67 夏は恋愛が動きそうな予感がする(1)
「尚人」
それは夏休みの昼のことだった。
特別何か変わったことがある日じゃない。
ただ、リビングにはアンナが来ていて、話しかけても来ないことに居心地が悪く、自室へ戻ろうとしているところだった。
アンナが、廊下へ出てきてまで追いかけてきたのだ。
話しかけられるのは、久しぶりだと思う。
あの、海に行った時以来だろうか。
「明日ね、みんなでお祭りいくでしょ?」
「明日?」
そういえば、明日は近所の祭りだったか……。
最近グループメッセは見てないけど、そんな話になってるってことか。
僕はできれば、莉子と二人で行きたいんだけど。
「それでね、」
アンナが、恥ずかしそうに目を逸らす。
「場所がちょっとわからなくて……、一緒に行ってもらっても、いいかな」
「…………」
まっすぐに見てくる瞳は、困ったように笑顔を作る。
莉子と二人で行きたいんだけど。
困っているといわれれば、それを蔑ろにすることはできなかった。
それは、助けてもいいか、と思う気持ちももちろんあるけれど、何より今夏休みで毎日家にいる父に、社長の娘を蔑ろにしているところを見せるのは気まずいと思った結果でもあった。
「まあ、いいよ」
そう返事をすると、アンナの瞳に涙が浮かぶ。これ以上ないくらい喜んだ顔で、
「ありがと、尚人」
なんて言ったんだ。
それから、その日はそんなことがあったのを忘れて過ごした。
「ふ〜」
思い出したのは、夜も更けた頃。
一息ついた僕は、ベッドでゴロリと転がった。
そうだ。グループメッセ全然見てなかったな。
スマホを見ると、グループのアイコンには確かに3桁の新着メッセージが入っていた。
ウトウトした頭でメッセージを覗く。
確かにみんなで祭りに行こうという話になっているようだ。
日向がつまらないスタンプを連打しているのが見えた。
あいつ相変わらずだなぁ。
ザクザクと画面をスクロールし、僕は話の流れをよく読みもしないまま、画面を閉じてしまう。
眠気に勝てなかったのもある。
明日、莉子に会えるなら、まあ詳細なんて知らなくてもいいか、なんて思ったのも。
どうせいつもと同じだろと思ったのも。
とにかく僕は、眠気に耐えることもなく、そのまま部屋の暗さに紛れた。
これのせいで困ったことになるなんて、思ってもみなかった。
流石にそんなことは起こらないだろうと、全てを信じ切ってしまっていたのも原因だ。
せめてこの時、待ち合わせ場所くらいは確認しておけば、結果は違っていたと思う。
翌日。
夕方、うちで着物を着るアンナがリビングではしゃいでいた。
「尚人!」
いつの間に、僕とのことを気にしなくなったのか、アンナは、笑顔で僕をリビングに招き入れた。
さて、またアンナちゃんが登場です!




