、神社の外でも多くの屋台が立ち並ぶ。

 人通りはすでに人混みと言っていい程の混雑で、少し目を離すとすぐに見失ってしまいそうだった。


 アンナが髪型を気にしながらこちらを向く。

「入口で待ち合わせだよね。17時待ち合わせだから、そろそろだと思うんだけど」


 時計を見ると、確かに17時5分前だ。


 それにしても……。誰もいなくないか?


 疑問が心の中に浮かんだけれど、しばらく待ってみることにした。

 5分。10分。


 いくらなんでも……。


 アンナもキョロキョロと視線を漂わせている。

 やっぱおかしい、よね。


「待ち合わせ場所変わったのかもしれないし、僕、ちょっと日向に連絡してみるよ」

 何気なくスマホを取り出す。


 すると、アンナが、手に持ったスマホを眺めて、

「あ……」

 困った顔をした。

 目を逸らし、恥ずかしそうにする。

「どうかした?」

 声をかけると、

「それがね、」

 と上目遣いになった。

「みんな、ワタシたちとは別行動、だって」


「え?」


「気を利かせてくれたみたい」

 アンナが困った顔でオロオロとこちらを見てくる。

「どうしよう、こんなつもりじゃなかったのに。みんな、まだワタシと尚人のこと、きっと勘違いしてて」


「そんな……」


 どういうことだ?困惑する。

 みんなの前で、僕が一緒にいたいのは莉子なんだと宣言までしたのに。何でこんなことに……。


 アンナが、困った眉のままで笑顔を作った。

 アンナこそ、僕に気を遣ってくれているみたいだ。


「帰ろっか。流石に………二人っきりは……ダメ、だよね?」

さて、尚人くんはどうするのでしょうか。

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