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僕らは一度も始まらなかったはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。  作者: 大天使ミコエル


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66 君に会いたい(2)

 ショッピングモール特有の、人のざわめきの中で、あたしはハッとした。


 ちょっと気を抜くと、すぐにポーッとしてしまう。

 こんなことじゃいけないよね。今日は、尚とのお出かけで着る服を買いに来たんだから。


 改めてキョロキョロとあたりを見回す。なかなかピンとくるものはない。

 そもそも、行く場所さえ決まっていないのだ。着ていく服がそうそう決められるものでもない。


 最初は、尚が行きたい場所でもあるのかと思ったけれど、

『莉子、行きたい場所ある?』

 なんて、あの犬みたいな微笑みで聞いてきたところを見ると、特に場所が決まっている様子はない。


 ということは。


 ポッ、と顔が熱くなる。


 もしかして……、あたしと出かけること自体が目的なのでは、なんて。


 もしかして、尚はあたしと出かけたいんじゃない?なんて。

 これって、デートなんじゃない?なんて。


 そんな都合のいいこと、あるわけないのに。

 期待するような気持ちになってしまう。


 思い出せ、アンナちゃんのことを。二人きりでいる尚のことを。


 そんなことあるわけないのに。


 きっとこれは、夏休みだから。

 気軽に友達誘って暇を潰そうみたいな、そんな感じに決まってるから。


 けど。


 たとえば、ほら。

 来週には近所で夏祭りがある。

 それほど大きなお祭りではないけれど、浴衣を着る人も多いし、かなり賑わう。


 あの浴衣のカップルみたいに。

 もし、二人で歩けたなら。


 そんな風に思って、また顔を熱くして、やっぱり何を買っていいかわからなくなってしまうのだ。




 悩みに悩んで、一人でドーナツを食べながらやっぱり悩む。

 優香から、

『今日、暇?』

 なんていうメッセージが届いていたので、

『今日は一人で買い物〜』

 なんていうメッセージをスタンプ付きで送った。


『あら、珍しい』

 なんていう返事はすぐに届いた。優香はどうやら暇を持て余しているらしい。

 優香に相談したら、ちょうどいい服を選んでくれそう、なんて思うけど。

 この状況を言うのはちょっとまだ緊張する。

『ちょっと個人的な買い物』

 あっさりとした返事を返すと、

『ふ〜ん』

 なんていうちょっと意味ありげなスタンプが送られてくる。


 ……ちょっと浮かれちゃってるの、バレてないといいけど。




 結局、飾り付きのちょっと豪華なTシャツとショートパンツ、なんていう、普段の服とあまり変わらない服を買った。

 ……これじゃオシャレって言えない、けど。

 まあ、あたしが気合い入れてオシャレして、『そんなつもりじゃなかった』なんて言われても悲しいし。


 自分だけが、その日のために準備したってわかればいいよね。


 ショッパーの持ち手の紐をぎゅっと握る。


 どういう風に思われるかはわからない。

 わからないけど。


 とりあえず今は、尚に会いたいなぁ。

尚人くんの気持ちはあまり伝わってないかもしれないですね!

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